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川村物語  作者: 加賀浜子
4/5

川村物語 第三話

最初は焦っていたおれも、五郎や万里の様子を見て落ち着いてきた。少なくとも、仁坊と香色の喧嘩の仲裁に入ろうと思えるくらいには…。どこまでも平行線の仁坊と果色へ少し近づくと、おれは二人の声に負けないように声をかけた。

「おい、少し落ち着けよ。二人共。」

「「わりゃぁ黙ってのっっ!」」

怒りの形相のままの二人に声を合わせて一刀両断されてしまった。「…ぁ…ぁあ…。」と、我ながら情けない声が出てしまう。となりに来ていた五郎と目が合うと、「ほらね。」とでも言うように肩をすくめてみせた。一度声をかけて突っぱねられただけで、手がつけられないと理解した。これは何度声をかけても同じだろう。太陽はおれ達のちょうど真上にある。このままこれを止めることができなければ、おれ達は目的地へ付くことなくUターンして家に帰らないといけない。日は伸びたが、夏といえど午後になれば気温は下がっていくだろう。

「なあ、その川の上流って何処まで行くんだ?」

五郎に目を向けそう聞くと、五郎は少し考える素振りをし、菓子をもぐもぐやりながら答えた。

「何処ってゆうと…そうじゃのぉ。山の中に入って三十分くらい歩いたところにあるんじゃが、川の周りが他と違って開けとって、飛び込みとか出来るところがあるんじゃ。」

口の中の物を飲み込んで、そこだ。と最後に付け足した五郎に礼を言うと、今度は喧嘩中の二人を見ながら(よくもまぁ、あんなにずっと怒っていられるものだと思う。)万里に声をかけた。

「あの喧嘩って、いつもどうやって終わらせてるんだ?」

万里はこちらに目を向けると、口を開いた。

「終わらせるっちゅうか…おおかたこのくらいになると、果色が…。」

言って果色の方へ視線を向けた。その時一段と大きい声が響いた。果色のものだ。

「ああぁっっ!もうええっ!知らんっ!人のゆうこと全然きかんガキなんて知らんっ!」

おれも二人へ目を向けた。どうやら果色が先にしびれを切らしたようだった。果色の言葉を聞いた仁坊は不機嫌をあらわにして同じくらい大きな声で言い返した。

「知らのぉてええわ!そがぁなんなら、もう付いて来んなっ!」

仁坊の言葉にいち早く反応したのは万里だった。弾かれたように走り出し、仁坊と果色の間に入る。

「ちぃとっ仁っ!なんぼなんでもゆい過ぎでっ!」

キッと睨んでくる万里に怯む様子も見せず、仁坊はなおも言い募った。

「ゆいすぎなわけあるか!こんなぁ(こいつ)が五月蝿いからそこまでいうならいね(帰れ)ってゆぅただけじゃっ!」

さっきより言っていることがきつくなっているのは気のせいではないはずだ。流石におれも言い過ぎに思えてきた。果色のほうを伺いつつ万里に加勢する形で仁坊に声をかける。

「仁坊っ!落ち着けよ。なにもそこまで言う必要はないだろ。」

おれの声を聞くと、お前もいうか。とでも言うようにおれを睨み、何かを言おうとした。しかし、それは今日のうちで一番荒々しく、でかい声によりかき消された。

「わっ「いぬる(帰る)っっっ!」…!?」

果色が叫び、くるりと踵を返して来た道を駆けていく。

「果色!?…っ待って!」

万里も果色を追いかけようと走り出す。途中で立ち止まって呆然と見ているおれ達を振り返った。

「今日ははぁ(もう)いぬるね!また明日!」

そう言うと、今度は振り返らずに走って行った。いきなり始まった喧嘩はいきなり終わりを告げた。だが、果色と仁坊が和解したわけではない。明日会うとき、果色は来るだろうか…。

「思うとったよりも大喧嘩になっちゃったのぉ。」

五郎が困ったように呟いた。

「スマンの。」

おれにはそれがどういう意味で言った言葉なのか分からなかったけれど、その一言が、ただ先ほど起こった一連の騒動に対して、謝るためだけに発せられたものではないことは、なんとなく分かった。

随分と久しぶりになってしまい、申し訳ありません。おそらく次話以降もこのような感じになってしまうと思いますが、気長に待っていただけると、嬉しいです。

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