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第十七話 新規アップデートからのフィールドへ

 MMOに限らず、ネットに関係あるものならまず大抵に、更新、またはアップデートと呼ばれるものがある。前者はブログ、後者はネットでアップされているゲーム。または、それの類。

 当然ながらこのゲームにもそういうものがある。

 だけれども。

 だけれどもだ。


「なんで今このタイミングで新規アップデートを実装するんだよ!」


 僕は宿屋の狭い部屋の中で軽く苛立ちを覚えつつ、叫んだ。

 掲示板を見てみると、炎上、とまでは行かなくてもフォロー3、批判7ぐらいで構成されている。

 その3割のほぼ全員が槍使いだった。やっぱり面倒くさいので炎上ということにしよう。

 頭を抑えて偏頭痛が治まるのを待つ。一回深呼吸をして、改めて掲示板と今朝送られていたメールを見る。

 メールの内容は至極簡単。武器についてだ。

 『このゲームにおいて使われている武器の種類の区別の分割化』

 ようは武器の種類が増えた。

 だけれども、『武器が増えた』ワケではない。

 いうことをいうと、オークのときのあれのように一部の武器では『これは○○という武器ではないか?』という論争や意見を運営が処理して武器の種類を小分割していくのだ。それ以前に武器の区別はちゃんとしておくべき。

 

 で、なぜ批判がいるのかというとこれもまた単純。

 こういうものは大体、一回サーバーを落として行われる。

 一昔以上前のことは知らないが基本的にVRではそう、……らしい。僕も初めてなので詳しくは知らない。

 理由は、メンテナンスもかねているというのが主な理由と、このようにプレイヤーがログインした状態でアップデートをすると、後々のプレイに支障をきたす場合がある。というのは、プレイヤーの脳の信号を受け取っているサーバーは、同時に運営からの情報も受け取っている。

 アップデートの際には、一回サーバーを落とし、プレイヤーとの回線を切って再起動、データの更新をしないと、膨大な情報量がプレイヤーの脳に送り込まれて脳がオーバーヒートを起こす可能性があるといわれているからだ。


 実際そんな話は見たことも聞いたことも、ついでに言うと起こったことすらない。

 ようは危険があるのであればそれを安易に実行しないほうがいい。これはゲームであっても『安全』はいつも維持していなければならない。工事現場の人は今もヘルメットに安全第一のヘルメットをかぶっている。今はほとんどが機械化している中でも、だ。

 きっと、予備のサーバーか何かを使ったのだろう。


「はあ、掲示板は槍使いたちの歓喜の声がこだましているわね」


 今回のアップデートで『ランス』の武器を『ランス』と『スピア』に分けたらしい。

 これで一つ、問題が解決されたわけだ。運営もいい仕事……したのか?

 それよりもなぜ、今まで分けていなかったのか。きっとランスとスピアの違いが分かりにくかったんだろうな。どっちも訳すと槍だし。


「トウマ、今日は町に行くわよ。食料を持って今日中に出発するんだから」

「えっ?そんなに遠いところなの?」

「そうよ。このゲームが単に『階層が少ないゲーム』じゃないわよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。―――いいよ続けて」

