第18話 ⑰——「探り合いの、駆け引き合い……!」
配下のモンスターたちが壊滅したところで、私はいよいよ大将である〝冬貴婦人〟と対峙する。
『“——みんな! 作戦通り、ここからは三手に分かれるよ。それじゃ、戦闘開始!”』
〝念話〟を通した私の指示を受けて、隠密の魔法から飛び出した「にゃんたろー&ウェンディ」ペア(——識別名「〝青猫〟」)が、貴婦人の前にその姿をさらけ出す。
配下が早々に全滅して焦った様子だった貴婦人は、唐突にどこからともなく現れた新手に驚いた様子だったけれど……そこはさすがのボス、すぐに気を取り直したようで、こうなっては大将自ら討って出るとばかりに、さっそく〝青猫〟ペアに向けて魔法で攻撃する。
『“凍てついた氷の槍”』
『“水盾防御”』
貴婦人より放たれ、宙を翔け抜けて〝青猫〟ペアへと迫る鋭い氷槍の魔法を——素早く反応したウェンディが、水の盾で防御する。
バシャッ——パキパキッ、ビキビキビキッ!!
しかし、受け止めると同時に、水の盾は瞬時に凍りついてしまい……それにより、ウェンディの制御を離れたのか、歪な氷の塊はその場に落下して、ゴツンと鈍い音を立てた。
——よし、ちゃんと防げる……!
——にゃんたろーが魔法の予兆を察知して、ウェンディが防御する……この組み合わせが、ちゃんと上手くいってる。
——だけど、属性の相性的には、やっぱり微妙か……防げはしたけれど、一撃で魔法の制御が失われてしまった。
——こうなると、純粋な魔力量での勝負になるから……明確にこちらが不利だ。
——まあ、それも……あくまでも、〝青猫〟ペア単体で考えたらの話だけれど。
敵は強大……されど、私たちはチーム。
取り囲み、連携の強みを活かして、突き崩す!
『“ウェンディ、いけそうだね? ——オーケー。じゃあいくよ、みんな、配置変更……〝戦術陣形Δ〟! お互いの隙をカバーしつつ、貴婦人の隙を狙うよ!”』
念話で指示を飛ばしつつ、私自身も迅速に移動していく。
すると、三手に分かれた〝部隊〟の——
——「にゃんたろー&ウェンディ」の〝青猫〟ペア。
——「ウィルくん&黒套」の〝闇骨〟ペア。
——「私&りんちゃん&ラマンダ」の〝空主〟。
という、三つの〝班〟が……貴婦人を中心にして三角形を描くように大きく取り囲み、三つの頂点部分にそれぞれ位置するように陣取ってゆく。
これが今回の貴婦人戦の基本陣形である——〝戦術陣形Δ〟だ。
〝青猫班〟は——常にその身を貴婦人の前に晒して、彼女の注意を惹きつける。
〝闇骨班〟と〝空主班〟は——両方とも常に隠密を継続しつつ……〝青猫〟に注意を向ける貴婦人の背後から、隙を見て攻撃していく。
そうすることで、〝青猫〟ばかりが狙われるのを避けつつ、相手の狙いを分散し、個々の負担を軽減させられる。
しかし相手にとっては、三方向から同時に狙われる関係上、常にどれかの班が貴婦人の死角から攻撃できるという布陣なのだ。
——貴婦人の注意は今、完全に〝青猫〟に向かっている……
——〝闇骨〟には大きく回り込んでもらっているから、〝空主〟の方が配置が早いかな……?
——ならここは、私がやるか……!
十分に距離を取って配置についた私は、『七矢の弩』を構えて素早く貴婦人を狙い、弱点となる炎の魔弾で攻撃する。
『“七矢魔弾——赤炎熱弾”』
ボウッ——!!
「——ッ!」
しかし、私が魔弾を放つのと同時に反応した貴婦人が、こちらに振り向いて——
『“氷盾防御”』
ボワァッ——バシュウッ!!
即座に氷の盾を展開したことで、攻撃は防がれてしまった。
——っ、思ったよりも反応が素早い!
——いやでも、今のタイミング的に、もっと弾速が速い連射機構ならワンチャンいけたんじゃ……? ぐ、マズったか……
——って違う、それより観察! 隠密は……効果アリ、みたい?
『“気配遮断”』
貴婦人はこちらを見てくるが、その視線は私から微妙にズレている。
——攻撃中はさすがにバレるけど、すぐにマントの能力全開で隠れたから、おそらくすでにこちらを見失ってるはず……
貴婦人の感知能力は、そこまで高くないらしい——という、その話を裏付けるように、彼女の視線はさっきから一点に固定されたままで、そっと移動していく私からは、すでにだいぶ外れている。
よしよし、マントの効果はちゃんと効いているみたい。
これなら——って、強い魔力反応っ!? これはっ?!
『“魔力感知”』
にゃんたろーからの〝念話〟による警鐘を受けて、素早く【魔力感知】を発動した私の視界には——貴婦人からこちらに飛んでくる(本来は不可視であるはずの)半透明な青い魔力の塊がバッチリと映っていた。
——っ、回避ッ!!
狙いとしては案の定、少しばかりズレているけれど——しかし魔力の強さ的に、このままでは巻き込まれると直感した私は、即座に全力疾走を開始する。
——うおおおっ、間に合えッ!
