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第十四話 歩こう

 クイナと約束をして次の日。

 僕は町の広場で待っていた。

 正直に言おう。これ、デートじゃないかな?

 そう思うと無性に頬が熱を帯びる。ああ、霧散しろ霧散しろ!邪念よ去れ!


 ふう、落ち着いた。

 あれだね。下手に考え込むと逆効果だね。

 それよりも彼女のことについて考える。彼女が歩くことについて。一応、ね。僕ができることはあくまで『手伝い』だ。それ以上は僕はできないし向こうもそれを望んではいない。

 深く入り込むと抜けられなくなる。それは何であれそうだ。最初は興味がなくてもある程度もぐればもっと深く入れ込んでしまう。くそゲーがその典型だ。僕がやったことのあるくそゲー。今となっては忘れてしまったタイトルだが、『スライムが出てきた。どうする?』という文章で武器を選択すれば迷いなく自害するあのゲーム。怪しげな罠は本当に罠で落とし穴。その先で骨折って動けなくなる主人公、そして最後に出てくるあの―――『ざんねん!これでわたしのぼうけんはおわってしまった!』には何度笑いと涙を見たことか。

 閑話休題

 とにかく、そういうことなのだ。深く入れ込めば抜け出せなくなる。

 だけれど――彼女から願ったときには僕はどうするのだろう。

 思い出すクイナのこと。黒い髪のロングで、華奢で鎌より少し小柄。

 うーん、まだ分からんな。いや、向こうからそんなふうになることはないと思うけれど。


 そういえば、このゲームを進めないとクリアできない。それは、各個人の攻略状況に依存する。だが、組織を作ったときは別なはずだ。

 この世界に来て、何度か掲示板をのぞいたときに確認した。

 『組織クラン』を作るとそのときの攻略状況がみんなで共有される。たとえばA~Eのイベントがあったとして、A,B,CまではクリアしたがD,Eがクリアできていない。そういう時は『組織』を作る、または『入団』をすることでその攻略状況が共有される。まあ、パーティでもいいのだが、MMOは『多人数で協力すること』が前提のゲームがほとんどと考えていい。なので、A~EどころかA~Zまでなんていうのは基本中の基本。さらに、特定アイテムを持っておくなんていうのは常識とすらいえる。

 だが、攻略階層まではまたげない。

 『1』の階層のA~EのうちからのA~Dまではクリアした状況では1-Aとして、そこから1-Eまでしか共有できない。

 逆にそれが終わって『組織』自体が『2』の階層をクリアしていればいきなりボスに挑めるということができるが。まあ、そこら辺はやっぱりボスに挑む前にクエストやイベントをこなすだろう。レベルを上げないとボスには勝てないもんね。


 まあ、最初のうちはいい。レベルがある程度上げればボスには勝てるようになる。だが、途中から経験値と戦闘のバランスが崩れ始めてくる。

 戦闘はより大変になっても経験値がそこまでもらえなくなったり経験値がもらえても全然足しにならなくなったりする。

 実質、この第1階層はクリアするのに2ヶ月はかからないだろう。だが、2階層、3階層と行くうちにペースダウンしてくる。

 しかも、運営もウイルスつぶしにある程度人員を割くだろう。すると、バグ関連は対応が遅くなってしまう。イベント自体は前のものを多少改変、追加してそのまま出せばいいが、バグはそうはいかない。もしかしたらそれだけでプレイヤーの命にまでかかわってくるのだ。1にウイルスに2にバグ、3、4ぐらいにマップ改変によるイベント追加、改変といったところか。

