忘却亭
初投稿なので拙い文章だとは思いますが、よろしくお願いします!
感想とか星5レビューとかもらえたら嬉しいです!
大雨の中フードを被った一人の男が立ち止まった。
「雨は嫌いだ…」
ワタルは呟いた。
「本当にここで合ってるのか?」
また独り言を口にする。
“人生であった辛い記憶を売ることができる店があるらしい”
彼がそんな噂を聞いたのは職場の同僚からであった。
その話を当てに来てはみたが、眼の前にあるのはどう見てもただのあばら家だ。
屋根はボロボロ、窓はひび割れ、壁の木材には黒いシミが付いている。
ただし、屋根のあたりに取り付けてある看板だけは不釣り合いなほどに綺麗だった。
そこには“忘却亭”と書いてある。
(店にすら見えないんだが…)
足元に何かが触れた。見れば、細い糸が伸びている。
その糸を引いたように、店の奥でベルが鳴った。
「お客さんかね?」
みすぼらしいあばら家の奥からみすぼらしい老婆が現れた。
「買い取ってほしい記憶がある」
ワタルは単刀直入に話を振った。
「そうか、ただしあたしゃ頂く前にその記憶を一度見てから判断することにしてるんでね。
値踏みだよ。」
彼女はそう言った。そして店の中に青年を案内し、机の上に置いてあるいかにもな感じの水晶に
両手を当てて何か呪文のようなものをブツブツ唱え出した。
オンボロな床の木材の隙間から浮かび上がるほどの強い光が地面から差した。
そして、ワタルの頭から出てきた青い光の流れのようなものが水晶に流れ込む。
水晶に少年が青年に至るまでの映像が映り出した。
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二人の少年がいた。二人は同じ地で育ち、同じ夢を見た。
一人はエルフ、もう一人は東洋系の人間であった。
リオルド・シルヴァリエとワタル・ツキシロは親友であった。
右耳と左腕に軽いやけど跡のあるエルフの少年が言った。
「ワタル、俺達絶対に魔道士になろうな!」
使い古しの黄緑色のTシャツを着ている人間の少年が言った。
「リオルド、ただの魔道士じゃねェぞ、最上位の魔道士になるんだ!」
彼らは比較的貧しい家に生まれた。衣食住全て苦しいほどではなくとも
とても贅沢できるようなものではなかった。
「魔道士にさえなれば、父ちゃんも母ちゃんも楽させてやれるんだ!」
二人は修行に励んだ。来る日も来る日も、魔法の詠唱練習、設置型魔法陣を書く練習、
魔力強化、基礎体力づくり、その繰り返し。
彼らの努力は、自分たちの小遣いを出し合って魔導書を買うほどであった。
そして、ワタルとリオルドは魔道士になるための試験“魔導試験”に向けて本格的に練習を始めた。
魔導試験に合格するのは年間で100人に一人と言われている。
彼らの最終目標である最上位魔道士に昇格できるのはさらにその100分の1と言われている。
2年後、遂に試験の日がやってきた。
ワタルにとって1次の筆記試験などその後に控える2次の実技試験を考えれば朝飯前である。
問題はその2次試験であった…。
これは毎年競技が変わる形式になっている。今年の場合は魔法使い放題のレースだ。
ワタルは最初、俊敏性上昇を自分に付与して走った。
首位をキープとまではいかなくとも、なんとか周りに付いては行けていた。
しかし、突然何処からかとてつもない量の風魔法の衝撃波を浴び、ゴールに遠ざけられたがために
結局完走する頃にはワタルの後ろに走るものは一人もいなかった。
翌日、ワタルは恐る恐る合格発表の掲示板を見に行った。
しかし、眼の前に自分の受験番号は無かった…
帰ろうとしたとき、リオルドに遭遇した。
「よ、よう!リオルド…!
