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第二十五話 師匠と弟子

 目覚めると朝になっていた。

 いや、朝が来ないほうがおかしいんだけれども。

 鎌はすでに起きているのかすでにベッドは空いている。

 僕は無理やり頭を覚醒させるとベッドから起き上がる。朝が少し弱めの僕にとっては正直に言うと、これはとんでもないぐらいに負担がかかる。

 頭は無理やり覚醒させたせいで少し痛むし、勢いよく起き上がったものだから心臓はバクバクするし、そのせいで冷や汗かいて体は冷えるし、さらに血の巡りも悪いものだからめまいを起こす。

 負担かかりまくりです。

 少し待ってからベッドから降りて、下に行くとすでにみんな起きていた。

 時刻は7時。そこまで遅い時刻じゃない。

 まあ、みんながそろっているのだから僕が一番最後なのだろう。


「遅い!」

「みんないつ起きたの?」

「6時半」

「ふーん、そうなんだ」

「おはよう」

「……おはようございます。リーダー」

「鎌と彼方もおはよう」

「じゃあ、朝ごはんを注文して食べるわよ!」

「みんな食べてなかったんだ」

「朝は修行するのに最適なのよ。熟練度も上がるし、早起きの習慣もつく。一石二鳥ね」

「じゃあ、ご飯を持ってきて食べるわよ!」

「一応僕がリーダーなはずなんだけどなぁ」

「ほら、トウマもさっさと並ぶ!」

「はいはい」

 みんな並んで朝ご飯に箸を伸ばそうとしていたときに、

「あ、僕、今日でパーティ抜けるから」


 その瞬間。みんなが食事に伸ばす箸の動きが止まった。一瞬で。

 一体どれほどの時間が止まっていただろう。鎌が再び口を動かしてやっとみんなの止まっていた時間が動き出す。


「かわからノルマ達成の報告があってね。だから、僕は今日でこのパーティを抜けてかわと合流するよ。今後のことも話し合わないといけないしね」

「結構突然じゃない?せめて、かわに来てもらうとかすれば良いのに」

「残念だけど、僕らはあくまで固定パーティ。あんまり他のパーティに入っておくべきじゃないのさ。情も沸くし何よりも勘が鈍る」


 勘は生命線ってね。確かに勘というものは大切なものだ。しかも一応固定パーティだ。レベルが上がったことでそれなりの弊害ができる。それを早めにつぶすために抜けたいということか。


「分かったよ。でも、その前に最後にやっておきたいことがあるんだ」


 僕は立ち上がり鎌の前に立つ。


「どうか、僕と決闘してください。師匠」


 これが、僕が鎌に対する敬意。一応中二病中二病といっても、師匠は師匠だ。関係が変わらないというわけではないが、一応この男とは手合わせを願いたい。


「ああ、もちろん望むよ。チャレンジャー」


 鎌はいつもの笑みで、僕との決闘を承諾した。


 場所は変わって町の外。

 あたりには人はあまりおらず、戦う上で誰にも邪魔にはならないだろう。

 観客は幾人か入る。

 僕のいるパーティ『猫の仇返し』………今度変えよう。そして、タマたちが呼んできた、クイナやリョウカさんを含めた、『災いの炎』。厄災の名前にちなんで付けたらしいが何でそんな名前にしたんだろう。

 そして最後に向こうには鎌の本来のパーティメンバー『デルタライン』の一角かわ。三角だけに一角。なかなかうまいのでは?

 以上の観客のなかで、僕らの決闘は始まる。

 

 決闘の承認ボタンを押し、決闘の準備が開始される。


『Ready?』


 僕は拳を構えるが、鎌はなぜか拳を構えない。ここまで来てまだ馬鹿にされているのかと思うが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


『Fight!』


 その合図が出たのに、僕は動かなかった。いや、動けなかった。

 鎌の表情は今までとちがって劇的に変化していた。今までの柔和な笑みは、獲物を狙うような猟奇的なくち、今までほとんどあけられることのなかった目は切れ長で、獲物の特徴を隅々まで観察するような鋭い目つきになっている。何あれ、かわより怖いんだけど。


