第18話 ⑱——「激しい攻防の応酬……絶防の輝きを、打ち砕く閃きは如何に!?」
『“氷魔召喚——雪原狼・雪妖精・雪達磨”』
氷湖の大将たる冬の貴婦人の元に呼び出された、従順なる白き配下たち。
——狼、妖精、そして雪ダルマ……か。あれらは全員、〝低位〟の配下たちだ。
——〝低位〟は、魔石があれば、ほぼ溜め無しで一気に召喚できるという話だった。
——その分、実力的には弱いモンスターばかりなのだけれと……だからといって侮ることは出来ない。
——いくら単体では弱かろうと、数が多いと処理するのにも時間がかかる。そうして手間取ってしまえば、次にやってくるのは〝中位〟であり……さらに続いて、その上の〝高位〟まで出てくれば……もはやお手上げだ。
おそらく……地道に一体ずつ倒していくなんて、普通の対処法じゃダメだ。
——貴婦人のみを相手にしても、現状ではよくて対等なのに、そこに配下まで増えたら、もはや手に負えないだろう……
だからこそ、どうにか効率よく倒していかないとなんだけれど……現れた配下ごと範囲攻撃でまとめて一掃すればいいだろう——なんて思っていた私の甘い考えは、貴婦人のそばに散らばるいくつもの魔石の存在によって封じられてしまっていた。
——これは、回収されてしまった魔石のことを事前に想定していなかった、私の落ち度だ……
やっぱり、あの魔石たちが邪魔過ぎる……!
——アレさえ無ければ……いや、そうか!
何も召喚されるのを待ってから倒す必要は無いんだ。使える魔石が手元から無くなれば、召喚もすぐには出来なくなるんだから。
——とはいえそれも、一筋縄ではいかないか……
魔石を破壊してしまったら貴婦人が強化されてしまうからこそ、大規模攻撃で魔石をまとめて吹き飛ばす——なんて手も使えないわけだし……
では、どうする——?
——ダメージは低いけれど衝撃力に特化した【緑風衝弾】なら、魔石を破壊せずに上手く吹き飛ばせるかな……? いやでも、あれはそこまで範囲が広くないか……
——なら、一人では無理でも、三人がかりで一斉に撃てば? それなら……いや、すでに〝青猫〟が襲われて対処しているから無理だ。
——くそっ、悠長に考え過ぎたっ、もう時間が無いっ!
——ええっと、連携がムリなら、組み合わせは? 緑風と、炎……いや、紫!
そうか、〝毒煙〟だ!
私が——いや、黒套の方が発動が早いっ!
『“黒套! 【緑風】と【紫毒】で〝毒煙〟を!”』
私が指示を飛ばすと、黒套が即座に反応して、その混合魔弾を貴婦人に向けて放った。
『“七矢魔弾——二矢結合——毒煙酸弾”』
すると、緑と紫のまだら模様の魔弾が飛び出し——
「——っ!?」
狙い過たず貴婦人に命中して——ボフン!
その場に勢いよく、毒々しい紫色の煙が盛大に広がっていく。
——あれこそは、【緑風衝弾】と【紫毒酸弾】の二矢結合である〝毒煙弾〟だ。
——視界を遮る濃紫の煙幕は……吸えば吸うほど毒の状態異常が蓄積し、触れている間は常に酸によるダメージが入るという優れもの。
——これがある限り、新たな配下を呼び出したとしても、最初から毒と酸で弱っているはずなので倒しやすいし……煙幕による視界不良の妨害効果で、こちらはさらに動きやすくなる。
なにせ、今となっては……
『“魔力感知”』
ただの煙幕なんて、私には通用しないから。
私は——さっそく動き出して、毒煙の範囲から出てくる配下を的確に攻撃して始末しつつ——内心でほくそ笑む。
——ふはは、視える、視えるぞ……! 煙の中に、敵の姿が光って視える!
おや、あれは……? なんだろう、小さな光が消えていく——
アレは……そうか、あの魔法で生み出されていた小鳥たちかな?
なるほど、あの程度のヤツなら、追加で攻撃するまでもなく、酸のダメージで簡単にやられてしまうと……
——よし、よし……!
これで、魔石を拾い集めるのも地味に苦労するはず……!
考えれば考えるほど、これが現状では最適の対処法に思えてくる。
——酸のダメージくらいなら、魔石にはほとんど影響しないはずだから、そっちも問題無い。これが他の範囲攻撃なら、そうもいかなかっただろう……
これぞ、魔石のある場所から動けない相手の事情を逆手に取った、一番効果的な策だ!
なーんて、テンションが上がっていた私に——冷や水を浴びせかけるように、その時……
『“強烈なる吹雪”』
ビュオオオォォォォォッッッ!!
貴婦人が起こした吹雪の魔法によって、毒煙はアッサリと吹き散らされてしまったのだった。
……彼女の周囲の魔石ごと。
……い、いや、ある意味では、これは結果オーライというやつなのでは?
