第十一話 疾風鎌鼬 後編
朝になるとみんなすでに支度をしていた。朝早いなあこの人たち。
「うっす。今日は君に面白いスキルをレクチャーしてあげるよ。成功確率は低いけれど失敗しても損にはならない」
鎌は朝から元気だ。
「あのスキルは本当にすごいもんな。なんたって―――」
「おっとそれ以上は言うな。それは手に入れてからのお楽しみだ」
ポロもかわもノリノリだ。このパーティの中で唯一まともといわれていた鎌がなんでこんなことになったのか分かる気がする。
絶対にツッコミをやらされるなー。僕。このパーティは一人一人が個性的過ぎる。
「そういえば。ポロとかわはレアスキル持ってないの?」
「当然持ってるよ。僕は、『幻影術士』のスキル。魔法使いのレアスキルの一つだよ」
「俺は、『暗殺』とこのレアウェポンだな。『儚木』、この刀は敵にターゲッティングされずに攻撃すると必ずクリティカルになるんだ。『暗殺』はクリティカルにすると一定確立で即死する」
「うわ、えげつない」
クリティカルにならないと即死しないのにその確立が100%だったら即死になる確率も結構高いんじゃないのか?でも、ボスにはたいていそういうのに耐性があるはずだからボス戦ではクリティカルでしか役に立ちそうにない。
「僕のレアスキルは5個くらいあるよ」
確かに多いな。普通の廃人が3つ持ってるぐらいだからこいつも廃人なのか?
「もっとも代表的なのが『再生』パーティが全滅しない限り何度でも蘇生する。レア度が4の最高値スキル」
「おかげで称号に《ゾンビ》なんて不名誉な称号が追加されて困ってんだよ!」
一瞬鎌の本音が見えた気がしたが気にしない。
今の鎌のせりふの『称号』とはよくあるシステムだ。
自分の持っている称号にあわせてステータスが上下する。称号は一つしか持てないということはないが、一つしか装備できない。変な言い回しだが実際そうなのだ。
例えば、『ステップ』を使った戦い方をずっとしていると、《ステップ使い》なんて称号が出され、すばやさのステータスが上がる。他にパワーごり押しのスタイルだと《ごり押し》という称号が追加されて攻撃力のステータスが上がる。
称号も使い方によっては戦いが有利に進むため、称号は持っておいて損はない。
もしかして、今回のスキル習得は失敗しても称号がもらえるというものなのだろうか。
うーん。こいつらの考えていることはよく分からない。
そんなことを考えながら、僕も部屋の中で支度をしていった。
「じゃあ、最初に町を歩きながら回復形のアイテムを持っていこうか。今日は一応フィールドに出るよ。モンスターと戦うとかじゃないから安心して」
そんなせりふを信用とした僕は結構馬鹿だったのかもしれない。
だって、鎌が商店でかったものが、『毒薬』と『解毒薬』。そして『封印薬』その3つを買っていた。『毒薬』の効果は大体わかるだろう。使った相手を毒状態にする。まあ、基本的な道具だ。『解毒薬』は毒を治す。まあ、これも分かる。そして最後の『封印薬』この一つを大量に買っていた。とんでもないくらいに。軽く50個は買っていただろう。
なんとなく想像できてしまうのだが。
『封印薬』その、アイテムの効果は名前だけでも想像できる。効果は、一定時間『スキル』を封印するスキルだ。スキルが使えない状態といってもいい。もちろんボスには効かない。けれど、これを使ったら最後。レアスキルも技スキルも移動系スキルも使えない。
それを解除するには『破魔の水晶』というアイテムでその封印効果をなくすという方法しかない。なんとも厄介な薬だ。決闘では反則になるので使おうとすれば即負けになる。
とりあえず、結構厳しい修行をするつもりなのだろう。
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エリアに出ると鎌が言った。
「君には、毒薬を飲んで、HPがレッドゾーンに入ったらこの解毒薬を飲む、HPがレッドゾーン入る直前にこの封印薬をずっと切れる直前に飲んでもらうよ。そうだね――最低でも10時間。長くて24時間くらいかな」
長ッ……
「まあ、この方法自体はいいけれど何で毒薬?」
「別に、かわのスキルでもいいんだけどさ。今はログアウトできなくて『HPが1になると』町に戻されちゃうじゃん?それは僕らにとっては望ましくないのでとにかくずっとこれでやるしかないんだよ。あっ、勿論みんなには内緒だよ」
「分かってるよ」
「敵の出るフィールドじゃないとうまくいかないからねえ」
「えっ、レッドゾーンの状態で襲われたら間違いなく僕死ぬよ?」
「大丈夫。そのために僕らがいるんだから」
「ええ、信用できないな……」
「じゃあ、あそこにいるジャイアントアント。一撃でしとめてくるから待ってて」
え?とつぶやいた瞬間には鎌の姿はそこにはなかった。気がつけば巨大蟻との距離は数メートルほど。すると鎌はそのまま蟻の正面から突っ込んでいき拳にスキルのエフェクトをまといつつ拳を叩き込んだ。
すると巨大蟻のHPバーが一瞬で真っ赤に染まり巨大蟻は死滅した。
は?
「おーい!見ててくれたー?今のは『拳闘士』の第2スキルの『正拳突き』っていうスキルなんだ!」
あまりにも余裕のありそうな笑みでそう返してきた。第2スキルとはいえ『一瞬で』0なんていうのはあまりにもおかしな話だ。何をしたらそうなるのだろう。一瞬G○版のポ○モンを見ている気分だった。
ちょっとあれおかしくね?鎌のステータスどうなってんの?
