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第二十一話 番外クイナの苦悩

読み飛ばしても問題ないです。

 やってしまった。

 きっと嫌われてしまった。ああ、まただ。またやってしまった。しつこく食い下がってしまったせいでもう、相手にはされないだろう。

 死にたい。病院でこういうのは何度かあったはずなのに。

 私は今、喫茶店のボックス席のテーブルに頭をつけています。猛省中なんです。

 長くて黒い髪が机のこちら側を覆うように広がっている。

 ここでならこんなことをしていても誰の迷惑もならない。


「はあ」


 これで何度ため息を吐いたことだろう。

 かれこれ30分ほどずっとこんな感じだ。トウマさんに諭されたときはちょっと意外でしたし確かにショックでした。『僕といると君は強くなれない』か。遠まわしに足手まといといわれたようなものです。私には少なくともそう思いました。お前といると、こっちの雰囲気まで悪くなる。

 そんな感じのことをいわれたことがあるのを思い出した。

 両足が一時的に使えなくなって気分が落ちてしまったときに似ている。

 今はリハビリを受けて失ったあとは筋肉を取り戻すだけ。

 そう思いリョウカさんに進められてはじめたVRMMOでこんなことになってトウマさんにまで見捨てられて、どうしたらいいんでしょう。


 そうしていると喫茶店の扉が開き、私のいるボックス席の正面に座る。

 仕方なく顔を確認するとマスターことリョウカさんがいた。

 普段は店の経営をしているはずなのにどうして彼女がここにいるのか。思考が一瞬止まった。


「クイナ。こんなところでどうしたんだ?」

「…………」

「まあ、お前が言いたくないのなら言わなくていいよ。何があったかは大体推測がついているから」

「…………」

「お前、やつから突き放されたんだろう?あいつは基本的に言いたいことがあればはっきりいうタイプだからな」

「………はあ」

「なんて言われたか、教えてくれないか?」

「……………いって」

「なんていった?」

「『僕と一緒じゃ君は強くなれない』って。それってやっぱり私が彼にしつこく食い下がったからなんでしょうか」

「……………そういうことか」


 私は顔を上げてリョウカさんの顔を見ました。そこには妙に納得した彼女の顔がありました。

 それは、とても悔しかったかです。リョウカさんには分かって私には分かっていないのですから。その言葉の真意を見抜くことができなかったのだから。


「やつは、お前のことを嫌いにはなってはいないよ。それは私の推理力と勘が保証する」

「………そうですか?」

「まあ、お前がそれをどう捕らえるかだがな」

「?」

「あいつの気持ちは父親みたいな感じだよ。お前に言った言葉は『お前は自分で立ち上がる強さを持て』ということだ。やつのせりふで言うと『僕にいつまでもしがみついていたら、いつか僕がいなくなったときに立ち上がれるかい?』といったところか」


 リョウカさんのそのせりふはいかにも彼が言いそうだった。


「お前の身体能力云々以前に精神を強くしてほしい。そう言ったんだと思うよ」


 彼女は淡々と推測を述べた。そして、その整った顔の口がかすかにゆがんで、私に囁くように言った。



「だから、やつに目に物を見せてやろう。一人でもやれるようになるまで私とパーティを組んでくれないか?リセットの影響で私のレベルも1からなんだ。さっきレベルを上げてきて3まで上げたが。で、どうする?」


 もちろんそんなものを決まっている。私は彼なしでいけることを証明しなくてはならない。私は彼に示してやらなければいけない。

 私はちゃんとできることを。自分の心は折れないことを。

 私はその決意を口にした。



「お願いします」



 そして、この第一の街『ムーラ』に一つのパーティが結成された瞬間だった。

 元気を取り戻しついでに覇気を手に入れた私はリョウカさんにこういわれた。


「明日から本格的にレベルを上げていこう。あさってには次の町に行こう」


 その言葉を聞いて、向こうで彼に会えることを願いつつ、決意を胸に明日に備えてひとまず英気を養っておこうと思った。

 その日の夜私は宿屋の風呂に入っていた。

 私の肉体は見た目をいじっていない。長い黒髪も、身長も体重も。VRでは『リアルに近い形だからこそ』リハビリや気分転換のためのカウンセリングが行えるのである。

 人の体重を3キロもいじれば普通に違和感を感じるし、身長を伸ばせば視界の見え方や足の力の入れ方によるバランスのとり方も変わってくる。私はほんの軽い気持ちでこのゲームをしていた。というのも、VRという機能を使って体を動かすというこの作業は農業やそれ系統だからこそリハビリとして成立する。

