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不合格から始まる聖医の絆 ―踏切を越えた先、異世界で命を繋ぐ―  作者: ねこあし


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第6話 「隠された光」

 初依頼から二週間が経った。


 あかねの日々は、戦いと訓練で満ちていた。


 最初の一週間は、簡単な依頼ばかりだった。商人の護衛。荷物の運搬。魔物の巣の偵察。危険度の低い仕事を通じて、冒険者としての基礎を学んでいった。


 二週目からは、少し難易度が上がった。


 ある日は、森で迷子になった子供を探す依頼を受けた。森の奥深く、三時間も探し回った末に、洞窟で震えている子供を見つけた。魔物に襲われそうになっていたところを、あかねの短槍が守った。


 子供を連れ帰った時、両親が涙を流して感謝してくれた。その笑顔が、あかねの胸を温かくした。


 別の日は、盗賊団の討伐に参加した。セリアたちと共に、街道を襲う盗賊団のアジトを急襲。激しい戦闘の末、盗賊たちを捕らえた。


 あかねも、短槍と格闘技を駆使して、三人の盗賊を無力化した。


 戦いの後、セリアが褒めてくれた。


「あかね、もう立派な冒険者よ」


 その言葉が嬉しかった。でも、同時に罪悪感も感じた。


 戦闘のたびに、あかねは密かに能力を使っていた。


 鑑定能力で敵の情報を読み取り、弱点を見抜く。医学知識で、急所を正確に狙う。


 これらの能力のおかげで、戦闘が有利に進んでいた。でも、それを誰にも言えない。


 アイテムボックスについては、「魔法の袋」として説明していた。光の粒子となって物が出し入れされるのを見て、セリアたちは高価な魔法のアイテムだと思っている。


 でも本当は、それも紋章から授けられた能力の一つだ。


 毎晩、一人で部屋にいる時、左手首の紋章を見つめた。


 いつ、打ち明けるべきか。


 セリアたちは、あかねが異世界人であることは知っている。でも、特殊な能力を持っていることは知らない。


 もし、能力のことを話したら、どうなるだろう。


 信じてくれるだろうか。


 それとも、恐れられるだろうか。


 紋章のメッセージを思い出す。


『この能力は信用に足ると確信できる人以外には絶対に話してはいけません』


 セリアたちは、確かに良い人たちだ。命の恩人だし、家族のように接してくれている。


 でも、本当に「確信」できるだろうか。


 もし、能力のことが漏れて、王家や貴族に知られたら……


 あかねは、まだ決断できずにいた。


 十日目の夜、宿の食堂で四人は食事をしていた。


「ねえ、聞いた?」


 リーナが声を潜めて言った。


「王都から、貴族が来るらしいわ」


「貴族? 何のために?」


 セリアが尋ねた。


「異世界人を探してるんだって」


 あかねの心臓が跳ねた。


「異世界人……」


「ええ。どうやら、最近この辺りに異世界人が現れたという噂があるらしいの」


 エルミナが深刻な表情で続けた。


「その貴族、ヴァレンタイン伯爵っていうんだけど……異世界人を『保護』して、王都に連れて行くのが目的らしいわ」


「『保護』って、つまり……」


「支配よ」


 リーナがはっきりと言った。


「能力を調べて、使えると判断したら、首輪をつけて支配する。使えないと判断したら、放置するか、最悪……」


「最悪?」


「殺されることもあるって聞いたわ」


 あかねの血の気が引いた。


「あかね、大丈夫?」


 セリアが心配そうに尋ねた。


「あなた、異世界人でしょ? もしかして、その貴族に見つかったら……」


「大丈夫よ」


 エルミナが言った。


「あかねの異世界人としての記録は、ギルドでも『東の国から来た普通の旅人』ってことになってる。マリアも秘密を守ってくれてるわ」


「でも、念のため、しばらくは目立たないようにしましょう」


 セリアが提案した。


「派手な依頼は避けて、普通の仕事だけにする」


「分かりました」


 あかねは頷いたが、不安は消えなかった。


 異世界人を探している。


 もし、能力のことが知られたら?


