第8話 「囚われの友」
トムが連れ去られてから、二日が経った。
街の空気は、日に日に重くなっていった。
伯爵は、まだ街に滞在していた。毎日のように、冒険者たちを再調査に呼び出し、長時間尋問していた。
朝、宿の食堂で朝食を取っていると、隣のテーブルの冒険者たちが小声で話しているのが聞こえた。
「昨日、レオンが呼び出されたらしい」
「レオン? あの、ベテラン冒険者の?」
「ああ。夕方に呼ばれて……まだ戻ってきてない」
「まさか……」
「分からん。でも、良い予感はしない」
あかねは、スープを飲む手を止めた。
また、誰かが消えた。
「あかね、食べないの?」
エルミナが心配そうに尋ねた。
「うん……お腹、空いてなくて」
「無理もないわね」
セリアが小声で言った。
「この状況じゃ、食欲も失せるわ」
その時、ギルドの方から、悲鳴が聞こえた。
四人は顔を見合わせ、急いで宿を出た。
ギルドの前には、人だかりができていた。
中央に、一人の若い男が立っていた。服は汚れ、顔には絶望の色が浮かんでいる。
「助けてくれ! 誰か、妹を助けてくれ!」
男は、叫んでいた。
「伯爵の兵士が……妹を、無理やり連れて行ったんだ!」
「落ち着いて」
マリアがギルドから出てきた。
「何があったの? 詳しく話して」
「妹が……リリィが、連れ去られたんです!」
男は、涙声で訴えた。
「今朝、伯爵の兵士が家に来て……異世界人の疑いがあるって……」
「でも、妹は違います! この街で生まれ育ったんです! 証人もいます! なのに……」
男は、地面に膝をついた。
「お願いです……誰か、助けてください……」
周囲の冒険者たちは、顔を見合わせた。
誰も、前に出ようとしない。
当然だ。相手は貴族。王の代理人。
逆らえば、自分も捕まるかもしれない。
「すまない……」
一人の冒険者が、申し訳なさそうに言った。
「俺たちには、無理だ。相手が貴族じゃ……」
「そうだ。俺たちにできることはない」
他の冒険者たちも、次々と去っていった。
男は、絶望した表情で、地面を叩いた。
「誰も……誰も、助けてくれないのか……」
あかねは、その姿を見ていられなかった。
胸が締め付けられる。
トムさんは、自分の代わりに捕まった。
今度は、無実の女性が連れ去られた。
このまま、見ているだけでいいのか?
あかねは、一歩前に踏み出した。
「私が、行きます」
静寂。
全員が、あかねを振り返った。
「あかね……」
セリアが、驚いた表情であかねを見た。
「何を言ってるの?」
「妹さんを、助けます」
あかねは、男に近づいた。
「詳しく、教えてください。妹さんは、どこに連れて行かれたんですか?」
「伯爵の屋敷だ……街の北にある、貴族の別荘」
男が、希望を見出したような表情で答えた。
「いつ?」
「一時間前……伯爵の兵士が四人、突然家に押し入って……妹を引きずり出して……」
男の声が、震えた。
「妹は、抵抗したんだ。違うって、叫んでた。でも、兵士は聞く耳を持たなくて……」
「俺は……俺は、何もできなかった……」
男は、自分の無力さに打ちひしがれていた。
「あかね、待って」
セリアが、あかねの腕を掴んだ。
「本気で言ってるの?」
「うん」
あかねは、セリアを見つめた。
「見捨てられない」
「でも、相手は貴族よ。伯爵の屋敷に乗り込むなんて……」
「分かってる。でも、私、逃げたくない」
あかねの目は、決意に満ちていた。
「トムさんは、私の代わりに捕まった。今度は、無実の人が連れ去られた」
「私が、何もしないなんて、できない」
セリアは、しばらくあかねを見つめていた。
そして、ため息をついた。
「分かったわ。じゃあ、行きましょう」
「セリア……いいの?」
「あかねが行くなら、私も行く」
セリアが微笑んだ。
「家族でしょ? 一人で危険なことさせるわけにはいかないわ」
リーナとエルミナも、近づいてきた。
「私たちも、行くわ」
エルミナが言った。
「あかねだけに、格好つけさせないわよ」
「それに、このまま何もしないなんて、後悔しそうだし」
リーナが肩をすくめた。
「ありがとう……みんな」
あかねは、涙が出そうになった。
「でも、危険だよ。伯爵に逆らうってことは……」
