川村物語 第四話
日はまだあるが、果色も万里も帰ってしまったし、気分的にこのまま目的地とやらに行く気にはなれなかった。なので、全身から不機嫌なオーラを発しながら果色達が行った方を睨んでいる仁坊を、五郎と引きずって帰ることにした。
帰る途中、不意に仁坊が俯きながらボソボソと何か言ったが、おれには聞こえず、表情も分からなかった。
「ただいま。じいちゃん?」
家に帰ると、居間に行ってじいちゃんを呼んだ。大抵じいちゃんは居間に居るからである。案の定、じいちゃんはこちらに背を向けて庭を眺めていた。
「早かったの。」
「…あぁ、うん。」
隣に座ろうとするとじいちゃんから声がかかった。おれの声は聞こえていたらしい。
「どうしたんじゃ。」
おれが、帰ってきて早々に居間に来るのが珍しかったのか、それとも、おれの様子からなにか悟ったのか、じいちゃんから聞いてきた。たまにあるが、いつもびくりとさせられる。嘘が通じなさそうで、怖い。しかし、今は好都合である。聞きたいことがあるから、珍しく帰ってきて早々じいちゃんを探したのだ。
「最近洪水が頻発してる。って、どういうことなんだ?」
「…。」
じいちゃんは答えない。急かそうと、言葉を重ねた。
「仁坊達から聞いたんだよ。ついでに、その洪水の事で仁坊と果色が喧嘩して今日は解散になった。」
じいちゃんはふっと息を吐いた。
「まだ、やっとったんか。」
「!、知ってたのか。二人の事。」
「ああ。」
ありえない話ではないだろう。じいちゃんは仁坊達から好かれている。五郎と万里が相談しに行っていたのかもしれない。
「仁坊も阿呆なことをする。洪水の原因やら、分かったところで止めるこたぁ出来んじゃろうに。」
「…じいちゃんも、そう思うか。」
「わりゃぁそう思うんか。」
「…え。」
予想していなかった返しに戸惑った。少しの間逡巡したが、答えられなかった。
「いや…わかんねぇけど…。果色ができる訳ないとか言ってたから…。」
ぶつぶつと言って俯いた。果色のことを出して自分のことを誤魔化している気がして気分が悪くなった。
「…っんでさ、教えてくれよ。洪水のこと。じいちゃんは水神様の神社の神主だろ?」
水神様は村唯一の川の上流付近に立っている神社に祀られている、川の神様で、村の守り神だ。じいちゃんはそこの神主をしていて、村の人間からの人望も厚く、相談しに家に来る人も多い。だから、知っているはずなのだ。少なくとも五郎から聞いた話よりも多くのことを知れるはずだ。
「わりゃぁそうやって誤魔化していくんか。」
「!…っ…。」
これだから年寄りは恐ろしい。妙に鋭くて、一番付いて欲しくない、痛いところに特に気付いて突いてくる。全部見透かされているみたいで、自分が惨めに思えて…嗚呼、気分が悪い。
話なんて聞かずに、このまま部屋へ行ってしまいたかった。知らなくたって良いじゃないか。別におれはここの村の住人ではないのだ。知らなくても明日仁坊達と川へは行くことになる。知らないままでも…
―――『スマンの』―――
「…っどうだって良いだろ。そんなこと。それよりも、早く教えてくれよっ。」
振り絞るように声を出した。震えてしまっていたろうか…。頭をよぎったのは、喧嘩していた仁坊と果色。それを心配そうに見ていた万里。五郎の謝ってきた時の顔。おれは爪が食い込むくらい強く手を握った。…冷静になれ。ここで感情的になってしまえば話が聞けなくなってしまう。
じいちゃんを見ると、おれの話を聞いていたのか、いなかったのか、変わらず庭を見ていた。
「…われからしてみりゃぁ、笑ってしまうような話かもしれんぞ。」
「!」
話してくれるらしい。…笑ってしまう?ってどういう意味だ?予想がつかなかったが、話を聞けばきっと全部分かるんだろう。
「…別に信じるかは話を聞いてから自分で決める。」
おれの返事を聞くと、話し始めた。
だいぶ時間があいての投稿となってしまいました。少しスランプ気味でして…すみませんっ。早く投稿できるよう頑張ります…!
今回は、この場をお借りして謝罪したいことがあるのですが…
第二話にて、サブタイトルの「川村物語」が「川物語」になってしまっていました。ちゃんと確認せずに投稿してしまい、本当に申し訳ありませんっっ。
直しておきたいと思いますっ。
それでは、毎回こんな物語を見て下さり、ありがとうございます。これからも頑張りますので、見捨てないでいただけると嬉しいです。