第18話 ⑯——「氷上の決闘! ボス〝冬の貴婦人〟戦!!」
ボスの縄張りの少し手前で停まった〝快優邸〟から降りて、氷湖の分厚い氷面に降り立った私たち。
——うん……大丈夫。『不倒の靴』の【万地不倒】の能力のおかげで、ツルツルの氷の上でも、私はまったく滑らずに動ける。
見据える先、正面に泰然と陣取っているのは、この氷湖のボス——〝冬貴婦人〟と、その配下たる取り巻きのモンスターたちだ。
——あれが、冬の貴婦人……見た目は確かに、もはや人外めいて美しい女性だけれど……なんだか、凍てついた美貌とでも呼び表すのが相応しいと思ってしまうくらいには、とても迫力がある……あれぞまさに、ボスの風格……!
対する私たちは——私たちが七名、ヴンオケが同じく七名、御剣姉妹が二名で、やっさんが一名の……総勢十六名で挑む。
——ヴンオケは、使役獣からは〝騎士鎧〟と〝騎士槍〟の槍騎士コンビと、お嬢様が乗る一角獣の〝乙女号〟のみが参戦していて、残りの使役獣は快優邸で待機している。
——それと、ウチのチームからも、ハナちゃんだけが同じく馬車で待機中だ。
——最後まで迷いに迷ったのだけれど……やはり、氷属性や氷湖フィールドとはすこぶる相性が悪いハナちゃんに無理させるべきではないとの結論に至ったので、今回ハナちゃんには後方待機してもらうことにした。
相手もさるものだけれど、こちらも極めて強力な布陣が揃っている……とはいえ、助っ人三チームはあくまでもサポート役であり、主役——というか、主力となるのは私たちなのだから……そのつもりで、気を引き締めておかないと。
「——それでは、激戦必須の大一番……その始まりの号砲は、この私が上げさせていただきますわよ。さあ……これにて、〝冬貴婦人〟戦の——始まりですわ!」
馬上よりそう宣言したお嬢様が——バフ効果は発揮させないようにしつつ——天御神楽を高らかにかき鳴らすと共に、自身の天恵で盛大に伴奏まで加えて、壮大なBGMを響かせたところで……
『“天御神楽——通常演奏——豪華絢爛”』
配信の目玉となるであろう、強敵との激闘が——いよいよ幕を開ける……!
そして、始まった戦いは……すぐにその趨勢を決するほどに、一方的な展開を見せていた。
——つ、強い……! 実力制限付きで、数的不利もあるのに、それでもなお、圧倒してる……!
——なるほど……基本的には全員、〝赤魔〟を武器に纏わせているみたい。それにしても、鎧袖一触とは、まさにこのことか……
『“魔力感知”』
すでにほぼほぼ【魔力感知】を習得できている私は、にゃんたろーと〝接続〟していれば、応用編である魔力の色の識別も可能になっていたので——戦うメンバーたちが武器に纏わせている、常人には不可視である赤色の魔力を視認することができていた。
——それにしても、魔力感知アリで見たら、より一層綺麗なんだなぁ……お嬢様の【豪華絢爛】って。
ボス相手にも優雅に渡り合うヴンオケの戦いを見て、私は感服させられる。
乗馬しながらも一切体幹をブレさせることなく大合奏を演奏し続け、(能力をこちらにも使い)白鳥様を華やかに彩っての強化もしつつ……さらには、後方から適切な指示を飛ばしては、敵を手玉に取っていく——神楽お嬢様。
そんなお嬢様の指揮に従い、白鳥様がメインで敵の注意を惹きつけて戦況をコントロールしていき、それをギラさんが遊撃として動き回りつつサポートして、そこに後詰めのセバス様と槍騎士が、お嬢様を守護る盾となりつつも確実に相手を削っていく。
それはまさに、パーティー戦のお手本として、これ以上ない完成度と安定感を誇る戦い振りだった。
——能力を制限していてもなお、数的不利を覆して、ここまで圧倒してしまうのだから……すごく参考になるのと同時に、大いに戦慄させられる。なにせこれこそはまさに、能力頼りや実力差のゴリ押しとは真逆と言える、本物の実力の証明なのだから……。
そんなヴンオケから視線を移せば——こちらもこちらで、ド派手な戦いを繰り広げている御剣姉妹の姿が目に入る。
「やるぅ〜、みっちゃん! やっぱそのビカビカ剣、強ぇ〜!」
「ははっ、そーだろそーだろ〜。今の状態なら、あーちゃんよりアタシの方が目立っちゃうかんねぇ〜!」
ヴゥンッ、ヴゥン、ヴゥッン——!