「分かってる」
セリアが真剣な表情で言った。
「でも、正しいことをするのに、リスクを恐れてちゃダメ」
「それに」
セリアが、周囲の冒険者たちを見回した。
「誰もが見て見ぬ振りをする世界なんて、間違ってる」
あかねは、セリアの言葉に勇気づけられた。
「じゃあ、作戦を立てましょう」
四人は、ギルドの個室に集まった。
テーブルの上には、街の地図が広げられている。
「まず、伯爵の屋敷の場所を確認しましょう」
セリアが、地図上の一点を指差した。
「ここ。街の北にある丘の上」
「どんな建物?」
「貴族の別荘よ。石造りの二階建て。周囲には高い塀がある」
セリアが説明した。
「私、昔に一度行ったことがあるの。別の貴族のパーティーでだけど」
「構造は、分かる?」
「大体ね。正面玄関、大広間、寝室、使用人部屋……そして、地下に牢屋がある」
「牢屋……」
「ええ。貴族の屋敷には、大抵牢屋がある。使用人を罰するためとか、捕虜を閉じ込めるためとか」
セリアの顔が、暗くなった。
「私の家にも、あった……嫌な場所よ」
「そこに、妹さんとトムさんがいるのね」
「おそらく」
「衛兵は、何人くらい?」
「分からない。でも、少なくとも十人はいるはず」
「十人……」
リーナが顔をしかめた。
「多いわね」
「正面から行くのは、無理ね」
エルミナが言った。
「別の方法を考えましょう」
「裏口は?」
「あるはずよ。使用人用の入口」
「じゃあ、そこから入りましょう」
「でも、鍵がかかってるわ」
「リーナ、開けられる?」
「やってみる」
リーナが頷いた。
「でも、中に入った後は?」
「地下へ行って、牢屋を開ける」
「衛兵に見つからずに?」
「見つかったら……戦うしかないわね」
セリアが剣の柄を握った。
「でも、できるだけ避けたい。騒ぎになれば、逃げられなくなる」
「じゃあ、夜に行きましょう」
エルミナが提案した。
「夜なら、衛兵も少ないはず」
「でも、暗くて危険よ」
「松明があれば大丈夫」
「分かったわ。じゃあ、今夜決行しましょう」
四人は、作戦を細かく確認した。
侵入経路、撤退経路、万が一の時の対応。
全てを、入念に計画した。
夜。
月が雲に隠れ、街は暗闇に包まれていた。
四人は、黒い服を着て、伯爵の屋敷へ向かった。
街の北門を抜け、丘を登る。
やがて、屋敷が見えてきた。
高い塀に囲まれた、石造りの建物。窓からは、明かりが漏れている。
「衛兵の配置を確認しましょう」
セリアが、茂みの中から屋敷を観察した。
「正門に二人。建物の入口に二人。屋上に一人……合計五人ね」
「思ったより少ないわ」
「夜だからね。でも、中にもいるはず」
「裏口へ回りましょう」
四人は、屋敷の周りを慎重に移動した。
足音を立てないように、草の上を歩く。
やがて、裏手に小さな門を見つけた。
「あった」
リーナが門に近づき、鍵を調べた。
「施錠されてる……でも、古い鍵ね。開けられるわ」
リーナは、細い針金を二本取り出した。
一本を鍵穴に差し込み、もう一本で内部の機構を探る。
カチ、カチ、カチ……
数十秒後、カチリという音がした。
「開いた」
「さすがね」
四人は、静かに門をくぐった。
庭に入ると、手入れされた芝生と花壇が広がっていた。月明かりに照らされ、幻想的な雰囲気。
でも、美しさを楽しんでいる場合じゃない。
建物の裏口に近づく。
あかねは、鑑定能力を使って扉を調べた。
『木製の扉。材質:オーク材。製作:20年前。施錠:あり。罠:あり(警報装置)。耐久度:中』
情報が浮かび上がる。
「待って。罠がある」
あかねが小声で言った。
「罠?」
「警報装置。扉を開けると、音が鳴るみたい」
「どうやって分かったの?」
リーナが驚いた。
「鑑定能力で」
「便利ね……でも、どうする?」
「罠を解除できる?」
「見てみる」
リーナが扉を調べた。
上部に、小さな金属の装置がある。
「これね……複雑だわ」
「時間がかかる?」
「十分くらい」
「急いで」
リーナは、慎重に装置を解除し始めた。
その間、他の三人は周囲を警戒した。
時間が、ゆっくりと過ぎていく。
あかねの心臓が、激しく鳴っている。
見つかったら、どうなる?