 まあ、一人で考えられる範囲には限界がある。

 ここから先はあまり気にせずにゲームに専念しよう。


 まずは彼女が歩くこと。それを第一条件に考えないと。


「すいません!待ちましたか?」

「いんや、全然」

「それにしても、一体歩く練習って言っても何をするんですか?」

「一昔前にはやったお笑い芸人がいてね。その芸人たちのもち芸は『あたりまえ』だったんだ」

「……………はあ……」

「その芸人たちはこういった。『右足出して左足出したら―――歩ける』と」

「それをひたすらやるんですか?」

「まさか。荒療治って言葉。知ってるかい?」

「え?」

「その言葉をよーく覚えておくんだ。いい?」

「はいっ」

「じゃあ、フィールドに行ってみよう!」

「ちょちょちょちょっと待ってください!まさか、あれをするつもりですか?」

「あれって言われても分からないな」

「4日前掲示板で有名だったんですよ!」

「何が?」

「『怪奇!モンスター列車!モンスターの先頭にいるのは少年か!?』という記事があったんです」

「…………それ、多分僕」

「ええ!?」

「まあ、とにかく行ってみよう!」

「いやーーーーーー!!」


 こういうのは諦めとかいろいろなものが肝心になってくる。『歩く』事の恐怖より、『モンスターに襲われる』恐怖のほうが勝れば彼女は自然と歩くことができるようになる。現実において、緊張する場面でプレッシャーに負けたやつが失敗するのだ。ちなみに僕は緊張してもあまり失敗はやらない。最後の最後でやらかすか、最初にやらかすか。そのどちらか。


「もう、無理やりすぎます」

「大丈夫だよ。いざというときは君だけでも逃がして見せるから」

「………はい」


 なんかクイナの頬が赤いんだけれども。


「じゃあ、クイナが大声出してモンスターを呼び込んで。僕は後ろに、クイナが前を走る」

「はい!」


 彼女はプレッシャーに強いのか弱いのか分からないがとにかく、これで今回は動きを覚える、あわよくばレベル上げだ。

 事前にパーティとして組んであるので僕が倒せばクイナに、クイナが倒せば僕にも経験値が入ってくる。このゲームでは倒した敵の経験値をみんなで分けるというシステムだ。なので、ソロで一気にレベルを上げる人。みんなでたくさん敵を倒してレベルを上げるという方法がある。

 逆に言えばボッチほどソロプレイとしての適正が高く個人としては強いけどパーティではあまり強くない。

 世知辛い世の中だ。僕はボッチじゃないよ。………リアルではね。

 鎌みたいに個人でもパーティでも強いやつなんて言うのはむしろ珍しい部類だ。


「じゃあ、早速はじめようか」


 笑顔で切り出したもののクイナの顔は不機嫌に染まっていた。いや本当に。頬を膨らましてかわいいなとか思えるほど僕はそこまで客観主義者じゃない。


「わあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 腹のそこからの大声。もちろん、クイナのもの。

 それを聞きつけたプレイヤーも一瞬こちらへ注意を向けたほどだ。そして、モンスターもこちらを見つけて駆け出してきた。そりゃすごい数。


「ちょ!ちょちょちょ!無理ですって!私無理です!」

「大丈夫だ!まだあわてる時間じゃない!逃げるよ!」

「・s時hンf;・おsんh・g。ヴhrg;お!?」

「落ち着いて!ほら!ラマーズ呼吸法をするんだ!」

「ラマーズ呼吸法ってなんなんですか!?」

「ごめん!僕も実はよく知らない!ほら!走らないと来ちゃうから!スライムとか僕も苦手なんだよ!」


 やっぱり、この世界は世知辛い。

 クイナが一応前に来るように走っている。まだ、レベルや今までのブランクのせいでそこまで早いとはいえないけれどちゃんと走っている。

 でも、クイナのスピードに走る速さに合わせてる僕はちょこちょこ脚の早い狼に追いつかれるので、振り向きざまに蹴りをかましてはまた彼女の後ろについてを繰り返す。

 しばらくするとどんどんモンスターが多くなるので、いつものように列車ができる。今の現状はスライム10匹と狼4匹。最初のときと同じ割合だ。今となってはステータス的に余裕なので彼女のレベル上げには最適なはず。