 ちょっとした合間で入り込んだゲームでまさかこんなことになるとは思わなかった。

 危険な目にあうのは怖い。

 ゲームを他の人に任せるというのもありだし、自分で攻略をしていくのもありだと思う。

 でも、ここで私は逃げた。

 心が弱いから、恐怖に負けてしまったから。

 今日でこの弱い自分とはさよならだ。

 明日からはニュークイナとして頑張ります!


 シャワーの音が私の思いを包み込んでくれた。

 次の日、私はリョウカさんに言われたとおりにいつものあのカフェの場所に向かう。

 正直に言うととてもどきどきしている。

 やはり、冒険というものは楽しいものなのだろうか。そう考えると思いのほか楽しそうなものに思えた。なるほど、トウマさんもこんな気持ちだったのかもしれない。

 私は昨日のあれ以来日常的な動きが改善された。

 『歩く』という、ことを思い出すということは、体重移動、重心のかけ方などを思い出すということだ。人間の動きとは体重移動と重心移動なのだから。

 そして、私は町を普通に歩いてももう奇異な目で見られることはない。戦闘にいたってはあの体重移動や重心移動が感覚として残っているためそれを戦闘面では使うつもりだ。彼はこれは武器になるといってくれた。

 

 いつものカフェに着くと、リョウカさんはすでに店を開店させていた。店にいるときの彼女は『マスター』と呼ぶのが暗黙の了解だ。


「ああ、クイナ来たか。じゃあ、早速今日からレベル上げだ」

「はい」

「今日は私の伝でパーティメンバーを誘ったところ、OKが出てな。そいつらと一緒にアルムの町に向かう」

「分かりました」

「とはいっても待ち合わせまではしばらく時間がある。ここでゆっくりしていけ。料金はおごりだ」


 そう言って、紅茶をさっさと入れて出してくれる。マスターはとても気が利く人で優しい。なのに女性プレイヤーからの人気が高いのはなぜだろう。

 いや、だからか。


「なんか失礼なことを考えてないか?」

「いえいえとんでもない」


  カランカラン――――

 人の来訪を知らせる店のベルがなる。

 この鈴は結構昔のものらしく、いまだにこういうものを付けている店はあまりない。


「うっす、リョウカ。ひっさしぶり」

「ああ、しばらくぶりだな。クイナ、こいつは鎌たちとつるんだあとに私が加入したパーティのリーダー『厄災』だ。パーティ名は『厄災の炎』」


 私の目の前にいるのは、いかにもがっしりした体格の男の人で、見ると筋肉は鍛え上げられている。一体リアルでどんなトレーニングをすればこんな風になれるのだろう。


「おお、こいつか。リョウカの言うトリッキーな娘って言うのは」

「ああ、そうだ。こいつの動きは実にトリッキーだ」

「ちょ、ちょっと待ってください!マスターは私の戦いを見てないはずですよ!?」

「盗み見れば問題ない」

「大有りです!」

「何が?」

「うう、………恥ずかしいじゃないですか……」


 目をあわせられずにうつむいて目をそらしてしまう。


「実に弄り甲斐のある子だ。よろしく。さて、私もそろそろ店じまいをするかな」


 背伸びをしながら、リョウカさんは早速片づけを始める。まだ、いつもの営業時間を終えていないのに。


「ええ!?リョウカさんも来るんですか!?」

「一緒に行くといっただろ?」

「………ああ、もう何もツッコミたくないです」

「こいつとは中々付き合いがあってな。本当に楽しかったよ。気がついたら『黒姫ナイトメアクイーン』だなんて呼ばれてるんだからよ」

「あのネーミングには驚かされたし迷惑だったよ。一体誰が付けたんだか………」


 実はそれは鎌が付けたものだったりするのだが、それはまた別の話。というか永久保存。


 そして、店を閉めてから外に出ると彼のパーティメンバーと思わしき人たちが並んでいた。


「おいおい、リーダー。おそいぜ?」

「おう、待たせたな。うちのパーティメンバーだ。手前から順に、バニス(アタッカー)、だんごろ(タンク)、クルルーニャ(後衛アタッカー)、熊谷バフ