 聖魔法を使えることが知られたら?


 あかねは、左手首をそっと押さえた。


 紋章は見えないが、確かに存在している。


 十三日目の朝、訓練中にセリアが言った。


「あかね、最近、様子がおかしいわよ」


「え?」


「考え事が多いでしょ。貴族のこと、気にしてるの?」


 あかねは言葉に詰まった。


「少し……怖くて」


「無理もないわね」


 セリアが優しく微笑んだ。


「でも、私たちがあかねを守るから。絶対に、貴族には渡さない」


「ありがとう……」


「あかねは、私たちの大切な仲間。いや、家族よ」


 セリアが肩を叩いた。


「何があっても、一緒にいるから」


 あかねは、涙が出そうになった。


 セリアは、本当に優しい。


 でも、それだけに、秘密を隠し続けるのが辛い。


 能力のことを、話すべきだろうか。


 いや、まだだ。


 もう少し、様子を見よう。


 十四日目の午後、ギルドで新しい依頼を探していた。


「これはどう?」


 エルミナが一枚の依頼書を指差した。


『依頼内容:森の奥に出現した強力な魔物の討伐

 依頼主:フィルダの街

 報酬:100シルバー

 危険度:中

 詳細:北の森の奥に、強力な魔物が出現。付近の村に被害が出始めている。村人が襲われ、家畜が殺されている。早急な対処が必要』


「危険度、中……」


 セリアが考え込んだ。


「今までは、危険度『低』の依頼ばかりだったわね」


「でも、派手な依頼は避けるって……」


 リーナが心配そうに言った。


「これは派手じゃないわ。むしろ、地味な仕事よ」


 エルミナが言った。


「魔物討伐は、冒険者の基本。これで注目を集めることはないわ」


「あかね、どう思う?」


 セリアがあかねを見た。


「やってみたいです」


 あかねは答えた。


「みんなと一緒なら、大丈夫だと思います」


「分かったわ。じゃあ、この依頼を受けましょう」


 マリアに依頼を申請し、詳細を聞いた。


「この魔物、かなり強力らしいわ」


 マリアが真剣な表情で言った。


「村人の証言では、体長五メートル以上。熊のような姿で、全身が黒い毛に覆われているとか」


「グレートベア……?」


 エルミナが顔色を変えた。


「まさか、Aランク魔物?」


「可能性はあるわ。だから、危険度を『中』にしてるけど、実際は『高』かもしれない」


「それなら、他のパーティに依頼した方が……」


「他のパーティは、みんな遠征に出てるの。今、街にいる実力者は、あなたたちだけ」


 マリアが頭を下げた。


「お願い。村を、助けて」


 セリアは少し考えてから、頷いた。


「分かったわ。でも、グレートベアだったら、慎重に戦う。無理だと判断したら、すぐに逃げるわ」


「ありがとう」


 翌朝、四人は北の森へ向かった。


 装備を整え、準備万端で出発した。


 セリアは新しい盾を持っている。前回の依頼で壊れたため、買い直したものだ。


 リーナは矢筒に、通常の矢に加えて、魔力を帯びた特殊な矢を入れている。


 エルミナは、いつもより多くの魔力回復薬を持っている。


 あかねは、短槍に加えて、簡易的な医療キットを持った。包帯、消毒薬、止血剤。これらも、アイテムボックスに仕舞った。


 街の北門を出る時、衛兵が声をかけてきた。


「気をつけろよ。森の奥は、今まで以上に危険だ」


「ありがとう。気をつけます」


 平原を歩きながら、セリアが作戦を説明した。


「森に入ったら、まず魔物の痕跡を探す。足跡、爪痕、何でもいい」


「見つけたら、慎重に追跡する。でも、決して無理はしない」


「戦闘になったら、私が前衛。リーナとエルミナは後衛。あかねは、状況に応じて前衛と後衛を行き来して」