「このゲームにおいて一つの階層の広さは約日本の現在面積の4分の1といわれているわ」

「はあっ!?」


 4分の1って、これ、僕が思ってたよりも一つの階層が広いぞ。いって帰るだけでも、1ヶ月かかると考えていい。


「そ、そんなのクリアできるの?」

「むしろそのための加速ね。実質その半分近くは廃人たちのためのやりこみように作られてるマップだからそこまで広大じゃないわ」

「そ、そうか、なら良かった。………のか?」

「良かったに決まってるじゃない。トウマ、ちょっと疲れてるんじゃないの?」

「いや、多分僕の予想が外れたことがショックなだけだっただけ。じゃあ、食料を持っていこう」

「レベルや食料は道中でも確保できるし、食料でHPも回復できるから、回復薬ぐらいでよさそうね」

「僕には少しでいいから。8割はタマが持っていって」

「ありがと。じゃあ、行こう!」

「オーケー!わが相棒!」


 正直のことを言うと僕は思いのほか早くつくと思っていたっていうのが本音だったんだ。


 今は昼。時間としてはお昼ご飯に丁度いい時間だし、それ以上に生理的な意味でもこっちは栄養を求めている。まあ、仮想空間なのでお腹が膨れた感覚だけなのだが。


「タマァ~。マダですか~?」

「こっちの方向に、確か食べ物屋があった気がするんだけれどもな~」


 タマは地図とにらめっこをしている。さすがにコンパスを持たないのは自殺行為なきがする。

 こいつは直感だけで地図と景色のなんとなくの一致の感覚だけで歩を進めていっている。そろそろ僕の我慢やツッコミの性が『こいつだめなんじゃね?』と囁いているがあと少しのところで我慢する。こいつを信頼しないと、一応パーティだし。

 それよりも後衛の人ほしいな。

 今度探してみよう。


「ねえ、トウマ」

「何?」

「道間違えちゃった」

「………………………やっぱりかよっ!」

「どうする?」

「どうするもこうするも今から町に戻って、コンパス買ってからまたいくぞ!くそっ!」


 限界まで溜め込んでいた分脱力感と怒りが大きい。疲れがどっと来た気分だ。

 また振出からか。人生ゲームをスタートから逆に進んだ気分。いや、どういうことか分からないけれども。

 でも結構昔に、老人として生まれて若返っていく男の人の映画があったな。

 ええと、タイトルを本気で忘れた。

 時間は昼過ぎ。町に何とか帰ってきて、そこからコンパスを調達し、再び次の町へ行こうとしていた。


 まさか、タマのせいでこんな損害を食らうとは思っていなかった。

 持久走をして最初の遅れを取り戻さないと。それもこれも全部、タマが。

 まあせめても仕方がない。とりあえずコンパスを手に入れたのでさっさと行こう。


「いくよ~、タマ」

「ゴロニャ~ン」

「うちは猫を飼えないからおいていこう」

「ちょっとごめーん!おいていかないでー!」


 ………無駄にあざといな。何?一周回って腹が立つんだけれども。

 この馬鹿には一度痛い目にあってもらおうかな。


 次の戦闘はこいつに任せよう。いざというときは僕が助けに入ればいいわけだし。

 それにしてもあれだな。今のところは、マップを新装展開したという情報は聞いてない。聞いたのは武器の区分分けくらいだ。

 『ランス』と『スピア』意外にも『片手剣』の区別の中で『細剣』や『大剣』の区分で『両手剣』の細かな種類分けが増えたようだ。とにかく、こういうことは前もってお知らせしておいてほしい。

 覚悟する瞬間がほしいから。

 でも、ネット回線が切れてもそのページだけは表示されるからな。もしかしたら回線が切れてもしばらくは気がつかないかもしれない。

 お昼ごはんは町で食べた。

 とにかく、今はあのオークやジャイアントアントのところまでは来た。走って。

 走っていてもスタミナは減少していくようで、限界まで走っていってそれでも走ると、スタミナの最大値が少しずつ増えていくのだ。

 レベルアップによっても上昇はしていくけれど、こういう現実仕様はうれしい。でも、スタミナを上げて役に立つのは近接武器の人たちだけなので、魔法使いにはうーんとなるところだ。

 後衛の人がほしい。

 そんなことを考えていると本日一体目の得物、ジャイアントアントが現れた。

 すでに目が攻撃態勢であることを告げている。

 この戦いは、彼女に任せよう。


「頼んだ!わが相棒!」

「おう!任されたわ!わが相棒」


 彼女はノリがいいので結構好きだ。

 もちろん友達として。異性としてみたことは………最初のときだけだ。

 彼女は双剣を抜き、ジャイアントアントと対峙する。

 このゲームの双剣というのは、片手剣を装備する。だが、そういうときには武器自体に補正がかかると彼女は言っていた。

 というのも、両手に武器を持つという手前、攻撃力の上昇が『武器A+武器B』だと、あまりにも強すぎる。すばやさにも若干低下の補正がかけられるがそういうものではなく、『(武器A+武器B)×3分の1=武器A』となるらしい。同じ方式でBも計算される。