手袋の能力も発動し、強化した身体能力でもって——勢いよくダダダダッと駆け出した私の後ろで、その時、大きな魔力が弾ける気配がして……
『“凍てつく霧霜”』
ブワァッッ——キラキラキラッ……ピシピシピシピシッ!!
間一髪——滑り込みセーフで回避に成功した、私のすぐ背後にまで迫ってきていたのは……爆発的な速度で展開したらしき、触れたものを瞬時に凍てつかせる極寒の冷気を帯びた霧なのだった。
〈流浪の探索者:うおぉっ、ギリギリ神回避ッ!!〉
〈やが灰のファンである:ん? ソラちゃんがナゾにいきなり走り出し——突然の青い爆発っ!!?〉
〈地上の視聴隊:——ッ! ソラ様、やはり〝視えて〟ますわね……! さすが、もうモノにしたというわけですか……魔功術の『基本三項』が一つ、【魔力感知】を——!〉
マジでギリギリっ、あと少し初動が遅ければ間に合わなかった……まさに肝が冷えるとはこのことだけれどっ、怯んでいる暇なんて無いっ——!
『“……っ——〝青猫〟っ、〝闇骨〟っ! 今だよっ、〝交叉射撃〟!!”』
間髪入れず、私は二つの班に向けて同時に指示を出し——
『“交叉射撃——赤炎熱弾”』
即座に反応したにゃんたろーと黒套が、素早く構えたそれぞれの『七矢の弩』が文字通りに火を吹いて、二方向から同時に貴婦人へと襲いかかっていく——!
「ッ——!?」
まったく異なる別々の方向からの同時攻撃に、貴婦人は驚くように反応するも、しかしとっさに対応できず……
ボンッ!!
ボォッ!!
結果的に——片方だけなら防げただろうに、しかし、一瞬の判断の遅れが致命的となり——両方ともを喰らってしまうのだった。
うしっ、決まった……!
——うん……にゃんたろーの武器として正式に採用するってことで、(以前にも借りた予備のヤツを)やっさんが事前に改造して渡してくれた『七矢の弩(猫ver)』もいい感じだ。
——にゃんたろーに合わせた超小柄用へのサイズ調整を始めとして、基礎STの向上や、【自動照準】の追加までしてもらったから……さっきみたいに、とっさの連携にも対応できるようになっている。
これならちゃんと、にゃんたろーも準攻撃役としての役割をまっとうできそうだ。
「っ……」
攻撃を受けた貴婦人は、すぐに反撃してくる——ことはなく、警戒したような素振りで、こちらの様子を窺っている。
——これは……チャンス? 畳み掛ける? ……いや、この間にこちらも態勢を整えた方がいいかな。
——すぐ近くに、さっきの霧がまだ残ってるし……危ないし邪魔だから、配置を調整しておこう。
向こうが止まっている内に——こちらも警戒は怠らず、いつでも対応できるようにしつつ——三班の位置関係はそのままに、全員で円を描くように移動しておく。
「——ふむ、奴さん、どうやらボクたちのことを、まだ警戒しているみたいだね。であれば……」
「私たちは、もっと大きく退いた方がよろしい——みたいですわね?」
「あいあーい。それならもう、馬車んトコまで戻っとこーか。——そんじゃソラちゃん、あとは任せた! グッドラック!」
と、このタイミングで——それまでも、わりと大きく距離を取った後ろから観戦していた——助っ人の三チームが、みんな揃ってぞろぞろと、さらに後方の馬車のところにまで戻っていく。
すると……そんな彼女たちの動きを確かめてから、貴婦人が新たな動きを見せる。
『“群れなす雪雀”』
パタパタッパタパタパタッ——
貴婦人が生み出したのは、雪のように白い小鳥たちで——これは……召喚? いや、魔法で生み出した擬似生物の類いか——彼女の手元より飛び立っていく無数の小鳥たちが、付近に散らばって行ったかと思えば、すぐさま何かを口に咥えて戻ってくると……
『“氷魔召喚——雪原狼・雪妖精・雪達磨”』
貴婦人が受け取った魔石が、たちまち光を放っていき——次々にモンスターが現れる。
っ、召喚だ! いよいよ使ってきたね……!
——うーん、あの魔石たちも、どうにかしないとなんだよなぁ……
——すでに向こうが拾い集めた分の魔石が、ああして貴婦人の近くに散らばっているせいで、下手に範囲攻撃もできないわけだし……
——なにせ、この場であの魔石をうっかり破壊しようものなら、その分の魔力が貴婦人に吸収されて強化されてしまうって話だからね……となるとやっぱり、どうにかして回収するしかないのか……?
ともかく、ここからが本番だ……っ!
配下のモンスターと貴婦人、どちらを優先して叩くべきか……答えは〝両方〟だ。
——より正確に言えば、配下を優先的に始末しつつ、貴婦人も放置せずに妨害しておく必要がある。
その塩梅、戦力配分の妙——それが上手くいくがどうかで、この戦いの勝敗そのものが左右されるといっても過言ではない。
それらの采配はすべて、私の指揮一つにかかっている……!
——今日ここまでに、積み上げ培ってきた成果を、今こそ発揮するとき……!
いよいよ私たちだけになり、本格的に始まったボス戦を前に、私は気合いを入れるのだった。




