第28話 「平穏な日々」
ドラゴン討伐から、一週間が経った。
六人は、街でゆっくりと休息を取っていた。
Bランクに昇格したこと、Sランクの魔物を倒したこと。
それらの疲れを癒すために。
一日目
朝、あかねは一人で市場を歩いていた。
久しぶりの、のんびりとした時間。
果物屋で、リンゴを買った。
「いらっしゃい。銀の絆のあかねちゃんでしょ?」
店主のおばさんが、笑顔で言った。
「はい」
「ドラゴンを倒したんですってね。すごいわ」
「みんなで力を合わせたんです」
「謙遜しないで。あなたたち、街の英雄よ」
おばさんが、リンゴを一つ余分に袋に入れた。
「これ、サービス」
「ありがとうございます」
あかねは、市場を歩き続けた。
他の店でも、同じように声をかけられた。
「ドラゴンを倒したんだって?」
「すごいね」
「ありがとう。街を守ってくれて」
あかねは、照れくさかった。
でも、同時に嬉しかった。
人々に認められている。
自分たちの活躍が、評価されている。
そんな実感があった。
昼、六人は街の高級レストラン『王冠亭』で食事をした。
Cランク昇格の時にも来た店だ。
今回は、Bランク昇格のお祝い。
「美味しいわね」
リーナが、料理を食べながら言った。
「ええ。この店、本当に美味しい」
「でも、高いわね」
エルミナが、メニューを見た。
「今日だけで、銀貨三十枚使ったわ」
「いいのよ」
セリアが笑った。
「ドラゴン討伐の報酬、まだ金貨九枚残ってるし」
「そうね」
六人は、ゆっくりと食事を楽しんだ。
会話も、弾んだ。
「ねえ、みんな」
トムが言った。
「俺たち、ここまで来たんだな」
「ええ」
「最初は、Eランクだった。依頼も、簡単なものばかり」
トムが続けた。
「でも、今はBランク。ドラゴンも倒した」
「すごい成長よね」
リーナが頷いた。
「本当に」
「でも、これで満足しちゃダメよ」
セリアが言った。
「まだ、上がある。Aランク、Sランク」
「そうね」
「でも、焦る必要もないわ」
エルミナが続けた。
「ゆっくり、着実に強くなっていけばいい」
「そうね」
あかねは、みんなの顔を見た。
セリア、リーナ、エルミナ、トム、ダリウス。
みんな、家族のような存在。
この仲間と一緒なら、どこまでも行ける。
あかねは、そう確信していた。
三日目
午後、セリアとあかねは武器屋に行った。
ドラゴンの鱗で、新しい防具を作るためだ。
「いらっしゃい」
武器屋の店主が迎えた。
五十代の男性。筋肉質の体。顔には、鍛冶の煤がついている。
「これを、防具にしてほしいんです」
セリアが、ドラゴンの鱗を見せた。
店主の目が、輝いた。
「これは……ドラゴンの鱗!」
店主が、鱗を手に取った。
そして、丁寧に調べた。
「素晴らしい。最高級の素材だ」
「これで、どんな防具が作れますか?」
「胴鎧、籠手、脛当て。全て作れる」
店主が説明した。
「ドラゴンの鱗は、鉄の十倍の強度がある。しかも、軽い」
「この防具を着れば、ほとんどの攻撃を防げる」
「すごい……」
「ただし」
店主が続けた。
「加工には、時間がかかる。最低でも、一ヶ月」
「一ヶ月……」
「ああ。ドラゴンの鱗は硬い。特殊な技術が必要だ」
「分かりました。お願いします」
「了解。一ヶ月後、必ず完成させる」
セリアとあかねは、武器屋を出た。
「一ヶ月か……」
セリアが呟いた。
「長いわね」
「でも、楽しみね」
あかねが微笑んだ。
「ドラゴンの鱗の防具。どんな感じかしら」
「きっと、素晴らしいわ」
五日目
朝、リーナとレオンは訓練場で弓の練習をしていた。
ドラゴン討伐の時に知り合ったレオンとは、その後も交流が続いていた。
「リーナ、いい腕だな」
レオンが、リーナの射撃を見て言った。
「ありがとう」
「でも、まだ改善の余地がある」
レオンが、リーナの構えを調整した。
「肘を、もう少し上に」
「こう?」
「そう。それで、矢を放ってみて」
リーナが、矢を放った。
矢は、的の中心に命中した。
「すごい! さっきより正確!」
「だろ? 構えを少し変えるだけで、精度が上がる」
レオンが笑った。
「俺も、最初は下手だった。でも、師匠に教わって、上達した」
「師匠?」
「ああ。エルフの弓使いだ」
レオンが、遠い目をした。
「もう亡くなったけど。でも、その技術は、俺が受け継いでる」
