第二十三話 再会 後編
僕はとっさに構えを取り、彼女にも促す。
「クイナ!構えて!」
「で、でも……」
「あいつらはプレイヤーじゃない!NPCだ!やらないとこっちがやられるぞ!」
彼女は同じ人の形をしたものを傷つけるのには抵抗があるようで、震えて後ろに下がっていく。
「ちぃっ!」
思わずでかい舌打ちが漏れる。彼女が戦えないことにじゃない。この状況になったことだ。
また誤解させてしまったかもしれないがあとで謝ろう。
『盗賊』、第7階層を除き、どの階層のどんな場所にも現れる言葉の通じるプレイヤーキラーだ。
もちろん、説得をして成功すれば戦闘にはならないし金目のものをおいていけば襲われない。
言葉の通じるプレイヤーキラーというのはそういうことだ。だが、こいつらに説得なんて言葉は必要ない。
言葉で語り合えば最終的には彼らが引いてくれるはず。
僕は盗賊を見やる。
盗賊は二人、一人は先ほど話しかけてきたやつの子分だ。一言もしゃべっていない。
「そこの男のガキは俺がやる。お前はそっちの女のほうをやれ」
「おい、てめえ。ちょっと僕怒ってんだけど。何話を勝手に進めちゃってくれてるのかなぁ?」
「どうせお前は渡すつもりがないんだろ?」
「それはそうだ。でもね、さすがにプログラムされた分際で!」
(『ステップ』!)
距離を詰めて拳を放つ。それは盗賊の持つ片手剣のサーベルに防がれたが、わずかにこちらが押した。
そこから後ろに下がり距離をとる。
「空気をぶち壊してくれてんじゃねえよ」
このとき僕の完全なる八つ当たりタイムが始まった。
・
・
・
「おりゃぁ!」
右手で放つその拳はわずかなところでよけられる。
だが、それはフェイクだ。
その振りかぶった拳の勢いで前へ行き飛び込むように両手で地面をつく。
腕を曲げ、十分に曲げきったところで、一瞬で狙いを定めて、一気に腕を伸ばす。
その勢いは現実では絶対に出せないであろう。銃弾のように勢い良く繰り出された蹴りに盗賊Aは吹っ飛ばされた。
その勢いのまま彼は両足をついたとたん後ろに『ステップ』を使う。
そしてクイナの近くに行き、彼女が相手取っていた盗賊を殴り飛ばす。
「大丈夫?クイナ?」
「ええ、もう大丈夫です」
背中合わせにお互いの無事を確認しあう。
背中は味方。味方がやられればこちらもやられる。そして、ジャイアントアントでの戦い方もここで生かされてくる。
自分の動きに見方を巻き込まない。それがあのときに得たものだ。
拳を振りかぶった際味方に当たれば隙になる。逆でも同じ。
どれだけ動きに無駄をなくせるかというものだ。その結果、上からの奇襲も効果的であることが分かった。
だからそれも使う。
(『ステップ』『ジャンプ』!)
距離を詰めて、高く飛び上がる。
その落下の勢いでやはり、攻撃力は上がる。
だが、今はあのときの革装甲ではない。銅による金属装甲だ。落下の威力も飛躍的に伸び、結果さらに攻撃力が上がる。
「うおぉぉぉぉりゃあぁぁ!」
盗賊の頭めがけて振り下ろされた踵落しは紙一重でかわされ、カウンターを仕掛けられる。
それを体を無理な関節駆動でよけ、その勢いを利用して回し蹴りを放つ。そこからは攻撃ラッシュ。
右手のストレートを繰り出し、それを防がれる。その防がれた反動で回り左手の甲で裏拳、そのまま無理やりもう一度右ストレートを押し込み、振りぬく。
すると、盗賊Aの持っている剣が消えていった。どうやらそこまで剣の耐久度は高くないらしい。
「ひぃっ!」
盗賊Aは剣が壊されて、戦意消失気味なようだ。
「わ、悪かった!お願いだから見逃してくれ!」
「…………」
僕は無言で後ろを向き歩き出す。
まあ、ある程度すっきりしたし、このまま見逃すのもありか――――
「へへえ!甘い!金平糖のように甘いぜ!」
も知れないかと思ったけれどやっぱりやめた。
そのまま後ろを向くこともなく、肘鉄で一気にHPを削って盗賊Aを倒した。
―――――
(『ステップ』!)