捕まったら、どうなる?
不安が、頭をよぎる。
でも、引き返すことはできない。
ようやく、リーナが振り返った。
「解除できたわ。鍵も開けた」
「よし、入りましょう」
四人は、扉を開けて中に入った。
廊下は、薄暗く、静かだった。石造りの壁、簡素な床。
使用人用の通路のようだ。
「地下への階段を探しましょう」
セリアが先導する。
廊下を進むと、左手に扉が見えた。
あかねが鑑定する。
『木製の扉。施錠:なし。罠:なし。向こう側:階段』
「この先に、階段がある」
「よし」
扉を開けると、下へ続く石の階段があった。
松明が壁に掛けられ、薄暗く照らしている。
四人は、階段を降り始めた。
一段、一段、慎重に。
やがて、地下に着いた。
そこは、湿った空気が漂い、カビ臭い匂いがした。
廊下の両側に、鉄格子の牢屋がいくつか並んでいる。
そして、人の気配。
「誰かいる」
あかねが小声で言った。
牢屋に近づくと、中に人影が見えた。
一つの牢屋には、若い女性が座っている。顔を膝に埋めて、震えている。
「リリィさん……?」
あかねが小声で呼んだ。
女性が顔を上げた。涙で濡れた顔。
「誰……?」
「助けに来ました」
「助け……?」
リリィは、信じられないという表情をした。
「でも、なぜ……」
「説明は後で。今は、静かに」
あかねは、別の牢屋を見た。
そこには、男性がいた。
トムだ。
「トムさん」
あかねが呼ぶと、トムが顔を上げた。
「君は……あの時の……」
「覚えてますか?」
「ああ……ギルドで会った」
トムは、疲れた表情をしていた。顔には、殴られた跡がある。
「酷い……」
「大丈夫だ。これくらい」
トムが苦笑した。
「それより、なぜここに? 危険だぞ」
「助けに来たんです」
「助け……馬鹿な。捕まるぞ」
「大丈夫です」
リーナが鍵を開け始めた。
しかし、牢屋の鍵は複雑だった。
「くっ……この鍵、特殊ね」
「時間がかかる?」
「少し……」
リーナは、集中して鍵と格闘した。
カチ、カチ、カチ……
その時、階段の上から足音が聞こえた。
複数人。
「誰かくる!」
セリアが剣を抜いた。
「リーナ、急いで!」
「分かってる!」
足音が近づいてくる。
そして、二人の衛兵が階段を降りてきた。
「誰だ!」
衛兵が叫んだ。
「侵入者だ! 警報を――」
セリアが、衛兵に突進した。
剣が、衛兵の剣と交わる。
ガキィン!
金属音が、地下に響いた。
「エルミナ! 増援を阻止して!」
「分かった!」
エルミナが魔法を唱える。
「『火よ、敵を阻め――ファイアウォール!』」
炎の壁が、階段を塞いだ。
これで、当分は増援は来られない。
セリアは、素早く動いた。
一人目の衛兵の剣を払いのけ、柄で腹部を突く。
衛兵がうめき声を上げて倒れる。
二人目の衛兵が、セリアに斬りかかる。
セリアは、それを盾で受け、反撃の一撃を放つ。
衛兵が倒れた。
「リーナ!」
「もう少し……開いた!」
カチリという音。
トムの牢屋の扉が開いた。
「急いで! リリィさんの牢屋も!」
リーナは、すぐに隣の牢屋の鍵を開け始めた。
トムが牢屋から出てきた。
「ありがとう……」
「お礼は後で。今は逃げることを考えて」
「分かった」
リリィの牢屋も開いた。
リリィが出てくる。怯えた表情。
「大丈夫。もう安全よ」
エルミナが優しく声をかけた。
「さあ、逃げましょう」
五人は、階段を上がろうとした。
しかし、炎の壁が消えかけている。
そして、壁の向こうから、多数の足音と声が聞こえた。
「侵入者がいるぞ!」
「地下だ!」
「捕まえろ!」
「まずい! 増援が来る!」
「別の道を!」
セリアが、別の廊下を指差した。
「あっちに、別の階段があるはず!」
五人は、走った。
廊下を曲がり、別の階段を見つけた。
上へ駆け上がる。
階段の上は、一階の廊下だった。
しかし、そこにも衛兵がいた。
「止まれ!」
三人の衛兵が、剣を抜いた。
「くっ……」
セリアが前に出た。