それは——ある意味では、スポットライトを浴びて輝いているはずの白鳥様にも勝るとも劣らない目立ちっぷりだった。
なにせ、赤い光の刃を伸ばす『魔剣 光流』を手にして、大立ち回りを演じる光刃さんの戦い振りは——まさに一騎当千。
並いる敵を、すべて一刀の元に仕留めていき……次から次に、バッサバッサと斬り倒していく様は、あまりにも爽快で、ひたすらに豪快だった。
——あの赤光剣……とにかく威力が凄い。いや、凄いなんてもんじゃない……もはや、ただ触れるだけで敵が弾け飛んでいくのだから、一体どれほどの威力が込められているのやら……想像するに恐ろしいほどだ。
そんな一撃必殺の最強武器を操る使い手が、これまた超一流の達人だというのだから……相手からしたら、たまったものではないだろう。
そう、強いのは武器だけではない。むしろ本人の力量こそが一番の脅威だ。
なにせ、敵の攻撃はかすりもさせずに、すべて見切ってしまい……攻めては相手の防御ごとぶった斬り、ならばと数を頼んだ同時攻撃がくれば豪快にまとめて薙ぎ払い、さらには時間差の連携攻撃に襲われようとも、瞬時に優先順位を見抜いて瞬間的に各個撃破していってしまうし……あまつさえ、空を飛んで距離を取って遠くから魔法を撃とうが、躱して弾いて光の剣を投げつけてブーメランのように旋回させて一掃してしまうのだから……つくづく手に負えないとはこのことだった。
そんな光刃さんに目を奪われてしまいがちだけれど、一緒に戦っている鳳刃さんも相当だ。
ド派手な光刃さんに比較して、こちらはひたすらに丁寧で、いっそ感嘆してしまうほどに美しい。
一切の無駄がない、洗礼された動き……そこから繰り出される達人の一撃は、一太刀で相手の急所を的確に断っていく。
あまりにも動きが高度に洗礼されすぎていて、傍から見ていると、もはや異様というか……なんだかまるで、敵が自分から彼女の刀に(まるで吸い込まれるかのように)斬られにいっているようにすら錯覚してしまうほどであり——
武の理を極めた先には、こんな光景が広がっているのかと……しみじみと感慨深くなるほどの業前なのだった。
「ふわふわピュッピュッ、ふわピュッピュッ〜♪ 天使は射つよ、愛の矢を〜♪ 射たれた相手は、さあ大変〜♪ 正義の戦士に、早替わり〜♪ あそーれ——〝魅了の矢〟〜!」
その声につられて、今度は視線を上に見上げれば……そこには翼を広げて空をフワフワと飛んでいる、可憐で天使なやっさんが。
そんな彼女が、可愛らしい声で詠唱ならぬ歌唱を——お嬢様の奏でる大合奏に合わせて——披露しながら……弓に番えて射ち放つのは、桃色に光る魔法の矢だ。
『“天使の弓——超技解放・耐性無視——魅了の矢”』
地上で暴れ回る二つのチームに翻弄されているモンスターたちは、頭上の天使にまでは気が回らないようで……やっさんの放つ矢は、防がれることもなく命中していく。
そして、桃色の矢が命中したモンスターは、そこに込められた効果が遺憾なく発揮されて……たちまちのうちに精神を支配され、自らの主である冬貴婦人の統制を外れると、そこからはやっさんの命令に従い、ついさっきまで味方であったはずのモンスターたちへと猛然と襲いかかっていく。