 例を挙げると100の攻撃力と80の攻撃力の武器があったとして、それを足してから、3分の1をかける。すると、60が武器の片方の攻撃力となる。

 双剣は2つの武器の攻撃力が、同じになるという特性を持っている。

 攻撃力だけなら、どんなに弱くても、結果的にそれなりになることはある。逆に弱い武器を片方に装備していると、とんでもない勢いで武器の耐久力が減っていくが。


 彼女は『ステップ』で一気に踏み込む。

 そのまますれ違いざまに、敵の左前足、後ろ足、右の中足、を切り刻んで、通り過ぎていった。


「双剣第一スキル『半月乱舞』」


 彼女はスキルの名前をつぶやき、ジャイアントアントを見据える。

 こんな状態になったジャイアントアントはバランスをとることで精一杯のようだ。∴のような状態で支えているのだから、動けない。

 それかの足を動かしたらとたんにバランスは崩れる。とんでもない嬲りかただ。

 そのまま彼女は何の危なげもなく、敵を倒した。

 実にあっけなかったし、見ていて普通だと思った。というか上級職なだけあって普通に強い。


「終わったよ~!」


 彼女は達成感に満ち溢れた顔で、僕に笑顔を向けた。


「いえーい!」


 ハイタッチを求められたのでハイタッチをする。別にそれほどのことはないと思うのだが。まあ、ツッコむのは野暮だ。

 だが、そんなときに声が聞こえてきた。男の声だ。



「よぉ!タマ、元気にやってるか?」

「あっ!ひっさしぶり~!トウマ、この人が前のパーティでお世話になってた人よ!」


 彼女が紹介したのは、長身の180以上はありそうな細身でありながら筋肉は普通にある細マッチョな体型の人だ。

 長そうな前髪は真ん中で分けたり、バンダナで垂れないようにしているので目が見えないということはない。

 後ろには今のパーティメンバーと思わしき人たちがいる。


「ああ、初めまして。僕はトウマです。一応今いっしょにパーティを組んでいます」

「はじめましてよろしく。俺はカズだ。タマに世話になっているみたいだな」

「ええ、まあ、世話になっています」

「それにしてもこんなところで会うとは思ってなかったな。お前らはここで何してんの?」

「一応、レベル上げと『アルム』の街に向かっているところです」

「見たところ、武器は持ってないようだけど何の職業やってんの?」

「一応『拳闘士』を」


 すると案の定、彼らは僕を笑い始めた。まあ、予想はしてたからいい。一応これでもネタジョブだから。


「ははっ!あーおかしい!それ本気で言ってんの?マジ受けるわ!」

「そこまで言われる義理はないはずですが?」

「なあ、タマ」


 するとカズは僕を無視してたまに話しかけた。


「お前も一緒にパーティやらねえか?お前こいつと一緒にいたら死んじまうぜ?」

「ああ、いいよ。私はいい。カズたちはそっちでやってよ。一応これでも前衛やってるんだ」

「………へえ、お前は?」

「タンクですよ。攻撃を受け止めるタンク」

「お前、俺らの腹筋を崩壊させるつもり?盾も持たずにタンクとかマジありえねえよ」

「そうですね。でもまあ、そういう役割ですので」


 お互いがお互いに牽制しあう。とはいえ僕が見上げる形になるので若干迫力に欠けるが。


「なあ、お前俺と『決闘』ないないか?」


 カズはそんな提案をしてきた。


「ルールは簡単。俺が勝ったらタマをこっちに入れる。俺が負けたら、こっちのパーティから一人連れて行ってくれていい。いいよな?みんな」


 パーティのみんなは首を縦に振り、首肯する。

 つまり、準備はいいってことだ。

 はあ、なんとなく、大変そうだなあ。


 キャラ紹介 No.1 トウマ

 見た目はこれといった特徴はないが、集中しているときや怒るときには目つきが鋭くなる。

 性格は比較的大人しめだが、その日の気分などに若干沸点が左右されるため一概にそうとは言えない。……それでも怒るとやっぱり怖い。

 ゲームは彼の本領といえる場所なので若干性格に変化が見られる模様。



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