「みんな、私が時間を稼ぐ! 先に逃げて!」
「セリア、一人じゃ無理よ!」
「大丈夫! 早く!」
その時、あかねが前に出た。
「私も戦います」
「あかね……」
「一人じゃ、させない」
あかねは、短槍を構えた。
アイテムボックスから取り出した、本物の短槍。
「分かったわ。じゃあ、二人で」
セリアとあかねが、衛兵に向かった。
セリアが一人目の衛兵と交戦する。
あかねは、二人目の衛兵に槍を突き出した。
衛兵が剣で受ける。
あかねは、密かに鑑定能力を使った。
『衛兵。年齢:30代。戦闘能力:中。疲労度:低。弱点:左足の古傷』
情報が浮かび上がる。
左足に古傷がある。そこを狙えば、動きを封じられる。
あかねは、槍で衛兵の注意を上に引きつけた。
そして、素早く下段に切り替える。
槍の先端が、衛兵の左足を打った。
「ぐあっ!」
衛兵が膝をつく。
あかねは、槍を捨てて衛兵に近づき、小手返しで倒した。
三人目の衛兵は、リーナとエルミナが対処した。
リーナが矢を放ち、エルミナが魔法で支援する。
衛兵が倒れた。
「よし! 窓から出るわ!」
セリアが、廊下の窓を指差した。
「あそこから!」
窓を開けると、外は庭だった。
高さは、二階なので約五メートル。
「飛び降りるの!?」
リリィが叫んだ。
「大丈夫! 受け身を取れば!」
セリアが先に飛び降りた。
地面に着地し、転がって衝撃を吸収する。
「次!」
リーナが飛び降りた。
エルミナ、トム、リリィ、あかね。
全員が飛び降りた。
あかねは着地の瞬間、足に強い衝撃を感じた。でも、骨折はしていない。
「走って!」
五人は、庭を横切り、裏口へ走った。
背後から、衛兵たちの叫び声が聞こえる。
「止まれ!」
「逃がすな!」
でも、止まらない。
裏口の門を抜け、街へ走る。
月明かりの下、必死で走った。
息が切れる。足が痛い。でも、止まれない。
十分ほど走った後、五人は路地裏に隠れた。
全員、息を切らしている。
しばらくして、追っ手の気配が遠ざいた。
「やった……逃げられた……」
リーナが、疲れた声で言った。
「でも、まだ安心できない」
セリアが言った。
「すぐに、追っ手が来る」
「街を出ないと」
「でも、城門は閉まってる」
「別の方法を考えましょう」
五人は、人気のない場所を選んで移動した。
やがて、リリィの家の近くに着いた。
「兄さんの家は、ここから近いの?」
「はい……」
リリィが、震える声で答えた。
「案内して」
リリィの案内で、小さな家に着いた。
扉をノックすると、中から男性が出てきた。
「リリィ!」
兄が、妹を抱きしめた。
「良かった……良かった……」
二人は、涙を流して抱き合った。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
兄が、何度も頭を下げた。
「お礼なら、妹さんを大事にしてあげて」
セリアが言った。
「それが、一番のお礼よ」
「はい……必ず」
兄妹と別れた後、四人とトムは、次の行動を考えた。
「これから、どうする?」
リーナが尋ねた。
「宿に戻れる?」
「無理ね」
セリアが首を横に振った。
「もう、衛兵が張り込んでるはず」
「じゃあ……」
「街を出るしかない」
「でも、城門は?」
「城壁を越えましょう」
エルミナが提案した。
「私の魔法で」
「できるの?」
「風の魔法。みんなを浮かせて、城壁を越える」
「やったことあるの?」
「ない。でも、やるしかないわ」
五人は、人気のない城壁の場所へ移動した。
街の西側、倉庫街の近く。ここなら、夜中に人はいない。
「準備はいい?」
エルミナが杖を構えた。
「全員、私の近くに」
五人が集まる。
「『風よ、我らを天へ運べ――ウィンドリフト!』」
エルミナが呪文を唱えると、強い風が五人を包んだ。
そして、体が浮き上がった。
「うわっ!」
あかねは驚いた。
まるで、目に見えない手で持ち上げられているような感覚。
風に乗って、ゆっくりと上昇する。