「そうなんだ……」
「だから、俺もお前に教える」
レオンが、リーナの肩を叩いた。
「お前には、才能がある。もっと強くなれる」
「ありがとう、レオン」
七日目
夕方、六人はギルドに集まった。
一週間の休息が終わり、そろそろ次の依頼を受ける時だ。
「そろそろ、働きましょうか」
セリアが提案した。
「そうね。お金も減ってきたし」
リーナが頷いた。
六人は、依頼ボードを見た。
Bランクの依頼ボード。
依頼の内容が、明らかに難しくなっている。
『依頼内容:盗賊団討伐
依頼主:商人ギルド
報酬:500シルバー
危険度:中
詳細:東の街道を荒らす盗賊団を討伐せよ。盗賊は十人以上』
『依頼内容:古代遺跡の警備
依頼主:王立歴史学会
報酬:400シルバー
危険度:中
詳細:南の遺跡で発掘作業中。魔物の襲撃から学者たちを守れ。期間:一週間』
『依頼内容:貴族の護衛
依頼主:エリザベス伯爵夫人
報酬:600シルバー
危険度:低
詳細:王都への旅に同行せよ。期間:三日間』
六人は、それぞれの依頼を検討した。
「どれにする?」
セリアが尋ねた。
「盗賊団討伐は?」
トムが提案した。
「戦闘の経験も積めるし」
「でも、危険ね」
エルミナが言った。
「十人以上の盗賊。全員、武装してるはず」
「古代遺跡の警備は?」
リーナが提案した。
「一週間かかるけど、報酬は悪くない」
「でも、退屈そうね」
その時、一人の女性が六人に近づいてきた。
三十代くらい。美しい顔立ち。高級なドレスを着ている。
明らかに、貴族の女性。
「あなたたちが、銀の絆ですか?」
女性が、優雅に尋ねた。
「はい」
セリアが答えた。
「私は、エリザベス。グランデール伯爵の妻です」
女性が自己紹介した。
「護衛の依頼を出したのは、私です」
「ああ、あの依頼の……」
「はい。実は、あなたたちに直接お願いしたくて」
エリザベス夫人が説明した。
「ドラゴンを倒した、と聞きました。素晴らしい功績です」
「だから、あなたたちに護衛をお願いしたいのです」
「どういった旅ですか?」
「王都へ行きます。重要な用事があって」
エリザベス夫人が続けた。
「でも、最近、街道に盗賊が出ると聞きました」
「だから、強力な護衛が必要なのです」
「分かりました。お受けします」
セリアが答えた。
「本当ですか! ありがとうございます」
エリザベス夫人が、嬉しそうに微笑んだ。
「では、明日の朝、街の南門で。よろしくお願いします」
「はい」
エリザベス夫人が去った後、六人は顔を見合わせた。
「護衛依頼か……」
トムが呟いた。
「初めてね、こういう依頼」
「でも、報酬は良いわ。銀貨六百枚」
リーナが言った。
「それに、三日間だけ」
「よし。じゃあ、明日からよろしくね」
セリアが言った。
「はい」
その夜、あかねは一人で部屋のベランダに出た。
星が、綺麗に輝いている。
この一週間、平和だった。
戦いもなく、危険もなく、ただ日常を楽しんだ。
でも、明日からまた冒険が始まる。
護衛依頼。
王都への旅。
どんな冒険が待っているのだろう。
そして――
あかねは、自分の左手首を見た。
紋章。
見えないが、確かに存在している。
この紋章から授けられた力。
アイテムボックス、鑑定、医学知識、聖魔法。
そして、最近感じる新しい力。
地の魔法。
エルドラの祠で、扉を開けた時に感じた力。
まだ、完全にはコントロールできていない。
でも、確かに存在している。
紋章は、まだ秘密を隠しているのかもしれない。
「あかね」
セリアが、ベランダに出てきた。
「まだ起きてるの?」
「うん。ちょっと、考え事してて」
「何を?」
「明日からの依頼のこと。それと、これからのこと」
あかねが答えた。
「そう……」
セリアが、隣に立った。
「不安?」
「少し。でも、楽しみでもある」
あかねが微笑んだ。
「新しい冒険。新しい経験」
「そうね」
セリアが、空を見上げた。
「私たち、ここまで来たわね」
「うん」
「EランクからBランクまで。約三ヶ月」
セリアが続けた。
「早かったわね」
「でも、密度の濃い三ヶ月だった」
「本当に」
あかねが頷いた。
「色々あったわね」
「グレートベア、エルドランド王国からの逃亡、影の翼、ヴィクター、ドラゴン……」
「全部、大変だったけど、乗り越えられた」