〈ニートの無職ん:アホみたいな歌を口ずさんでいるヤツが、さっきからかなりえげつない戦果を叩き出してて草〉
〈流浪の探索者:うわ、アイスゴーレムも一発で魅了されてるやん……いやぁ、ああいう非生物系のモンスターって、普通は精神系の能力とかほとんど効かないハズなんやけどなぁ……。さすがは夜の字、能力の相性やら相手の耐性なんか全然お構いなしで笑うわw〉
〈探索兵長:普通に倒したんじゃ、再召喚されて復活するリスクもありますからね……。その点、魅了ならば敵の戦力を減らしつつ、同時にこちらの戦力を増やせるので、差し引きで一気に戦力アップですよ。それも、先ほどからやっているように、アイスゴーレムや凍騎士といった強敵を味方につければ、いよいよ効果は大きいというわけで……可愛らしい姿とは裏腹に、相手からすると一番厄介なのは姫の存在なのかもしれませんね〉
やっさんの活躍に対する同志たちのコメントを傍目に確認しつつ——私はコソコソと隠れながら、自分の役割である〝魔石拾い〟をせっせとこなしていた。
——そうそう……ヴンオケや御剣姉妹も凄いけど、やっさんも普通に凄いんだよね。それこそ、貴婦人の側近にして強敵であるアイスゴーレムや凍騎士は、貴婦人のすぐ近くから大きく動かない都合上、早々に倒したとしても、現状では魔石を回収できないから、あまり意味が無いのだけれど……だからこそ、魅了して味方につけるのが、とても効果的に働くんだよね。
——そのお陰で……側近が敵に寝返るなんて最悪の事態になって貴婦人にも余裕が無いから、魔石を生成して新たな配下を呼び出すのはおろか、回収した魔石から再召喚するのも滞っている始末だから……お嬢様や姉妹たちの怒涛の活躍もあって、現在進行形で配下は削られていき、順調過ぎるくらいにどんどん減っていっている。
——いやほんと、倒すのが早過ぎて、私たちの回収が追いついていないくらいなんだよね……戦闘に巻き込まれないように注意しつつの回収作業とはいえ、先んじて狼たちに掻っ攫われるのは阻止したいところなのだけれど、さすがに人手が足りない。
今の私は、チームメンバーの七名を二分して、それぞれで分担して魔石の回収作業にあたっていた。
私の方のメンバーが、私とりんちゃんとラマンダで——体が小さいこの二名を、私の『隠密迷彩の外套』の下に匿う形で一緒に隠密することで、敵に見つかることなくコソコソと魔石の回収に勤しむことが出来ていた。
もう一方のメンバーは、にゃんたろー・ウェンディ・ウィルくん・黒套の四名で——彼女たちは、ウィルくんの〝隠密の魔法〟で隠れながら魔石拾いをしてくれている。
すべてでは無いけれど……倒されたモンスターの魔石(と、ついでに可能ならドロップアイテム)を、私たちが地道に拾って回収し続けていたこともあり——
さらには、主にやっさんの活躍により、貴婦人が新たな配下を呼び出すことがほとんど出来なくなっていたので、取り巻きのモンスターたちはみるみる減っていき……
最初はあれだけの数がいたことを思えば、それこそ信じられないくらいの迅速さで……
戦闘開始から然程の時間も経たずして、気がついた時には、貴婦人の配下はほぼほぼ全滅の憂き目に遭っており——
そうしていよいよ、私にとってはここからが本番となる、貴婦人との決戦に挑む時がやってきたのだった。




