第4話:初めての夜会と、皇帝陛下の過保護な独占欲
「……これが、私?」
鏡の中に立つ自分を見て、エルナは目を丸くしました。
最高級のシルクで仕立てられた、真珠色のドレス。髪には掃除用クロスの代わりに、星屑のようなダイヤモンドが散りばめられています。
今まで「地味で無能」と言われ、汚れにまみれて生きてきたエルナ。しかし、磨き上げられた彼女の肌は、どの宝石よりも白く輝いていました。
「ああ、やはり。君という原石を磨けば、世界で一番の光を放つと思っていた」
背後からジークハルト陛下が、その逞しい腕でエルナを抱き寄せました。
首筋に寄せられる熱い吐息。エルナは心臓が掃除の時のように激しく高鳴るのを感じます。
「陛下……あの、少し苦しいです……」
「離したくないんだ。……今夜の夜会で、他の男たちが君に群がるのを想像しただけで、また呪いにかかりそうなほど気分が悪い」
「……? でしたら、私、また雑巾を持って後ろの席に……」
「駄目だ。君は私の隣で、誰よりも高い場所に座るんだ」
皇帝は有無を言わせぬ口吻で、彼女の指先に口づけを落としました。
――そして始まった夜会。
扉が開いた瞬間、会場にいたすべての貴族が息を呑みました。
かつて「呪われた暴君」と呼ばれた皇帝の、圧倒的な美貌。そしてその隣で、月明かりのように清楚で気高い輝きを放つ少女。
「あ、あの美女はどこの国の姫君だ……?」
「隣国から来た生贄の令嬢だと聞いていたが、あんなに神々しいなんて……」
色めき立つ会場。数人の若い貴族たちが、勇気を出してエルナにダンスを申し込もうと近づきました。
しかし、その瞬間。
ピキッ、と会場の空気が凍りつきました。
ジークハルト陛下が、冷徹な瞳で彼らを射抜いたのです。
「私のエルナに、何か用か? ……彼女は昨夜の掃除で疲れている。不埒な者が近づけば、この国の法に従って、貴様の首を物理的に『掃除』することになるが」
「ひ、ひいいっ!」
貴族たちは這う這うの体で逃げ出しました。
「陛下、私、全然疲れていませんわ! それに首を掃除するなんて……」
「いいんだ、エルナ。君は私だけを見ていればいい」
ジークハルトは独占欲を隠そうともせず、彼女をダンスフロアへと連れ出しました。
華やかな旋律の中、エルナは気づきます。
自分が守りたかったのは部屋の清潔さだけでなく、この人の優しい眼差しだったのだと。
その頃、隣国ラングリス王国では――。
「殿下! 城壁に大きなヒビが! そこから黒い霧が噴き出しております!」
「ばかな! たかが掃除女がいなくなっただけで、なぜだ!」
レナード王太子は、黒く変色し、異臭を放つ自分の王座の上で、絶望に震えていました。




