第十六話 明日の予定。
僕は、蒼碧と出会って、とりあえずままで戻った。こいつの職業は双剣使いという上級職だ。
片手剣を二つ装備することできる職業。
双剣使いは攻撃力にマイナス補正がつくが、それでも手数による攻撃が売りなので結局はプラスと考えていい。固い敵には結構役に立つ。
で、彼女と出会ってパーティ『猫の仇返し』を結成し、これからのパーティの方針について話し合っていた。
僕はタンク、サブアタッカーを兼任する。理由はレアスキル『無限回復』によるものだ。『再生』のほうが強いのに名前負けしている気がする。
もちろん彼女はアタッカー。すばやさも高いのでバランスこそ悪いものの、パーティとしてはそこそこ息の合うものと思われる。
僕が受けて彼女が攻める。
うん、字面にするとなんか卑猥だね。
そういうことではなくって。
とりあえず、これで曲がりなりにもパーティが結成できた。
クイナには申し訳ないことをした気分だが、僕ばっかりに頼るのと一緒にいるのは違う。少し、彼女も一人で頑張っていくべきなのだ。今までのレベル上げもできたんだ。きっと一人でやっていける。
「なーにボーッっとしてんのよ」
中二ぐらいの小柄な体が僕のあばら骨をひじで軽くつついてくる。地味に痛い。
「ちょっと考え事だよ。前のパーティのこが心配でね」
「何?弱いの?」
「弱くはないよ。ただ、変わった戦い方をする子で」
「女の子?」
「うん?そうだけどどうしたぁッ!?」
いきなりぶん殴られた。見事に腰が入っていて、HPの4割が一気に削られた。危ねぇ。
「ちょっ!危ないだろ!?」
「ふーんだ!私はどうせロリ担当ですよ!」
「自覚あったんだ」
「ふんっ!」
ドゴッ
殴られた。
「ンベラバ!?」
彼女の地雷は時に分からない。
友達二人と蒼碧が一緒にいるときには絶対に僕のとなりにいる。
なにこの子怖い。
一緒になる友達は考えるべきだろうか、絶対にそうだとは思うけれど離れられない。彼女の癖は遠くから僕を見つけると僕の後ろからダイブしてくるのである。
『あなたを放さない』とまでいうべき恐るべき力で僕を組み伏せる。当たるのでやめてほしいがいえない。主に、殺されそう的な意味で。
案外彼女が『ヤンデレ』と揶揄されるべき存在な気がする。詳しくは知らないんだがね。でも一番近い気がする。邪気がないあたりが唯一『ヤンデレ』の区別から離している。ヤンデレ予備軍。
「これからどうするの?」
「とりあえず宿を二部屋とってあとで僕のところで明日のレベル上げについて考えよう。本当は今すぐにでもレベル上げしたいんだけど、なんか、タマに会って疲れがどっと出た。多分攻略でこの辺も大分空いてきたから宿二部屋ぐらいなら取れるんじゃない?」
「ええ~。トウマと同じがいい」
「僕はお前といると生命の危機しか感じない」
「ちぇっ、チキン」
「臆病者で結構。お前とだけは絶対同じ部屋で寝たくない」
絶対お前が寝ぼけて、僕の布団にもぐりこんで絞殺してくるだろうから。
そんな悲しい末路はたどりたくない。
ちなみに町の中でも普通にHPが減る。
屋根から落ちれば落下ダメージだし、教会の頂上の屋根に刺されば普通に貫通ダメージを食らう。二つ目はあれだがとにかくそうなのだ。
というか曲がりなりにも年頃の少女と一緒に寝るのも精神衛生上よろしくない。それ以上に主な理由が恐怖なわけだけれども。
一応蒼井……じゃなくてタマとはリアルで幼馴染なのだが、遅刻しそうになったときの彼女の起こし方はすごかった。
何がすごいって、どうしたら僕の部屋がそんなことになるのって言うぐらいまでの惨状だったから。
まず、本棚の奥にこっそり隠してあるお小遣いの入った封筒を見つけ出して私物にして、僕の前時代ハードのソフトをいくつか持っていった。
そのときの惨状が産卵したゲームソフトと、あけっぴろにされたたんす。
普通の人が見たら真っ先に泥棒だと思いそうな惨状だった。その真ん中に彼女がたたずんでいなかったら僕は警察を呼ぶところだった。
ちなみにハードのソフトを持っていってハードも要求されたのでしばらくゲームができなかったのはとても悲しい思い出の一つだ。しかもメモリーカード上書きして最初からやり直す羽目になり、3周目をすることになった。
いやあれだね。だが、彼女の性質上ハードを壊されなかっただけましだ。
そう思うことにしよう。
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僕は101号室。
彼女は103号室だ。
絶対に来てほしくないな。呼び出してはいるけれど。だって彼女の脳内は楽しそうなことばかりだもの。来たら絶対に―――
ガチャッ!