「分かりました」


 森に入ると、空気が変わった。いつもの森よりも、暗い。静か。鳥の声が聞こえない。小動物の気配もない。


「嫌な感じね」


 リーナが弓を構えた。


「魔物の気配が濃い」


 エルミナも警戒している。


「結界を張っておくわ」


 エルミナが杖を振ると、淡い光が四人を包んだ。


「これで、小型の魔物は近づけない。でも、強力な魔物には効かないかもしれないわ」


 あかねも、周囲を警戒しながら密かに鑑定能力を使った。


 木々、植物、地面。様々なものを鑑定する。


 すると、ある木の幹に、深い傷跡があるのに気づいた。


「あれ……」


 近づいて鑑定する。


『爪痕。残留魔力:高。推定:大型肉食魔物。危険度:高。時間経過:約6時間』


 情報が浮かび上がる。


「みんな、これ見て」


 あかねが指差すと、三人が駆け寄ってきた。


「これは……」


 セリアが爪痕を調べた。


「大型の魔物ね。しかも、かなり強力。この爪痕の深さ……普通の魔物じゃない」


「グレートベアかもしれないわね」


 エルミナが顔をしかめた。


「でも、爪痕が新しい。まだ近くにいるわ」


 リーナが周囲を見回した。


「気をつけましょう。いつ襲ってきてもおかしくない」


 一行は、爪痕を辿って進んだ。


 木々が倒れている場所。地面に大きな足跡。破壊の痕跡。


 あかねは、足跡を密かに鑑定した。


『足跡。サイズ:大。重量推定:800kg以上。魔物:グレートベア。方向:北東』


 情報が次々と浮かぶ。


「北東に向かってるみたいです」


 あかねが言った。


「どうして分かるの?」


 エルミナが不思議そうに尋ねた。


「えっと……足跡の向きと、土の削れ方を見れば……父から、少し教わったんです」


 あかねは誤魔化した。


「お父さん、色々教えてくれたのね」


 セリアが感心した。


 あかねは、罪悪感を感じた。また嘘をついてしまった。


 でも、鑑定能力のことは、まだ言えない。


 さらに進むと、開けた場所に出た。


 そして、そこで異様な光景を目にした。


 巨大な熊のような生物が、倒れた木の陰で休んでいた。


 体長は、推定五メートル以上。全身が黒い毛に覆われ、背中には鋭い棘が並んでいる。頭部には、三本の角。


 その巨体からは、圧倒的な威圧感が放たれていた。


「グレートベア……」


 エルミナが小声で言った。


「間違いないわ。Aランクの魔物」


「どうする?」


 リーナが尋ねた。


「撤退するべきじゃない? 私たちの実力じゃ……」


「でも、このままにしておけば、村が危険」


 セリアが決断した。


「戦うわ。でも、慎重に。絶対に無理はしない」


 四人は、グレートベアに近づいた。できるだけ音を立てないように。風下から。


 あかねは、グレートベアを密かに鑑定した。


『グレートベア(成体)。Aランク魔物。攻撃力:極大。防御力:極大。魔法耐性:高。弱点:目、口内、腹部。特性:高い再生能力、凶暴性』


 詳細な情報が浮かび上がる。


 弱点は目、口内、腹部。でも、どうやってそこを狙う?


「作戦は?」


 リーナが小声で尋ねた。


「まず、リーナが遠距離から矢で攻撃。グレートベアの注意を引く」


 セリアが説明した。


「その間に、私とあかねが左右から接近。エルミナは後方から魔法で支援」


「グレートベアの動きを封じて、弱点を狙う」


「分かったわ」


「じゃあ、始めるわよ」


 リーナが弓を構えた。特殊な矢をつがえる。魔力を帯びた、貫通力の高い矢。


 狙いを定める。そして――


 シュッ!