——魔石を吹き飛ばして召喚を妨害するという目的は、図らずも(ほとんど相手の自爆によって)達成できたし……
と、とにかく——魔石が付近から無くなった以上、強力な攻撃も解禁されたわけだし——今こそ攻勢に出る時……!
『“みんなっ、今だよ! 集中攻撃して!”』
気を取り直した私は、すぐさまみんなに指示を出して、貴婦人に攻撃を集中させる。
まずはにゃんたろーが、続いて私が、そして最後に黒套が、炎の魔弾を放つ——!
ボッ、ボウッ、ボォッ——ボンボンボン!!
「ッ……!!」
つい先ほどに、激しい吹雪を起こすという大掛かりな魔法を使った反動か——それらはまるで防がれることなく、ことごとく貴婦人に命中する。
——いけるっ……!
今が好機だと確信した私は、間髪入れず、今度は彼女に特別な指示を出す。
『“いくよ、ラマンダ——〝激火炎弾〟ッ!”』
私の【使令強化】に応えて——肩の上から移動して、ピンと伸ばした腕の先にまでやってきていたラマンダが——その技を放つ。
『“使令強化——激火炎弾”』
ボウゥッッ……ドオオォォォンンッッッ!!!
「ッッ……!」
これまた貴婦人は対応できず、強烈な一撃を喰らって大きく吹き飛ばされるのだった。
決まった!
ふぅ、ようやくまともな一撃が入ったね……でもまだまだ、相手は健在だ。
油断せず、確実に削っていく……!
それからも私は、貴婦人に付け入る隙を与えないようにと、途切れることなく攻撃を加えていった。
〝戦術陣形Δ〟の特性を活かして、状況を見て貴婦人の死角からの攻撃を意識していく。
——常に〝接続〟を繋いで、メンバーすべての状態を把握し……各々の魔力残量や、それぞれの攻撃の溜めや反動も計算して、最も効率よく連携できるように指揮をとる。
しかし、そこは相手もさすがのボスであり……三対一で取り囲んでいるにも関わらず、お互いの応酬はわりと拮抗していた。
貴婦人は魔石が遠くに吹き飛ばされても諦めることなく……例の小鳥を生み出す魔法を再び使って、また一から集めようとしたり、あるいは自ら動いて拾おうとしたりもする。
——貴婦人の活路としては、やはり何よりもまず手数を増やすべきで、そのためには召喚する必要がある……というのは、もはやお互いの共通認識であった。
ゆえに私も、そうはさせじと妨害に精を出し——まずは魔石を拾われないように、そして拾われても召喚されないように、召喚されてもすぐに倒すようにして、常に数的有利な状況を維持していく。
——〝中位〟以上は必要な溜めが大きいので、妨害の中で貴婦人が召喚できるのは〝低位〟までだったし……
魔石が散らばってしまった今となっては、数を集められず一度に呼び出せるのは少数だったので、増える前に倒すのは問題無かった。
とまあ、そんな応酬がしばらく続き……
わずかにこちらが優勢のまま、少しずつ貴婦人にもダメージを与えて削っていく中で……
いよいよ、このままでは埒があかないと思ったのか——そろそろ相手の残り体力も半分近く削れただろうか、という頃合いで——貴婦人が切り札の一つを行使してきた。
攻撃に耐えながらも、どうにか集めはしたけれど——しかして、ついぞ召喚する余裕が無かった〝中位〟の魔石たち。
そんな魔石たちに、見切りをつけたかのように……そこで貴婦人は、両手に抱えた氷属性の青い魔石を、自ら握りつぶしてしまうと——破壊された複数の魔石より溢れ出る氷の魔力を用いて、溜め無しで高度な魔法を発動してみせるのだった。
『“公転する白氷星の防衛陣”』
すると、貴婦人の周りをくるくると回る、多数の白い球体が現れる。
——これはっ……?!
詳細は不明ながらも、使用した魔力の規模感的には大いに警戒すべき魔法が発動されたことで——うかつに手出ししないほうが良いのではないかと思い、しばし悩む……
——すぐに攻撃してこなかったところを見るに、防御あるいはカウンター系って気がするのだけれど……
一体なにが狙いなのか……悠長に考えても答えが出るわけではないし、あまり相手に時間を与えたくはない。
——まあ一応、さっき使った分で、もはや貴婦人の手元に魔石が一つも無いことは分かっているから……待っていても召喚される心配はない。
向こうも大技の反動が抜けるまでは動けないはず……いや、だからこそ、確かめるなら今、なのか——?
……よし、やろう!
すぐに迷いを捨て、弱気を振り払った私は——とはいえ、念の為の用心として、りんちゃんに防御魔法の準備をしてもらってから——連射機構を立ち上げると、貴婦人に向かって軽くぶっ放してみる。
ババババババババババババシュゥッッ!!