セリアが、あかねの肩を抱いた。
「みんなで、一緒に」
「うん」
「これからも、一緒よ」
セリアが微笑んだ。
「どんな困難も、一緒に乗り越えていく」
「ありがとう、セリア」
あかねは、涙が出そうになった。
セリアの言葉が、心に染みる。
そうだ。
自分は、一人じゃない。
仲間がいる。
家族のような絆がある。
だから、大丈夫。
どんな冒険が待っていても、きっと乗り越えられる。
「さあ、寝ましょう」
セリアが言った。
「明日、早いから」
「うん」
二人は、部屋に戻った。
あかねは、ベッドに入った。
明日から、新しい冒険が始まる。
王都への旅。
護衛依頼。
そして、その先には――
あかねは、目を閉じた。
明日に備えて。
翌朝
夜明け前、六人は南門に集まった。
全員、旅の準備を整えている。
武器、防具、食料、水。
全てを確認した。
しばらくすると、豪華な馬車が到着した。
白い馬が二頭、馬車を引いている。
馬車の扉が開き、エリザベス夫人が降りてきた。
「おはようございます」
エリザベス夫人が挨拶した。
「おはようございます」
六人が答えた。
「では、出発しましょう」
エリザベス夫人が、馬車に乗った。
六人は、馬車の周りを警備しながら歩いた。
セリアとダリウスが前、トムとあかねが後ろ、リーナとエルミナが左右。
完璧な陣形。
馬車は、ゆっくりと街を出た。
南へ向かって。
王都へ向かって。
新しい冒険の始まりだった。
街道は、平坦で歩きやすかった。
朝の空気は冷たく、気持ちいい。
鳥のさえずりが、聞こえる。
平和な光景。
でも、六人は油断しなかった。
盗賊が出るかもしれない。
魔物が襲ってくるかもしれない。
常に、警戒を続けた。
昼過ぎ、街道沿いの木陰で休憩を取った。
エリザベス夫人が、馬車から降りてきた。
「お疲れ様です」
「いえ」
セリアが答えた。
「これが、私たちの仕事ですから」
「素晴らしいですね。あなたたちの警戒ぶり」
エリザベス夫人が微笑んだ。
「安心して旅ができます」
「ありがとうございます」
休憩を終え、再び歩き始めた。
午後、トムが何かに気づいた。
「待て。誰か来る」
全員が、警戒した。
街道の先から、一台の馬車が近づいてくる。
でも、その馬車は荒れていた。
窓が割れ、車輪が壊れている。
そして、馬車を引いている馬が、負傷している。
「助けを!」
馬車から、男性が降りてきた。
商人らしい。服が汚れ、顔に傷がある。
「盗賊に襲われた!」
男性が叫んだ。
「助けてくれ! 仲間が、まだ盗賊に捕まってる!」
六人は、顔を見合わせた。
護衛の依頼を受けている。
でも、目の前に困っている人がいる。
どうする?
セリアが、決断した。
「場所は?」
「この先、三キロほど。森の中だ」
商人が答えた。
「分かった」
セリアが、エリザベス夫人を見た。
「夫人、申し訳ありませんが、少し時間をください」
「困っている人を、助けてきます」
「分かりました」
エリザベス夫人が頷いた。
「行ってきてください。私は、ここで待っています」
「ありがとうございます」
六人は、商人の案内で森へ向かった。
三キロを、走った。
やがて、森の中に盗賊たちの姿が見えた。
十人ほど。
全員、武装している。
そして、捕らわれている商人たちが、五人。
「あれだ」
商人が指差した。
「よし」
セリアが剣を抜いた。
「行くわよ」
六人が、盗賊たちに襲いかかった。
戦闘が始まった。
盗賊たちは驚いたが、すぐに反撃してきた。
でも、六人はBランクの冒険者。
盗賊たちでは、敵にならない。
五分で、全ての盗賊が倒れた。
「やった」
六人は、捕らわれていた商人たちを解放した。
「ありがとう! ありがとう!」
商人たちが、涙を流して感謝した。
「どういたしまして」
六人は、商人たちを街道まで送り届けた。
そして、エリザベス夫人のもとへ戻った。
「お疲れ様です」
エリザベス夫人が、微笑んだ。
「素晴らしい働きでした」
「ありがとうございます」
馬車は、再び王都へ向かって進んだ。
今日の出来事で、六人はまた一つ経験を積んだ。
そして、エリザベス夫人からの信頼も得た。
旅は、まだ始まったばかりだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