僕の今の攻撃力は54だ。あいつのクリティカルの部位は頭頂部。それを使わずに、あれをぶっ殺すって言うのは………100はくだらないよな。
速さも、攻撃力も申し分なし。
「どうだ?一応パーティの中ではあいつが一番攻撃に特化してるんだ。でも、絶対に怒らせないほうがいい。そんなことをされたら『俺たちが』束になっても勝てないから」
仲間が束になっても勝てないとかなにそれ。
「一応、逃げるすべくらいは用意してるけどね(棒)」
「ポロが『幻影術士』のスキルを手に入れてくれなかったらあの時死んでたよ(棒)」
せりふが棒読みなっている。つまりそれは嘘なんだな。こいつらは嘘が下手なんだな。
「まあ、今のは嘘だけど束になっても勝てないのは本当だよ」
「すばやさで俺と並ぶとか忍者の利点を殺すんだもんな」
え?すばやさで鎌ってかわと並んでんの?マジで?
「称号《鎌鼬》すばやさのステータスが大幅に上がる称号さ。今はゾンビだけど」
「ゾンビゆうな!」
「ゾンビなうw」
「いまどき『なう』なんて言葉を使うやつなんていないから。10年以上前だろそれ!」
確かにこのパーティで鎌が一番まともって言う理由が分かった気がする。中二病がたまに出てくるけど。
「じゃあ、護衛は僕たちに任せて、トウマは普通にHPレッドゾーンで構えてればいいんだよ」
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あれからどれくらいの時間が経っただろう。
正直数えるほどに余裕は無い。
おなかが減っても何も食べられないし、のどが渇いても何も飲めない。そういうアイテムはわずかにだが回復するので絶対に食べるわけには行かないらしい。現代に甘やかされて育ったもやしっ子の僕たちにはとって辛い。多分スキルの習得の過程において逃げ出した人が多かったのだろう。その中にはこのパーティに関わりたくないと思った輩もいると思う。
鎌は「中々こらえるね」といい、ポロは「今時ここまで食欲を我慢した人はあまり見たことが無いね」といい、かわは「俺たちも今時の子供だろうが」といい、それに対して鎌が「『ゆうや○にゃんにゃん』知ってる時点でお前は現代の子供じゃないと思う」かわが「親父が持ってたビデオテープ片っ端から見てったらあったんだよ」ポロ「まあ、僕ら自身がお前いくつだよみたいなネタを知ってるからね」とよく分からない話をしていた。
『ゆうや○にゃんにゃん』って何?
そろそろ夕日が傾いてきた。
あれをはじめたのが午前9時くらいだったのでそろそろ9時間ほど経っていることになる。
「じゃあ、僕らはそろそろ夕食の準備をしようか」
「「うん」」
人が断食している中で普通に飯食うのとかやめろよ。あれか?僕をゲームの中で仙人に仕立て上げようって言うのか?あん?一人1回『拳乱打』打ち込んでやろうか。未練がましく持ってきた食べ物をにらみつけていた。
「じゃあ、僕は野菜切るから、かわは肉の下ごしらえお願い」
「分かった」
「僕は、オリジナル特製野菜ドレッシングを―――」
「「ポロは余計なことをするな!(しないで!)」」
この二人の目はおびえている。一体ポロには何があるっていうんだ…………。
「お前以前俺たちを猛毒状態で殺しかけたのを忘れたのか!?」
「おかげで僕たち死に掛けたんだぞ!?解毒薬持ってなかったからHPはどんどん無くなっていくし、回復薬でしのんだけれどさ!あれ下手したら死に掛けてたんだぞ!?ポロは料理禁止!ドレッシングでも!」
ポロは料理禁止らしい。
僕はそろそろ眠くなってきたな。おなかも結構減ってるし。あ、そろそろ封印薬を飲まなきゃ。………腹の足しにならないなぁ。
「ついに何もしゃべらなくなっちゃったねえ』鎌は苦笑、「こいつどことなく鎌に似てるよな」ポロ。僕は中二病じゃない。「なんだかんだいっても助けてくれそうなあたりとかさ」とかわ。鎌の評判はこのパーティでは上々らしい。
ついには暇になったのでスレッドを立てようとしたところでフレンドからのメール、差出人は『クイナ』からだ。内容は『今暇ですか?』とのこと。
こういうとき、どうすればいいのか頭が回らない。おなかが減ったな。とりあえず鎌たちに聞こう。
「ちょっと、『今暇ですか?』って聞かれたんだけどどうすればいい?」
「そうだね。スキルのことは広めたくないから、『今モンスターと戦ってレベル上げしてる』とでも返しておいて」
その言葉どおりに返して、しばらく。
すると、突然、鎌が露骨に舌打ちをして、川が僕の鎧の首根っこを引っ張り、ポロはいきなり杖を用意していつでも魔法を唱えられますよ状態になっている。
かわが小声で話しかけてきた。
「(お前、『拳闘士』目指してるんだろ?なら、この機会に見ておけ。俺たちが鎌を怒らせたくない理由)」
「(じゃあ、やるよ)」
ポロの小声が聞こえる。
「(『隠密』)」
「『(幻影術士)』」
二人が同時にスキルを唱えた。
少しすると、たくさんの足音が聞こえてきた。聞いていると人間の足音ではない。モンスターの足音だ。
薪の火は消されあたりには足音だけが響く。少しずつこちらに向かってきている。…………そして、目にしたのはジャイアントアントの群れ。10はくだらない。それぐらいの数のジャイアントアントがたくさんいた。蟻というだけあって社会性も備えている。
「クケッ♪」
その狂気じみた歓喜の声のようなものを聞いてからの鎌はすごかった。
まず、目でスピードが追えない。気がつけば1体、そしてまた1体とすごい勢いで敵を倒していく。そして、そのあまりの惨状に僕は最後には気を失った。