高速で射出される無数の〝黒針弾〟は——
ヒュンヒュンヒュン——ガガガガガガガガガガガガッッ!!
……しかし、攻撃に自動的に反応した白球が、貴婦人の周りを瞬時に飛び交い、こちらの射線を遮るように防御したことで……結果的には、一つも抜けることなく、すべて防がれてしまった。
これは……だいぶ厄介だぞ。
——あれほどの連射も防がれるとなると、連携による多方面からの同時射撃も防がれると思っておくべきだろう。
向こうが防御を固めた理由は不明だけれど……相手の思惑に乗るべきじゃない。
——そっちが守りに入るなら、こっちは攻勢に出るまでだ。
防がれてしまうなら、防御されようが関係ないような攻撃をすればいい……そう、ここは範囲攻撃の出番!
即断即決——私はラマンダに指示を出し、彼女が持つ技の中では、威力も範囲も最大級の一撃を使わせる。
『“使令強化——爆炎衝撃”』
緩やかに放物線を描いた爆裂弾が、無数の白球に守られた貴婦人に向かっていき……
ボォッヒュゥゥゥゥ——ドッカァァァアアアアアンンッッッ!!!!
最も接近した地点で大爆発を巻き起こし、周りも大きく含めて貴婦人をまるごと飲み込んだ。
——まだまだっ、ここで畳み掛ける!
さらに続いて、黒套にも指示を出し、彼が持つ最大規模の一撃を解き放つ。
『“使令強化——水雷爆弾”』
ピュン——ドッッッカァァァァァァンンッッッッ!!!!!
大きなダメージを受けたところで、さらなる大爆発を喰らっては、いよいよ貴婦人の佇まいからも一切の余裕が無くなっており……そんな傍目からも感じ取れるボスの弱り具合を見て、あるいはこのまま押し切れるかと思わず浮き足立ちそうになったところで——
おもむろに貴婦人が、今の今まで隠していた秘蔵のブツを、どこからともなく取り出してきたのだった。
あれは——あの大きさ、濃い青色、そして何より、内包する魔力の強さ……まさかっ、〝高位〟の魔石!?
——嘘でしょ、服の中にでも隠していたっていうの……?!
——っ、じゃあ、貴婦人の狙いは、時間稼ぎしつつ水面下で準備して、不意打ちで〝高位〟の配下を召喚することだった……?
でもそれを、隠すのをやめてああして取り出してきたってことは……っ、もしかして——
その予感を裏付けるように……貴婦人はおもむろに、両手にそれぞれ取り出したる高位魔石を躊躇なく握りつぶして、莫大な魔力を解放させると……
間髪入れずに、さきほどよりも一層強力な、その大魔法を発動させる——!
『“堅牢なる剛氷の天城壁”』
バキバキバキッッ、ゴゴゴゴゴッッッ……デデデデンッッ!!!!!!
——うおっ、ま、マジかっ……なんという、巨大な氷の防壁っ!?
もはや見えなくなってしまった——さっきまでいた貴婦人の周囲を、天上部も含めて、ぐるりと完全に取り囲むように現れたのは……
まさに金剛石の如き硬さを彷彿とさせるかのような輝きを宿した、高さにして五メートルは優にありそうな、あまりにも分厚い氷の壁だった。
そのあまりにも堂々たる威容に、思わず圧倒されつつも……私の脳内には、瞬時に色々な考えが巡ってゆく。
——この魔力量……! 生半可な攻撃では、マジで傷一つ付けられないぞ……!
——追い詰められて、さらなる万全な守りを固めた……となると、何か狙いがあるはず。
——いや、そうか……隠し持っていた高位魔石は、あれで全部じゃない、まだあるんだ。となると、守りを固めたのは、確実に召喚して態勢を整えるためかっ……?
——ヤバいな……いくら〝高位〟は召喚に時間がかかるといっても、どれだけの猶予がある……?!
——【激火炎弾】……【水雷爆弾】……【爆炎衝撃】……いや、ダメだ、足りない……威力はまだしも、連発できない大技では、どうしても時間がかかる……召喚を阻止するには間に合わない……!!
冷静な計算は残酷な解答を告げており——現状の手札では、どう足掻いても無理という結論が早々に導き出されてしまう。
それくらい、貴婦人の奥の手は圧倒的だった。
——もはやここまで……なの?
高位の配下を——アイスゴーレムや凍騎士を呼び出されては、さすがに勝ち目が無くなる……
絶対に阻止しなくては……しかし、しかしどうやって……
現状の手札に無いなら……新たに作るしかない。
そうだっ……今、ここでっ、想像しろ……ッ!
——バジリスク戦で、天啓のように閃いた、あの時のように……っ!
起死回生の一手を……!
いまこそ、この手に……!
掴み取るんだッッ……!!!




