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川村物語  作者: 加賀浜子
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川村物語 第一話

じいちゃんに返事をした後、だいぶ離されてしまった皆を走って追いかけた。

「じいちゃん、なんか言ぅとったか?」

「ああ、日が落ちきる前に帰って来いって。」

仁坊の問いに答えると横から妙に演技臭い声が聞こえた。

「ほ~う、お爺ちゃん優しいのぉ。」

五郎だ口にもの入れてるから聞き取りづらい。そしてそのしみじみとした顔やめろ。

「おまえそれじいちゃんに聞かれたら間違いなく杖の食らうぞ。」

笑い混じりに突っ込む。横で震えてる仁坊は無視しよう。何をそんなにウケたんだ…?顔か?


おれ達は今、村に唯一流れている広い川沿いに整備された道を歩いている。此処の景色はいつになっても変わらない。おれ達が歩いている土手の先に川がゆったりと水を湛えて流れる。気づけば、川の脇を千里と果色が歩いていた。

「お~い、三人ともこっち降りといでよ~。そっちよりゃぁ涼しいよ。…多分。」

千里が手を振りながら呼んできた。成程。今日は日差しが強い。太陽は頭上に照っていて周りに入れそうな影は無い。川の傍の方が涼しいかもしれない。おれ達はばらばらに適当な返事をして土手を下った。

「と言うか、おれ達はどこに向かってんだ?」

千里達と合流し、のんびりと歩きながら、そんなことを聞いてみた。成り行きと言うか、ノリと言うかでここまで何も考えずになんとなく歩いてきたが、流石に何の目的もなしにただ歩いているのも暇だ。それに、こいつらがただ歩いているだけで終わらすようなことはしないだろう。おれが嫌だと言っても無理やり巻き込むような奴らだ。

「川に行くんで!」

待っていたように五郎が巾着からかりんとうを出す手を止めずに答えた。

「川?…って、此処、川じゃねえのか。」

右手には川が変わらずゆっくりと流れている。この村にはこの川しかないはずだ。

「川ゆっても、此処じゃのぉて、もっと上流の方に行くん。」

千里がこちらに顔を向け、付け足すように言った。だから、川の流れる方向と逆に歩いているのか。

「いや、でもなんで川の上流なんだ?おまえらいつでも行けるだろ。そんなとこ。何しに行くんだよ。」

おれの不審そうな声に、何故か仁坊は得意そうに笑っている。何か裏のありそうな顔だ。五郎も何かを言いたそうだ。何があるってんだ?千里は微妙な顔してるし。果色は、急に不機嫌そうに顔をしかめた。

「ふ、実はな…調べに行くんじゃ!」

……。

「なにを?」

どうだ。とでも言うような仁坊だが、おれには何が何だか。調べに?何を調べに行くんだ。こいつらは。まったく。仁坊は言いたいことを先に言ってそのあとの説明が何もないからいけない。おれは説明を求め、こういう時一番頼りになる千里へ目を向けた。…千里の横で黒いオーラを放っている果色が微妙に気になるが。

千里は分かっていたのか、少し長いけど。と前置きをして話し始めた。

「夏休みが始まった位の頃からかの、急にね、洪水が何回も起こるようになったんだんじゃ。」

「洪水?雨でも多かったのか?」

おれの方は雨が全然降らなくて苦しい思いをしたんだが。

すかさず五郎が口をはさんだ。

「それが、雨は全然降っとらんのんだんじゃ。」

おかげで大変じゃったんで。と言って五郎は背中を丸めて疲れた表情をして見せた。なんだ。おれの所と同じか。続きを聞こうと、千里へ顔を戻す。

「おかしいって、皆意言ぅとる。村長さん達が調べとるが、何も分からのぉて。」

千里は言いながら表情を曇らせた。洪水の被害に遭った民家や畑も少なくないようで、皆困っているようだ。にしても、雨も無いのに、変な話だな…。

「それで、その事と川に行くのと、何か関係があるのか?」

予想はつく。しかし、確認しておきたかった。そして、言いたくてうずうずしていたのだろう。仁坊がおれ達の前に回り込んで言った。

「村長達をあてにしょぉってもらちがあかんから、わし等で解決しちゃろうって事になったんだんじゃ!」

仁坊にぶつからないよう、自然と足が止まる。あまり驚きはしなかった。そんなことを言い出すんだろうなとは思っていた。しかし、そうか!とすぐに納得できるほどおれの順応力は高くはないらしい。笑い混じりになってしまうのも許していただきたい。

「仁坊。本気で言ってるのか…?」

村長さん達が調べているのに分からないことを、自分たちだけで解決してやろうなど不可能に近い。それを本気でやろうと言うのだろうか。この猪突猛進は。

おれが笑っているのが気に食わなかったか、聞き返したのが不服だったのか、仁坊は失敬な、と顔をしかめた。

「本気に決まっとる。」

さうですか。

「下流の方じゃぁ何も分からんかったけぇ。やっぱし上流の方に何かあるんじゃないかゆぅて思うて。」

そう言った五郎は目が輝いている。やる気のようだ。五郎も本気で調べようとしているのか。千里に目を向けるとお手上げとでも言うように両手を肩の高さにあげてポーズをとった。

そこでおれは千里の隣にいる奴の黒いオーラに拍車が掛かっていることに気づいた。流石に変だと思った。千里に隠れてよく見えない果色の表情を確認しようと、おれは少し前に出て、果色へ顔を向けた。

「…ど、どうしたんだよ。果色。」

果色はきっと目を吊り上げ口をひん結んで怒ったように仁坊を睨んでいた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

進む速さは亀並ですが、のんびり読んでいただければ幸いです。

これからも頑張りますので、暇だな~って時に覗いていただけると嬉しいです。

…図々しいですかね…。

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