 矢が放たれた。矢はグレートベアの背中に命中した。


「グォォォォ!」


 グレートベアが目を覚ました。怒りの咆哮。その声だけで、地面が震えた。


 グレートベアが立ち上がる。五メートルを超える巨体。そして、リーナの方を見た。


「来る!」


 グレートベアが突進した。


 セリアとあかねが、左右から接近する。


 セリアが剣で斬りかかる。しかし、グレートベアの厚い毛皮は、剣を弾いた。


「硬い!」


 あかねも槍で突いた。しかし、同じく弾かれる。


「物理攻撃が効かない!」


 エルミナが魔法を唱えた。


「『火よ、我が意志に従い、敵を焼き尽くせ――ファイアボール!』」


 火球が飛ぶ。グレートベアに命中する。しかし、グレートベアは怯まない。


「魔法も効きにくい!」


 グレートベアが、セリアに向かって爪を振り下ろした。


 セリアが盾で受ける。


 ガキィィィン!


 凄まじい衝撃。盾にヒビが入った。


「くっ……!」


 セリアが後退する。


「このままじゃ、やられる!」


 リーナが連続で矢を放つ。何本も、何本も。しかし、グレートベアの毛皮を貫けない。


「だめ! 防御が硬すぎる!」


 グレートベアが、今度はエルミナに向かって突進した。速い!


「エルミナ!」


 あかねは考える暇もなく、体が動いていた。


 短槍を構え、グレートベアの前に飛び出す。


「あかね! だめ!」


 セリアの叫び声。


 でも、止まらない。


 あかねは鑑定能力の情報を思い出した。弱点は目。


 そして、医学知識が頭に浮かんだ。大型動物の行動パターン。突進する時、頭を下げる。その瞬間、顔が前を向き、目が無防備になる。


 そこを狙う。


 でも、タイミングが難しい。早すぎても遅すぎても、当たらない。


 あかねは、深呼吸した。父の声が聞こえた気がした。


『落ち着け。呼吸を整えろ。敵の動きをよく見ろ』


 グレートベアが迫る。三メートル。二メートル。頭が下がる。


 今だ!


 あかねは槍を突き出した。全身全霊の一撃。


 槍の先端が、グレートベアの右目に刺さった。


「ガァァァァ!」


 グレートベアが悲鳴を上げた。


 あかねは槍を引き抜き、すぐに後退した。グレートベアが暴れている。右目から血が流れている。


「やった!」


 リーナが叫んだ。


「今よ! もう片方の目を!」


 リーナが特殊な矢をつがえた。狙いを定める。


 シュッ!


