最終話:世界で一番、綺麗で幸せな花嫁
帝国の首都は、かつてない輝きに包まれていました。
今日という日を祝うために、エルナと、彼女を「掃除の女神」と慕う帝国中の人々が協力し、街の隅々まで磨き上げたからです。
「エルナ、準備はいいかい?」
控室の扉が開き、正装に身を包んだジークハルト陛下が現れました。
純白のドレスに身を包んだエルナの姿を見た瞬間、百戦錬磨の皇帝陛下が、言葉を失って立ち尽くします。
「……ああ、やはり君は。私の目に狂いはなかった。世界中のどんな宝石を磨き上げても、今の君の輝きには及ばない」
「陛下……。ふふ、今日は一段と『磨き』がかかっていて、直視できませんわ」
エルナが茶目っ気たっぷりに笑うと、ジークハルトは愛おしくてたまらないというように彼女を抱き寄せ、その額に深い誓いのキスを落としました。
結婚式が始まると、街中からは割れんばかりの歓声が上がりました。
エルナが教会のバージンロードを歩く一歩ごとに、足元から清らかな光が溢れ出し、国中の穢れを完全に消し去っていきます。それはまさに、帝国が真の意味で生まれ変わった瞬間でした。
一方その頃。
隣国ラングリス王国は、完全に「ゴミの国」と化していました。
エルナに見捨てられた王宮は、原因不明の泥に埋もれ、王太子レナードは異臭を放つ地下室で、かつてエルナが使っていたボロボロの雑巾を抱えて震えていました。
「……掃除……。頼む、誰か掃除をしてくれ……。エルナ……、僕が悪かった……。戻ってきてくれ……!」
彼の叫びに応える者は、もう誰もいません。
彼らが「地味で無能」と笑い、捨てたものは、国の命運そのものだったのです。
――数年後。
バシュタル帝国は、世界で最も「美しく、健やかな国」として知られるようになっていました。
帝国の庭園では、今日もエルナが楽しそうに花壇を整えています。
「陛下、見てください。あそこに新しい芽が……わっ!?」
背後から抱き上げられ、エルナは声を上げました。
「エルナ、掃除はもういいと言っただろう? 君が少し動くたびに、周囲が浄化されすぎて、騎士たちが眩しがっているぞ」
「あら、陛下。でも、汚れを見逃すわけにはいきませんわ。……もちろん、陛下の心の曇りも、ですけれど」
「はは、私の心なら心配いらない。君への愛で、毎日これ以上ないほどピカピカに磨かれているからね」
皇帝陛下はそう言うと、最愛の妻をそっと芝生の上に降ろし、二人の時間を邪魔する「汚れ」ひとつない青空の下で、深く、甘い口づけを交わしました。
「地味で無能」と言われた少女は、今、世界で一番大切にされる「掃除の女神」として、永遠の幸福の中にいます。
今さら戻れと言われても、もう遅い。
だって彼女の居場所は、ここにあるのですから。
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