城壁の高さまで上がり、越える。
そして、外側にゆっくりと降下した。
地面に着地すると、風が止んだ。
「成功……した……」
エルミナが、疲れ切った様子で膝をついた。
「魔力……使い果たした……」
「大丈夫?」
「少し……休めば……」
セリアが、エルミナを支えた。
「でも、ここで休んでる暇はないわ。追っ手が来る前に、遠くへ」
「分かった」
五人は、夜の平原を歩き始めた。
街の明かりが、徐々に遠ざかっていく。
振り返ると、フィルダの街が小さく見えた。
あかねは、複雑な気持ちだった。
あの街で、冒険者として生活を始めた。
セリアたちと出会い、仲間になった。
楽しい日々だった。
でも、もう戻れない。
伯爵の牢屋を襲った。これは、重罪。
追われる身になった。
「大丈夫?」
セリアが、あかねの肩に手を置いた。
「うん……ちょっと、寂しいだけ」
「そうね。私も」
セリアが、街を振り返った。
「でも、後悔はしてない」
「私も」
あかねは、セリアを見た。
「正しいことをしたんだもんね」
「ええ」
五人は、森の中へ入った。
ここまで来れば、一旦は安全だろう。
「休憩しましょう」
セリアが言った。
全員、地面に座り込んだ。
疲れ切っている。
トムが、口を開いた。
「なぜ、俺を助けたんだ?」
「放っておけなかったから」
あかねが答えた。
「それに……トムさん、異世界人なんでしょ?」
トムは、驚いた表情をした。
「どうして、それを……」
「実は、私も異世界人なんです」
あかねが打ち明けた。
「え……」
トムは、あかねを見つめた。
「君も……日本から?」
「はい」
「そうか……」
トムは、涙を流した。
「ありがとう……同郷の人に、助けられるなんて」
「どういたしまして」
その夜、五人は森で野営した。
焚き火を囲みながら、トムが話してくれた。
「俺は、三年前にこの世界に来た」
トムの話は、あかねと似ていた。
交通事故で死にかけて、気づいたら森の中にいた。
「能力は?」
セリアが尋ねた。
「何もない。だから、普通に冒険者として生きてきた」
トムが苦笑した。
「でも、油断してた。仲の良い冒険者に、異世界から来たって話しちゃったんだ」
「それが、伯爵の耳に入った?」
「らしい。突然、兵士が来て、連れて行かれた」
トムが、暗い表情で続けた。
「牢屋で、色々聞かれたよ。どうやって来たのか、能力はあるのか、他に異世界人を知らないか……」
「答えなかったら、殴られた」
トムの顔の傷が、その証拠だった。
「酷い……」
「でも、何も話さなかった。俺には、守る秘密なんてないからな」
トムが笑った。
「これから、どうするんだ?」
「分からない」
セリアが正直に答えた。
「でも、とりあえず生き延びる。それだけは確かよ」
「俺も、一緒に行っていいか?」
トムが尋ねた。
「もう、街には戻れない。行くところもない」
「もちろんよ」
セリアが微笑んだ。
「仲間が増えるのは、嬉しいわ」
「ありがとう」
五人は、焚き火を見つめた。
これから、どこへ行くのだろう。
どうやって生きていくのだろう。
不安もある。でも、仲間がいる。
五人で、何とかするしかない。
「明日、どっちへ行く?」
リーナが尋ねた。
「東へ」
セリアが答えた。
「王都とは反対方向。東の森を抜ければ、別の国がある」
「別の国?」
「ええ。エルドランド王国の東には、自由都市連合がある。そこなら、王国の手は届かない」
「どれくらいかかる?」
「森を抜けるのに、一週間。そこから都市まで、さらに一週間」
「長い旅になるわね」
「ええ。でも、それしか道はないわ」
あかねは、東の空を見た。
まだ暗い。でも、いずれ朝が来る。
新しい一日が始まる。
そして、新しい旅が始まる。
不安もある。でも、希望もある。
仲間がいる。
それが、何よりも大きな支えだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