 矢が、グレートベアの左目に命中した。


「グォォォォ!」


 グレートベアが完全に視界を失った。暴れ回る巨体。


「エルミナ! 今がチャンス!」


「分かってる!」


 エルミナが最大の魔法を唱え始めた。


「『火よ、我が意志に従い、全てを焼き尽くせ。灼熱の地獄を、この地に現せ――インフェルノ!』」


 巨大な炎の渦が、グレートベアを包み込んだ。炎の温度は凄まじく、周囲の木々も燃え始めた。


 グレートベアの悲鳴。そして――静寂。


 炎が消えると、グレートベアは倒れていた。動かない。


「やった……」


 リーナが安堵の息を吐いた。


「信じられない。Aランク魔物を、倒した」


 エルミナも、疲れた表情で微笑んだ。


「みんな、よくやったわ」


 セリアが言った。


「特に、あかね。あの一撃がなければ、負けてた」


「そんな……みんなのおかげです」


 その時、セリアが地面に膝をついた。


「セリア!」


 あかねが駆け寄る。


「大丈夫……ちょっと疲れただけ」


 でも、セリアの額から汗が流れている。顔色も悪い。


「どこか、怪我してる?」


 エルミナが尋ねた。


「いや、大丈夫……」


 でも、セリアは立ち上がれなかった。


「おかしいわね。そんなに疲れるはず……」


 その時、セリアの左腕から血が流れているのに気づいた。


「セリア、腕!」


 セリアの左腕には、深い傷があった。グレートベアの爪で切られたらしい。


「いつの間に……」


「戦闘中、気づかなかった」


 セリアが弱々しく笑った。


「アドレナリンが切れて、痛みが……」


 セリアが倒れた。


「セリア!」


 三人が駆け寄る。


 セリアは意識を失っていた。呼吸は浅く、脈も弱い。


「これは……グレートベアの爪には、毒がある!」


 エルミナが顔色を変えた。


「すぐに解毒しないと!」


 エルミナが治癒魔法を唱える。


「『水よ、命を癒し、毒を浄化せよ――キュアポイズン』」


 淡い光がセリアを包む。しかし、効果は薄い。


「だめ……私の魔法じゃ、力不足」


 エルミナが焦っている。


「グレートベアの毒は強力すぎる。街に戻って、教会の神官に診てもらわないと」


「でも、ここから街まで三時間はかかる」


 リーナが言った。


「それまで持つの?」


「分からない……」


 エルミナが必死に治癒魔法を繰り返す。でも、セリアの状態は悪化していく。顔色がどんどん悪くなる。呼吸がさらに浅くなる。


 あかねは、医学知識で状況を分析した。


 毒の侵攻速度。血流の低下。多臓器不全のリスク。このままでは、三時間持たない。いや、あと一時間も持たないかもしれない。


 あかねは、決断を迫られた。


 聖魔法を使うべきか。


 でも、使えば、能力がバレる。


 エルミナもリーナもいる。隠し通せない。


 どうする?


 セリアの命か、秘密か。


 あかねの頭の中で、様々な思いが駆け巡る。


 能力がバレたら、どうなる?


 王家や貴族に知られるかもしれない。首輪をつけられるかもしれない。


 でも――


 セリアは、自分を救ってくれた。魔物に襲われた時、助けてくれた。訓練を教えてくれた。家族のように接してくれた。


 そのセリアを、見殺しにするのか?


 あかねは、左手首を握りしめた。


 紋章のメッセージを思い出す。


『生き延びてください』


 でも、セリアを犠牲にして生き延びる意味があるのか?