「クイナ!そろそろ戦闘準備をして!」

「いやいやいやぁ!無理です!むりむりむりぃ!」

「キャラが崩壊してるから!頑張って!走ることができたんだ!あとは頑張るだけさ!」

「頑張ったらなでてくれます?」

「そんなもの!あとでいくらでもやってやる!…………え?」

「分かりました!頑張ります!言質とりましたからね?」

「クイナ、レベルは?」

「3です」

「まだ1とか2だと思ってた」

「一生懸命頑張ってるんですよ!?」

「まあ、こいつらを倒さないと!」

「そうですね」


 クイナは片手剣を、彼女の持っている剣は初期武器のショートソード。僕が扱うのが下手ですぐに消失させてしまったあれだ。本来のショートソードの耐久度は最初にしては平均的なものでここらの敵を50は倒さないと壊れないはずなのに僕が空ぶったせいで案外早く壊れた。

 そんな昔のことはどうでもいい!とにかく今はこいつらを倒すんだ。

 僕は素人ながらもボクシングスタイルをとり、相手に対して構えを取る。

 だが、僕は少し彼女を甘く見ていた。侮っていたといってもいい。


 僕ははじめて彼女を見たとき『不自然な動き』と表現した。

 もちろん、いまさらそれを変更することはない。というかむしろそれに拍車をかけたい。『不自然な動き』というのは人間としてみて『その動きが異常』と認識するから不自然である。彼女の武器の動かし方や、足捌きなんかはその不自然に慣れてしまっている。いや、少し違うか。慣れてはいるけれど表現が少しずれている。彼女もその動きが不自然だと認識している。その上で彼女はそれを活かした戦いをしている。

 正直に言うとモンスターのAIには対象の人間の動きをインプットして動きを良くして行く。だが、それはパーティでこそ真価を発揮するかもしれない。

 人間ですら『異常』と認識するこの子がAIに読み取られるまではクイナは強い。そして、シフトしてしまえば『彼女の動きによってインプットされた改善は無駄になる』。つまり、個人の癖を除き、それ以外の人間の動きというのは体重移動、足捌き腕の動かし方は少なからず体格によって左右されるものの同じような動きをする。

 そこから外れた動きをインプットしてしまったAIは再び敵の動きをインプットするという無駄な二重の無駄を重ねることになる。

 まあ、それでも人をやめるようなことはあまりさせたくないので矯正はする。―――――日常的に動きは。


「クイナ!その戦い方を今のうちに体に染み込ませておいて!」

「いまさらそんなことなんてできませんよ!この戦い方以外にできるはずがありません!」

「よし!それでいい!」

「え?」


 僕は近寄ってくるスライム3匹を、『拳乱打』で蹴散らし、彼女に視線を向ける。


「言っただろ!君の動きを矯正するって!でも、その戦い方は意外と有効なんだ!あくまで僕は君の基本的な動きを矯正するんだ。スタイルまでは矯正するつもりはない」

「分かりっ、ましたぁ!」


 こうして、僕たちはモンスタートレインを突破していった。

「ふう、レベルが上がったな」

「ええ、上がりました」

「今回で僕は1上がった。クイナは?」

「2です。これでレベルが5になりました」

「じゃあ、僕よりひとつ下だ。よし!じゃあ、走ったり歩いたりの練習をしよう!」

「――――そ・の・前・に!」

「っ!?」

「頭なでてください!」



「………はあ、分かったよ」



 彼女のほうが策において一枚上手そうだ。






 ちなみに彼女は飲み込みが早くあのモンスターとの追いかけっこで無意識に感覚を取り戻したようです。

 普通に歩くことができて彼女はとてもうれしそうでした。

 やっぱり恐怖は人を前に向かせることができるんですね。



この小説は友達のパソコンを借りて投稿しています。もしかすると、今後失踪したら、友達に何かあったとお思いください。誤字は、自宅のWiiから対応しております。

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