 手前から順番に紹介される。赤髪に染まっている片手剣の彼はバニス。厄災さんと同じようにがっしりした体格に、背中に彼の背丈ほどもある大きな盾を装備しているだんごろさん、金髪を肩甲骨あたりまで伸ばしたローブを羽織っている女性はクルルーニャさん、どことなくそっけなく、常に誰とも目をあわせようとしない神父の装いをした私より1、2年上そうな熊谷さん。


「一応こういった具合だ。まあ、仲良くしようぜ」

「あ、あのぉ………」

「熊谷はコミュ障だから、しばらくしないとなれないぜ」

「やっぱり何でもありません」


 なるほど、人見知りならしょうがないか。うん、しょうがない。

 そう思いながら納得し、私たちは旅に出ました。


 幾多もの魔物と出会い、幾多もの魔物をなぎ倒し、経験値を手に入れ、レベルを上げて、私たちは、アルムの町へ向かって進んでいきました。

 道中、怖くなったりしましたし、危ないこともたくさんありました。

 それでも、何とかやってこれたのは、やっぱりトウマさんの隣にいたいと思ったからなんだと思います。

 好きという感情はまだどうなのか分かりませんが、トウマさんと一緒に冒険したり、笑ったりしたいと思ったから。

 そう思ったから、あの三日間も何とかやってこられました。

 あのデスセンティピードにあったときは姿を見ただけで失神しかけたんですもの。

 やっぱりあんなものは現実にいてほしくないですね。軽く夢に出てきそうです。


「それにしても、こいつの動きは不自然というかどことなく気持ち悪いよな。でも、どことなくそれだと、敵と戦いやすいんだろうな?」

「トウマさんが、言ってたんですけど私の動きはそういった『プレイスタイル』を読み取るAIには有効だといってました。確か、動きを見てインプットするAIは、その動きを読むことでことで敵への対抗策を作るわけですから、私と一般のスタイルの差でAIに負荷をかけているとか何とか」

「はあ、よく分からんが、とにかく敵も戦いにくいと」

「そういうことです」


 実は私もよく分かっていません。

 それから町に着いたので探索していると。


『トウマ!速く来なさいよ!』

『た、タマ!ひ、引っ張らないで!抜けるから!腕取れちゃうから!』

『……リーダー。こっちを見に行きましょう』

『彼方!そっちに引っ張らないで!痛い痛い!肩が!』

『えっ?僕が?』

『お前じゃねーよ!ていうか自覚あったのかよ!しかも発音が似てるだけで文字が違う!』

『な、何のことかさっぱりだ』


 聞きなれたトウマさんの声と聞いたことのない女の子たちの声。

 正確には一人女もどきが混じっているがクイナは知る由もない。それどころか鎌も声が低めの母親の声と似ている自覚があったりなかったりで、それなりに声が男にしては高い。ようは、勘違いである。見た目も中性的なのが決定的だった。


 そして、楽しそうな彼を見た瞬間、彼も私を見つけて彼が固まる。

 人ごみの中わたしたちの視線は交差する。

 すると、涙が自然にこぼれだし、その場にいられず、私は街中を走っていった。


キャラ紹介 No.5 ポロロッカ

 逆流の名無しさん(笑)

 リアルでも知り合いのポロロッカさん。通称ポロ。

 結構マイペースで自分のしたいこととしたくないことの差があまりにもはっきりしている子。

 彼は扱いが難しく正直言うと誰も彼の考えていることの一端を考えることすらできない。ちなみに口調がころころと変わることがある。

 かわとポロはもともと知り合いですらなく、鎌が間に立って二人の中継役をしていたら今の感じになった。

 一応かわと、ポロは感謝をしている。「さすが我らの主人公(笑)」はあながち間違っていない。

 ちなみに感想欄のポロロッカさんとも仲良くやらせていただいています。

 クイナ視点は筆が乗らない。書こうとしてやったことなのに。


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