 答えは、明白だった。


「エルミナ、リーナ」


 あかねが立ち上がった。


「少し、離れてもらえる?」


「え?」


「お願い。私に、やらせて」


「あかね、何を……」


「お願い!」


 あかねの強い口調に、二人は戸惑いながらも、少し離れた。


 あかねは、セリアの傍らに膝をついた。


 深呼吸。覚悟を決める。


 もう、隠さない。


 セリアを救う。それだけを考える。


 あかねは、左手首の紋章に意識を集中させた。


 紋章が、淡く光り始める。


「あれは……?」


 エルミナの驚きの声が聞こえた。


 あかねは、セリアの傷に手を当てた。


 聖魔法に意識を集中させる。


 手のひらから、淡い光が漏れ出す。温かい光。優しい光。


 最初は小さかった光が、徐々に大きくなっていく。光がセリアの傷に染み込んでいく。毒が、浄化されていく。傷が、塞がっていく。


 あかねは必死に念じた。


 お願い、治って。セリアを助けて。


 母の知識が、頭に浮かんでくる。解毒のメカニズム。細胞の再生。それらを意識しながら、聖魔法を使う。


 光が、どんどん強くなる。あかね自身も、体が熱くなるのを感じた。魔力を使いすぎている。でも、止められない。セリアを救うまで。


「あかね……その光……」


 エルミナの声が震えている。


「まさか……聖魔法!?」


 でも、あかねは集中を切らさなかった。


 光が、最大に達した。そして――


 セリアが目を開けた。


「う……ん」


「セリア!」


 あかねは思わず抱きしめた。


「良かった……本当に良かった」


 光が消えた。あかねは、その場に倒れ込んだ。魔力を使い果たした。体が重い。


「あかね!」


 三人が駆け寄ってきた。


「大丈夫?」


「はい……ちょっと、疲れただけです」


 セリアが起き上がった。


「私……どうなったの?」


「グレートベアの毒にやられてたの。でも、あかねが……」


 エルミナが、あかねの左手首を見た。


 紋章が、まだ淡く光っている。


「あかね……その紋章……」


 リーナも、驚愕の表情で見ている。


「それと、さっきの光……聖魔法……」


 あかねは、もう隠せないと悟った。


「はい……私、特殊な能力を、持ってるんです」


「特殊な能力……?」


 あかねは、深呼吸した。もう、全てを話すしかない。


「この紋章から、四つの能力を授けられました」


 あかねは、左手首を見せた。複雑な模様の紋章が、まだ光っている。


「一つ目は、アイテムボックス。みんなには『魔法の袋』って言ってましたけど、本当は能力の一つです」


「二つ目は、鑑定能力。物や人の情報を読み取れます。さっき、グレートベアの弱点が分かったのも、この能力のおかげです」


「三つ目は、医学知識。母が持っていた医師としての知識が、私の中にあります」


「そして四つ目が……聖魔法。病気や傷を癒す魔法です」


 三人は、呆然としていた。


 長い沈黙が続いた。


 あかねは不安だった。怒られるだろうか。見捨てられるだろうか。


「あかね」


 セリアが口を開いた。


「どうして、今まで話してくれなかったの?」


「ごめんなさい……怖かったんです」


 あかねは涙を流した。


「能力のことが知られたら、王家や貴族に捕まるって、マリアさんから聞いて。首輪をつけられて、道具として扱われるって」


「だから、隠してたの……」


「でも、嘘をついて、ごめんなさい。みんなには、感謝してるのに。信じてくれてるのに」


「魔法の袋だって嘘ついて、追跡術も父から習ったって嘘ついて……全部、能力を使ってたのに」


 あかねは、泣き崩れた。


 すると、セリアがあかねを抱きしめた。


「ありがとう」


「え……?」


「私を、救ってくれて。秘密を明かすリスクを冒してまで」


 セリアの目にも、涙が浮かんでいた。


「あかねは、私の命を救ってくれた。それが、全てよ」


 リーナとエルミナも、近づいてきた。


「あかね、話してくれて、ありがとう」


 エルミナが微笑んだ。


「怖かったでしょ。でも、勇気を出して話してくれた」


「そうよ。隠してたのは、仕方なかったわ」


 リーナが頷いた。


「誰だって、そんな力を持ってたら、隠すわよ」


「みんな……」


 あかねは、涙が止まらなかった。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい」


「謝らないで」


 セリアが優しく言った。


「あかねは、何も悪くない。むしろ、私たちが頼りなかったのよ。あかねが安心して話せるくらい、信頼されてなかったんだから」


「そんなことない! みんな、ずっと優しくしてくれて……」


「でも、あかねは不安だった。それは事実でしょ?」


 エルミナが真剣な表情で言った。


「だから、これからは違うわ。あかねの秘密は、私たちが守る。絶対に、誰にも漏らさない」


「そうよ。私たち、家族でしょ?」


 リーナが笑った。


「家族の秘密は、守るものよ」


 あかねは、三人を見つめた。優しい笑顔。温かい目。信頼できる、仲間。いや、家族。


「ありがとう……本当に、ありがとう」


 四人は、しばらく抱き合っていた。森の中、倒れたグレートベアの傍で。


 新しい絆が、確かに結ばれた瞬間だった。