「遊びに来たよ!」
とか言うに決まって――――
「ええ!?なんでデリカシーもなく入ってくるんだよ!」
「ふふ、愛の力。かな?」
ドヤ顔で言ってきた。腹が立つ。
「はいはい、それはえらいですねー」
やんわりと褒めつつ、方向転換をさせ、彼女を部屋の外に追いやり扉を閉めて鍵をかければ安心。
ふう、危ないところだった。
『ちょっとー!あけてよ!』
「い、嫌だ!」
『いいから開けろって言ってんだろ?』
「スミマセン」
「よろしい」
あっさりと負けてしまった。なんでここまでしておきたいのだろう。まあ、僕が呼んだんだけどね。
「じゃあ、早速明日のレベル上げについて話しておこう」
まじめモードに入りとにかく、話を進めることにした。
この世界において何が重要かといえばパーティとの相性だ。バランスが整っていないと面白いことがある。バグが起こる前、魔法使いだけのパーティがあり、それがスレで上がっていた。信憑性があるかといわれれば疑問だが、こういった内容のものだった。
レアスキルの二つ『詠唱短縮』と『無詠唱』。
『詠唱短縮』はレア度が2で『無詠唱』は4の最高値。
実はこのパーティで普通の魔法使い、つまり通常の魔法使いが混じった三人のネタパーティがあった。
通常戦闘においてはとてもすごい成績を残したらしく、一時期はパーティ序列の上位に組み込んだほど。
この人たちは、で面白い戦闘隊形をしていたらしい。まず、『無詠唱』の人が下級魔法をぶっ放しまくる。『高速詠唱』のひとが中級。で無印魔法使いが上級といったような魔法を放つ隊形を取っていたらしい。ちなみにもう一人臨時でポーションを投げる係がいる。
この戦闘スタイルは圧倒的な火力を持ち、第3階層のボスをなんと30分で倒したそうだ。
ちなみに一般のプレイヤーがモンスターたちと戦っていると10分なんてあっという間。僕みたいにモンスタートレインなんてやっていると2時間ぐらいたつ。
それを仮にも一つの階層のボスを30分で撃破するというのはとても、とても奇妙なものだった。
もちろん、このこう火力はすごかったのだが、あまりにも魔力の消費量があるためMP回復ポーションがなくなる。第3階層のボスの30分で殺すという偉業は次の第4階層のボスではついに補給が追いつかなくなり、そしてあえなくパーティは全滅したそうだ。
ということがあり、ちゃんとパーティの構成は考えないといけない。構成というよりは役割だろうか。パーティであれば経験値自体は入るので僕は何でもかまわない。
「じゃあ、僕はタンク兼サブアタッカーやるから。アタッカーお願い」
「でもあんた、盾士でもないのに大丈夫なの?」
「僕には『無限回復』があるからへっちゃらんぽらん」
「なにそれ?」
「ええと、『鎌』っていうプレイヤーに教えてもらったんだよ」
「鎌!?鎌ってあの!?」
「え、あのって言われても分からないんだけれどぉっ!?寄るな!顔近い!」
僕が全力で抗ってもまだ、進行を続けようとしてくる。仕方なくスキルを使おうかと思ったが、残念ながら連打系のスキルしかない。それどころか『正拳突き』も覚えていてもプレイヤーキルにしかならないだろうが。さらっと恐ろしいことをいってしまった。今は『取り返し』がつかないんだ。そういうことはあまり考えないようにしよう。
「でっ?一体何?」
「鎌っていうプレイヤーは、バグの前の序列にすら入ってはいないけれどとっても有名なプレイヤーよ。賛否両論。彼への評価は二つに分かれていたの」
「へえ、どういう評価?」
「『鎌はいい人説』と『鎌はけち臭い人説』」
「なるほど。確かにそういう一面がありそうだ」
「ちなみに中立派で『鎌は中二病が悪化した人説』があったわ」
「僕はそれに所属しよう」
鎌の中二臭さは身を持って体験した。だからこそいえる。あいつの中二力は底知れない。
「で、鎌がどうしてそういうふうにいわれるか問いうと―――」
「それは今はいい。今度聞かせてもらうから」
「ええー、これからいいところなのに」
「確かにいいところだけれど!僕も聞きたいけれど!それ以上に先にやることがあるんだ。タマは一応双剣のスキルどれくらいまで使える?」
「うーん。半分くらいかな。一応熟練度はそこそこあったから」
「アタッカーでお願いする」
「普通こういうシーンって男の子が頑張るものじゃないの?」
「僕にはそれができないから言ってんの。一応さ。タマのほうが強いんだからさ。頑張ってくれよ。頼りにしてるよ。相棒」
「ま、任されたわ!緋々色金のイージス艦に乗ったつもりでいなさい!」
それ強すぎるだろ。技術力云々以前に今の科学力の力でごり押ししてやっと勝てそうなレベルじゃないの、それ?
そしてタマの顔が心なしか赤い気がしたのは窓から差し込んだ光のせいだろうか。あるいは光の反射具合でそう見えてるだけかもしれない。
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…………
眠れない。
眠れない。
眠れない。
眠れないのですがどうすればいいのでしょうか。
羊を数えていたら、途中から執事になったりつつじやつむじになってまともに数えられないんだ。で、余計に頭がさえてしまう。
そういえばこの『羊を数える』っていうの外国から来たらしいね。もともとは英語で羊の『sheep』と、眠るの『sleep』の発音が似ていることから一種の暗示みたいなものらしい。僕が言いたいことはつまり、眠れるわけがない。
すでに街は月明かりがほとんどになっており、街を歩けるような状態じゃない。屋根を飛んでいくとなるとしたにいる人たちに響くそうだし。
まあ、眠れないのであれば寝なければいい。こういうときは楽しいことを考えれば眠れるだろう。
昔はあこがれた異世界。それは叶わなくとも人類の夢の一つが叶ったのだ。
擬似異世界。
そんな言葉が一番しっくりくる。今この状況で外では20秒ほどしか経っていない。すごい。
まあバグが直ればまた、元の仕様に戻るんだろうけど。
「ああ、いつか異世界行きたいなぁ」
なんとなく心にもないことを言いたくなってしまった。
こうして夜はどんどん深くなっていき、まぶたは自然と重くなっていく。
そして僕は、気がつけば眠っていた。
次回から、あとがきで人物紹介があります。