「あは、アハハ、アハハハハハハハハハハハ!あははは、あははははははは!」


 鎌は高らかに笑い出し、お腹を押さえてたり、頭を抑えたりまるで狂ったかのように笑い出す。

 一瞬鎌の狂気が本当に垣間見えた気がして恐怖がやまない。

 そして、頭の中に引っかかっていたあの日の夜の記憶がよみがえる。凶暴化したモンスターを笑いながら、狂ったかのように殺していく鎌。

 その光景を思い出した。確かに忘れていた理由もうなずける。非現実と恐怖、あんなものをまざまざと見せ付けられたら誰だって忘れたくもなる。


「アハハハハ、はぁ―――」


 ひとしきり笑い終えたのか、鎌は僕のほうを見る。


「いや、何かいえよ」


 この上ないくらい理不尽な注文だった。


「狂ってやがる」

「そうそう、そういうの」


 と鎌は、またあの顔に戻った。


「実際のところは今の笑いも半分演技なんだけど、半分は演技じゃない。いやー、決闘なんて申し込まれるのは久しぶりでね、ついつい張り切っちゃったんだよ」


 と何てこともなさげに、いつものように話してくる。

 だが、その顔はあの猟奇的な顔だ。正直言って怖い。

 というか、もう、戦ってすらないのに鎌の雰囲気に気おされて、完全に負けそう。



「じゃあ、はじめようか」



 その言葉とともに、鎌がすごい勢いで加速をしてきた。

 何とか目で追えるレベル。半ば本能で、僕は鳩尾のあたりに防御体制をとった。


「すごいね、反応するんだ!」


 と、拳を鳩尾に叩き込もうとする鎌。だが、僕の手が防御をする。威力は完全に殺し切れなかった。鳩尾の分のダメージを両手で食らってしまったせいで両手の骨が砕けるような音がした。一応VRMMOなので、こういった傷はすぐに再生される。ただし、HPは回復しない。だが、HPは一気に八割も削れた。