 しばらくして、四人は立ち上がった。


「さて、街に戻りましょう」


 セリアが言った。


「グレートベアを倒した証拠も持っていかないと」


 セリアとリーナが、グレートベアの牙と爪を回収した。


「これだけあれば、十分ね」


 あかねは、アイテムボックスにそれらを仕舞った。光の粒子となって消える素材。


「やっぱり、アイテムボックスだったのね」


 リーナが感心した。


「魔法の袋なんかじゃない。本物の、伝説の能力」


「他にも、色々見せてくれる?」


 エルミナが興味津々で尋ねた。


「はい」


 帰り道、あかねは能力について詳しく説明した。もう、隠す必要はない。


 鑑定能力の使い方。どんな情報が読み取れるか。


 医学知識の範囲。母から受け継いだ知識の深さ。


 アイテムボックスの容量。どれくらいの物を仕舞えるか。


 聖魔法の限界。どの程度の傷や病気を治せるか。


 三人は、驚きながらも、興味深く聞いていた。


「すごいわ。どの能力も、信じられないくらい貴重」


「特に聖魔法。教会の神官でさえ、数人しか使えないって言われてるのに」


「でも、あかね」


 セリアが真剣な表情で言った。


「この能力のことは、絶対に秘密にしないと。特に、聖魔法」


「もし、あかねが聖魔法を使えることが知られたら……」


 エルミナが続けた。


「王家や貴族だけじゃなく、教会も放っておかない。あかねを『聖女』として、利用しようとするわ」


「聖女……?」


「聖魔法を使える女性のことよ。歴史上、何人かいたけど、みんな不幸な最期を遂げてる」


 リーナが暗い顔で言った。


「権力者に利用されて、最後は……殺されたり、幽閉されたり」


「だから、絶対に秘密にしましょう」


 セリアが言った。


「私たち四人以外、誰にも話さない。いい?」


「はい」


「それと、あかね」


 エルミナが微笑んだ。


「能力の訓練、手伝うわ。せっかくの力、使いこなせるようになりましょう」


「本当ですか?」


「ええ。聖魔法の訓練は私が。鑑定能力は、実戦で磨いていけばいい」


「アイテムボックスも、もっと使いこなせるようになるはずよ」


 リーナが言った。


「戦闘中の出し入れの速度とか、練習すればもっと早くなるわ」


「ありがとう、みんな」


 あかねは、心から感謝した。もう、一人じゃない。秘密を共有する、仲間がいる。家族がいる。


 街に戻ると、ギルドで報酬を受け取った。


「グレートベアを倒したの!?」


 マリアが驚いた。


「信じられない。Aランク魔物を、あなたたちが」


「運が良かったんです」


 セリアが謙遜した。


「報酬は100シルバー。それに、グレートベア討伐のボーナスで50シルバー追加です」


「合計150シルバー。四人で分けると、一人37シルバーですね」


「ありがとう」


 ギルドを出ると、夕暮れが街を染めていた。


「お腹空いたわね」


 リーナが言った。


「今夜は、豪華な食事にしましょう。お祝いよ」


「賛成」


 四人は、街で一番高級な食堂に向かった。『黄金の竜亭』という、冒険者に人気の店。


 中に入ると、賑やかな声が聞こえた。他の冒険者たちが、食事をしながら今日の冒険を語り合っている。


「いらっしゃい!」


 店主が笑顔で迎えてくれた。


「今日は、何がいい?」


「一番良いコースを、四人分」


 セリアが注文した。


「おっ、景気がいいね。何かあったのかい?」


「大物を倒したんです」


「へえ、すごいね。じゃあ、特別サービスしちゃうよ」


 しばらくして、料理が運ばれてきた。肉料理、魚料理、サラダ、スープ、パン、そしてワイン。


「すごい……」


 あかねは目を見開いた。


「こんなに豪華な食事、初めて」


「今日は特別よ」


 セリアがグラスを掲げた。


「あかねが、私を救ってくれたお祝い」


「それと、あかねが本当の意味で、仲間になったお祝い」


 エルミナも微笑んだ。


「もう、秘密はないわ。本当の家族よ」


 リーナもグラスを掲げた。


「乾杯!」


 四人は、グラスを合わせた。カチンという音が、心地よく響いた。


「乾杯!」


 食事をしながら、四人は今日のことを振り返った。


「それにしても、グレートベアは強かったわね」


「あかねの一撃がなければ、負けてたわ」


「でも、セリアが盾で攻撃を受け止めてくれたから、時間が稼げた」


「リーナの矢も、完璧だった」


「エルミナの魔法が、止めを刺した」


「みんなで協力したから、勝てたのよ」


 セリアが言った。


「これが、パーティの力」


 あかねは、幸せだった。仲間がいる。信頼できる家族がいる。もう、秘密を隠す必要もない。これから、一緒に冒険していける。


「ねえ、あかね」


 セリアが尋ねた。


「これからも、私たちと一緒に冒険してくれる?」


「もちろんです」


 あかねは即答した。


「私、みんなと一緒にいたいです」


「良かった」


 セリアが微笑んだ。


「じゃあ、これからもよろしくね」


「よろしくお願いします」


 四人は、再びグラスを合わせた。


 新しい絆。新しい未来。


 あかねの冒険は、本当の意味で始まったばかりだった。

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