丁度結果発表を見てきてさ、俺落ちてたわ…!」
「あの風魔法、実は俺が撃ったんだ…」
「ハッ?!おい…冗談は止せよ」
ワタルは苦笑した。
「お前に魔道士は無理だ、才能がない」
無機質で冷たい声の奥底から、何かが必死に叫んでいるようだった。
「なんで…なんでだよ!リオルド!わざわざ妨害する理由になってねえよ!
俺達ここまで一緒に頑張ってきたじゃんか!」
「俺はエルフ、お前は人間だろ。
魔力量も寿命も違うのに対等だとでも思ったのか?…おこがましい」
男は回れ右をし、去ろうとする親友の肩を掴んだ。
「待てよ、本当にそれだけかよ?!」
「ああ…そうとも」
「俺は諦めないぞ…!」
その目は今にも睨み殺しそうな表情であった。
手を振りほどいてリオルドは去って行った。
雨が酷くなる。土砂降りの中、男が一人膝をついた。
天を仰げば視界が歪んでいる。
「……雨は…嫌いだ…」
しかし、その後もワタルが何度試験を受けても合格することは無かった。
結局今は魔道具の営業、販売を行っている。
時が経ち、子どもが出来、あの頃の絶望と嫉妬と憎悪は薄れてきていた。
しかし、リオルドのことを考えると今でも時々うなされる。
半生をともにした親友のことを忘れるなど不可能である。
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「なるほどねぇ…さぞかし辛かったろう」
同情気味に老婆が言った。
「こんな記憶ない方がいい…」
「いや、あたしゃ二人の記憶を見て言ったんだよ」
「どういうことだ?!」
ワタルは驚いて聞いた。
「まあ、これを見るんだね」
再び水晶が光ったが、今度は黄色であった。
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エルフ…厳密にはハーフエルフの少年には父親がいた。
人間ではあったが、立派な魔道士であった。母はエルフで魔法学校の先生をしていた。
ある時ドラゴンが現れ、討伐隊の招集がかかった。
母が危険すぎると反対したので、父は引き下がった。
なにも命の危険を冒してまですることはない。
しかし、結局自分たちの住んでいた村はそのドラゴンに滅ぼされた。
父親は竜炎から妻子を庇って死んでいった。
並の人間の魔力量でドラゴンに勝てるわけもなかった。
その後、討伐隊によってドラゴンは討伐されたが大きな傷跡を残した。
少年は魔道士を志した。
母親には反対されたが、自分の持つ魔力量を無駄遣いするのは世のためにならないと判断した。
彼はハーフエルフとはいえ、魔力量は普通のエルフよりも膨大であった。
やがて、人間の少年と会う。
彼には父の覆轍を踏んでほしくはなかった。
試験で彼を妨害し、彼の気持ちを裏切るようなことを言った。
ワタルに死んでほしくはなかった…。
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「そんな…俺はなんてことを…
あいつの記憶を消そうとするなんて…」
ワタルはあまりのことに呆然とした。
老婆が言った。
「あんたには記憶を消すよりやるべきことがあるだろ」
「ああ…その通りだ」
男は老婆に握手をし、深くお辞儀をした。
「本当にありがとう…」
そう言って商品の魔道具を使って転移していった。
「毎回、商売にならないね…」
老婆はそう言って微笑んだ。
人里離れた一軒家がある。
“シルヴァリエ”と書いてある看板がある、久しぶりに見る光景だ。
ワタルは花束とお菓子の入った袋を持ってドアの前に立ち、ノックした。
「はーい!」
奥から女性の声が聞こえてきた。ドアが開く。
「どなたでしょうか?」
出てきたのは、女性のエルフであった。
「旦那さんに用があってきました。どうしても、お礼を言いたくて…」
「リオー!知り合いの方よー!」
奥の方からエルフの男がやってきた。
「守ってくれてたんだな、ありがとう」
「俺もあんなやり方しか分からなくて、悪かった。
まあ、上がってけよ。
そろそろ夕飯なんだ」
二人とも家の中に入っていった。
夕立はすでに止み、晴れていた。
もうヘトヘト。