 というか、この拳の威力は一体どいうことなのだろう。

 まあ、レベル20越えは伊達ではないということか。

 僕は即座に『ステップ』を使い、距離をとる。僕の『無限回復』のスキルが発動して、HPが回復しだす。両手の損傷もすでに回復しているので、いつでも殴りかかれる。

 だが、それができない。鎌の雰囲気がそれをさせてくれない。


 鼓動が乱れる、呼吸も荒くなる。

 手を握る力はどことなく、力が入らないし、頭は鮮明にならない。構えは取ってはいるものの攻撃が来たら反応できる自信もない。

 ………これが、圧倒的強者を前にしたときのプレッシャーか。

 冷や汗が、頬を伝う。

 もう、四肢の感覚はまともに機能しない。

 鎌のプレッシャーはそれほどまでにでかい。


「これはスキルだ。スキル『狂戦士』。防御を50%削って、攻撃を2倍にする。実は演技の50%はこれなんだ。興奮作用さ」

「えっ!?そういうのって普通しないもんなんじゃないの!?」

 と、僕は聞いた。

「『加速』ができるんだ。これぐらいのこともできても不思議じゃない」

 むう、確かに。

 今の会話で少しだけ、気分が落ち着いた。

 少しだが感覚も取り戻した。さっきこそ取り乱したが、もう大丈夫。


 HPは今の会話で、三割ほどにまで回復している。あのスキルだけで急所も捉えていないのにあそこまでダメージを受けるとは思わなかった。

 おそらく、次はない。僕は『鎌の攻撃は受けないこと』が前提となる。

 かする程度でも一、二割は持っていかれて、一撃でも食らえばお陀仏。一瞬で試合が終了。

 何から何まで不利。

 そう思いながらも、心は軽い。

 負けたって良いじゃないか。これは経験だ。もともと、勝てるはずのない勝負。彼は曲がりなりにも師匠、僕は弟子。

 勝てるわけがない。



 ――――でも――



「(単なる負けじゃつまらないよなぁ――)」



 僕は心の中だけで微笑んだ。


 気合も入れなおしたところで、僕は完全に感覚を取り戻した。目つきは、鎌ほどでなくても、鋭く、構えは鎌ほどでなくても隙をなくす。

 鎌に劣っていても、勝てないわけじゃない。経験だって勝てないだろうし、身のこなしだって勝てない。

 それでも、心構えだけは負けていないつもりだ。


「気合が入ったみたいだね。気迫がさっきと違う」


 僕は当たって砕けよの慣用句の元に『ステップ』で距離を詰める。

 そのまま、『ジャンプ』を使う。

 いつもの通り、落下した勢いでけりを狙う。

 もちろん、鎌もそれに対抗してくる。上に向かって掌底を放ってくる。そのまま、食らえば、足からぼろぼろだろう。それどころか、決闘が終わってしまう。

 僕の蹴りと、掌底が交差する瞬間、『ツバメ返し』のスキルを使う。

 前にはなった攻撃、または攻撃スキルに続いてもう一度同じ技を発動させるスキル。

 スタミナの消費量は、最初の一回を含めて1.5倍。通常攻撃でも多少スタミナは消費されるがすぐに回復する。

 すると、鎌の手についた足は前へ蹴りだし、鎌の後ろに回る。そのときに、体もひねって丁度鎌の死角をとることができた。

 そのまま、右足で蹴りを放ち鎌のわき腹を蹴りぬく。

 これで、HPの一割をもぎ取ることができた。


 まあ、もちろん『再生』を持っている鎌には効かないし、すぐに回復してしまう。

 やっぱり、あれが追いつかないような速度でHPを削っていくか、もしくは、降参か。

 もちろん僕は降参するつもりなんてない。

 あくまで、勝てなくても最後までやりきる。


「ああ、とても楽しい!本当に、ゲームじゃあ誰も決闘を申し込んでくれないんだもんな!」


 鎌は、『ステップ』を使わず地面を蹴りつけ、それで距離を詰めてきた。

 もちろん、そんなことをしなくても、ステップよりも速くなるわけではない。だが、攻撃力に依存する方法での加速方法は意外と有用だ。

 鎌は、右の拳を繰り出してくる。ここから先は完全に防御に徹しよう。

 拳を手のひらでいなし、時にはよけその隙を見て少し距離をとる。

 拳速はとても早い、顔をそらしてよけると耳の横で轟音が聞こえてくる。その音に目をふさぎたくなるがそこで目をふさげば最後、蹂躙されて終わりだ。

 だが、顔をしかめるほどで一生懸命こらえる。


 その状態から死角からのボディブローが腹を捕らえようと、すごい勢いで迫ってくる。それを半ば勘で半歩下がってそれをしのぐ。轟と、強い音。それでいてなお攻撃を何とかしのぐ。

 だが、僕のHPはやっと六割にまで回復してきたほど。相変わらず博打をできるような状況ではない。

 まあ、博打をするつもりなんてほとんどないが。

 すると、足をすくわれた。

 目の前のことに気をとられすぎて足元をすくわれた。

 鎌が足の裏で胸の辺りを押さえつける。だが、決して苦しくない。彼が配慮してるんだろう。


「ふーん。まあ、レベル9じゃそんなもんか。楽しかったよ。久しぶりに決闘してくれたからね」

「は、はあ。こっちも楽しかったよ。まあ、負けること自体は目に見えてたけどさ」

「そうかい?レベルなんてものは些細だよ。効率よくステータスを上げればレベル30でもレベル50に勝てるからね」

「鎌はその『効率よく』をやってるんだろう?」

「違いない」

「なら、最後に―――『拳乱打』ぁ!」


 僕は鎌の押さえている足に拳乱打を放った。そして、もう一度『ツバメ返し』でダメージを追加する。


「驚いたな。まさか、そこまで来てまだそれをやってくるだなんて思わなかった」


 鎌のHPは何とか五割削れたほどだ。一割までは程遠い。

 僕のHPは七割ほど。今拳を食らえば間違いなく勝敗は決する。


「よし、僕の勝ちっと!」


 鎌は足を乗せたまま圧力をかけてきて、HPを一割にまで持っていったところでやめた。

 勝利は鎌。

 やっぱり勝てない。だが、


「次は勝ってやるからな!」


 と僕は鎌に宣言した。


「楽しみにしているぜ。我が『好敵手(ライバル)』よ。それと最後に一つ教えておくことがあるんだ。こっちに来て」


 そしてこの日午前。

 僕のパーティ『猫の仇返し』から、タンクから外れた。いや、あいつの本職はアタッカーなんですけどね。



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