クイナは、かなり危ない角度からのステップを行使する。
それは端から見ればとても奇妙なものに見えることだろう。
クイナがステップを使ったところ、地面と彼女の頭との高さは彼女の立ち姿の腰以下の高さだ。
それだけでも異常なのにもっと異常なのは、それを理解したうえでの身のこなしである。
その状態から身をひねり、回転しながら盗賊Bをすれ違いざまに下から切り上げる。それを盗賊Bは適度に距離をとりつつ剣で受け止める。
だが、剣は上にはじかれて、胴体は隙だらけ。そこに右足のそこで胴体をけりつけて距離をとる。
このトリッキーさは中々のものだと思う。ほかの人から見るとやはり異常なのだろうが、不自然から異常というものはおそらくどことなく良しも悪しきも人間をやめている。
もちろん、そういったプレイヤーがいないわけでもないし、無論それを売りとしたプレイヤーはたくさんいる。
多分彼女の場合それを有効活用できそうになかったと判断されただけで、集団の中では磨きをかけるチャンスとすらいえた。
おかげで、モンスター1体に苦戦していたあの時に比べればトリッキーな動きには磨きがかかり、ついには『不自然』から『異常』という昇華(?)も見せた。
盗賊Bは右手のサーベルを振りかざし、切りかかってくる。
そんなものは当たるわけもないし、むしろ弄ばれている。攻撃を紙一重でよけ、受け流し、時には反撃をしつつ彼女のデータはとられていく。
だが、そんなものは意味を成さないし、相手の動きが分かるようになり動きに修正がかかっていったとしてもそこには意味がない。
彼女の本当のトリッキーさは、そのトリッキーな動きによって鍛えられた動体視力と観察眼だ。
その目は攻撃のタイミングと軌道を見抜くことができる。
まあ、リアルには反映されないステータスではあるが。
「くそっ!あたらねえ!」
「すうっはあぁっ」
半ばため息に近い深呼吸をして相手の動きを見る。
彼女は片手剣を突きの状態で構え、かける。
距離を縮め、盗賊のわき腹をめがけて、渾身の突きを放つ。
その速さはステータスが高いものにはそこまですごいものではないが、それはブレが最小限で目標のわき腹を突き刺すかと思ったが、盗賊Bはぎりぎりのところでよける。
AIは機能して動きに無駄の少ないものに書き換えられているようだ。
だが、それは彼女が仕掛けた罠だった。
わき腹を通り抜けた剣は盗賊Bの後ろにあるので当然死角だ。
なので、クイナは一瞬で片手剣を逆手に持ち替え、思いっきり引く力で盗賊の体を引き裂いた。
人を切るような感覚はこんなものかと顔をしかめるクイナだったが、それを押し殺して、盗賊のHPがなくなったのを確認してから、トウマのもとへ歩いていった。
―――――
夕日が大分西に向かっているのを横目で確認をして、僕は向こうから歩いてくるクイナを見ていた。
いやぁ~強くなったな。
いや本当に。
まともに相手をしたらこちらは殺されてしまうのではないかという懸念が一瞬頭をよぎった。まあ、最悪逃げればいいのだ。
逃げるが勝ちとも言うし。
それにしても彼女の動きは磨きがかかっていた。
トリッキーさに磨きがかかって不自然さから、異常の印象を抱くほど変わっていた。
パーティでのプレイで、やはりいい刺激になったのだろうか。いや、それは考えなくてもいいか。何よりここまで来たことが彼女の勇気の証だ。
あやはや、彼女には驚かされた。まさに一本とられたよ。
「クイナ、お疲れさん。あまりいい気分じゃなかったと思うけれど。……どう?」
「ええ、確かに人を切る感覚ってこういうものなのかとかいろいろ考えましたけれど、でもやっぱりあれです。不思議と罪悪感って言うものがわてこないんです」
「なるほど。まあ、経験値の足しになったし、それで良いんじゃない?」
「そうですね」
「それにしてもみんな心配してるだろうな。戻ろうか」
「ええ、そうですね」
僕とクイナは顔を見合わせて少し笑ったあとに町へ向かって走ったりステップを使ったりして急いで戻っていった。
あとで彼女にちゃんと言ってみよう。
『僕のパーティに入ってください』って。でも、あれだなちゃんと正式に盾士も入れていかないとな。まあそれでも、ギルドで募集すればどうにかなるだろう。
先の心配を胸に、僕はオレンジに色どられた町へ向かって走る。
(あれっ?治癒師はどうしよう?うーん)
この世界でパーティを組めるのは最大6人。前衛三人、中衛一人、後衛二人といった割り振りがベターだ。
前衛の三人のうち一人は盾士で残り二人はアタッカー、中衛は銃使いといった遠距離武器を主として戦う。後衛は治癒視と魔法使いや、魔導師。
一応、パーティが二つ以上でクラン(最近組織のことをそういうと知った)を結成できるので、そうすればレアどの高いアイテムのやり取りができるようになる。
少し話がそれた。
一応鎌が抜けてその枠にクイナが入るとすれば四人。
あと二人ほど余裕があるな。まあクイナが入ってくれるとは限らないんだけれども。
まあ、入ってくれたらいいな。
あとがき
キャラ紹介 No.7 蒼碧
あだ名はタマ
水色に近いセルリアンブルーの髪と瞳そして猫耳。
猫のアクセが理由でそういうあだ名になった。一応トウマのリアルでの幼馴染。
双剣使いで、すばやさと手数を売りとしたスタイル。
ちょっとした過去もあるもよう。




