第18話 ⑮——「ボス戦前の作戦会議(ブリーフィング)」
「さて……それじゃ、十分に休憩も取れたから、さっそく配信と探索を再開していくよ!」
やっさんの号令に合わせて、私たちは、一時的に停止していた配信と、〝快優邸〟の進行を再開したのだった。
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:おかえり夜ちゃん! 天使の再臨を待ってたよ〜♡〉
〈やが灰のファンである:おお、ソラちゃんが元気に復活してる!w うんうん、しっかり休めたようで、ヨシ!〉
〈地上の視聴隊:なんでしょう、心なしか、休憩前よりも皆様の距離感が近しくなっている気がしますわね。もしや、カメラが映していない間のやり取りで、仲が深まったんでしょうか……だとしたら、なんだかちょっと惜しい気分ですわ!〉
「さて、それじゃ……まず最初に、これから進むルートについての説明を——お嬢様くんに任せてもいいかな?」
「ええ、夜叉姫様。私にお任せあれ、ですわ!」
休憩中にたくさん話したから疲れたのか——さっそくやっさんが、お嬢様に説明役をぶん投げたところで、心得たとばかりにお嬢様がスラスラとリスナーに向けて説明してくれる。
「さて、画面の前の皆々様。別窓で表示している外の様子の映像を、ご覧になっていただけますかしら。——ええ、見ての通りに……こちら、一面の氷湖になっておりますわ」
そう切り出したお嬢様は、続いて詳しい内容を、最初から順を追って分かりやすくリスナーに語っていく————
私たちが今現在いる地点は、〈精霊ダン〉における〈中層・深域〉の始まりである〈第一区〉の……その前半部分(雪原)を抜けて、中間部分に差し掛かった辺りになる。
この〈第一区・中間部〉のルートとしては、主に以下の二つがある。
・氷湖ルート
モンスターの出現が(比較的)少なく、障害物が無いので見通しが良く、一面が凍った水面なので(滑るけど)平坦で進みやすいが……最終的に強力なボスが出現するので、このルートで〈中間部〉を抜けて次なる〈後半部〉へ到達するためには、必ずそのボスを倒さなければならない。
・樹林ルート
強敵たるボスとの戦いを避けるには、巨大な氷湖を避けて回り道をする必要があるのだが……そちらは木が密集する樹林になっているので、とても進みづらい上にモンスターの出現も多く、倒しながら進むのはどうしても時間がかかる。
この二つのルートのどちらを選ぶのか——という選択で、今回は氷湖ルートを選ぶことになった。
——ちなみに……氷湖の周囲を囲む樹林部分は、入り口から見ると奥に行くほどに登りになっており、氷湖から見ると途中からは切り立った崖のようになってしまうので……氷湖を進んでいる途中から樹林ルートへ変更することは難しく、ルートを変えるならば、はるばる来た道をわざわざ引き返すことになる。
氷湖を選んだ理由は二つある。
一つは、「時間短縮のため」。
——最短ルートは氷湖を突っ切ることだし、モンスターも少ないので、急ぐならばこちらということになる。
——というのも、休憩前にやっていた馬車を降りての行軍訓練に、すでに結構な時間を使ってしまっているので……ここからは巻きでいく方針になったのであった。
もう一つは、「ボスを倒すため」。
——氷湖のボスは強敵らしいけれど、でもまあ、このメンバーなら負けることはあり得ないし……やっさん曰く、「強敵との一本勝負は、無数のザコ敵との連戦に勝る上質な経験を積める」らしく、これにはお嬢様や御剣姉妹といった他の実力者たちも頷いているくらいに、上位陣にとっては共通認識だったので……私の育成強化のためには、やはりこちらを選ぶべきという話になったのである。
——それに加えて、この先の攻略を見据えたら、このボスを倒して魔石を獲得し、〝変身〟(※)出来るようにしておいた方がいいという、やっさんからの助言があったからでもある。
(※)——シェイプシフターに魔石を取り込ませて、そのモンスターに変身できるようにすることを指して、いつしか「変身する」と呼ぶようになっていた。
……という説明がなされている間も、私たちの乗った快優邸は、氷湖の上を快走しており——
説明が終わった頃には、すでにかなりの距離を稼いでいたので……氷湖の入り口は、もはや遥かな後方にて見えなくなっていた。
水面が凍った氷湖の上でも相変わらず快適な乗り心地の快優邸は、基本的には最短距離を颯爽と進みつつ、進路上に敵の反応があれば、軽く迂回するか——あるいは、数が少ないならば、そのまま突っ切ってしまう。
かなりのスピードが出ているので、ほとんどのモンスターは襲いかかって来る前に通り過ぎてしまって、その場に置き去りになっていたけれど……
中にはスピードが速いモンスターもいて、しばらくの間、馬車と並走することが出来ていたけれど……それもすぐに、馬車の周りを巡回している彼女——ギラさんによって、サクッと討伐されてしまうのだった。
そう……この氷湖での移動中における戦闘は、もはやギラさんに一任されていた。
この氷湖こそはまさに、自らの本領を発揮できる場所であると言わんばかりに……
彼女は、愛用の武器である——見た目はモロにアイススケートシューズそのままな——『魔刀 光刃靴』を用いて、ダンジョンの中にある天然の氷湖を伸び伸びと滑っては馬車と並走し、モンスターが出てきたら意気揚々と迎撃に向かい、そのまま止まることなく流れるように始末してしまうのだから……
なるほど確かに、彼女以上の適任はいないというものだった。
まあ一応、追加で——セバス様の使役獣であり——ヴンオケの魔法役を担っている……「自動杖」の〝魔導杖〟と、「魔導書」の〝魔導本〟のコンビも、後衛として馬車の上に陣取っていたけれど……
一流の魔法使いもかくやという強力な魔法を使える、心強い味方である〝杖本〟コンビの出番は、しかしほとんどなく……ノリノリで戦うギラさんの快進撃は凄まじい勢いであり、まるっきり彼女一人で事足りてしまっているのであった。
とても楽しそうに活躍しているギラさんのお陰で、私を含めた他のメンバーは、快優邸の中で待機しているだけでよかった。
もはや、先ほどまでの休憩の延長みたいな状態の馬車の中で、自然と始まったのは——馬車を降りずに雪原を進んでいた最初の頃にもやっていたような——優雅なお茶会雑談配信だった。
これまた休憩中の延長みたく、各々がゆったりとお茶を楽しみつつ会話を交わしていく——それを傍から聞きながらも、私が頭の中で考えていたのは別のことだった。
というのも……やはりというか、休憩中にしていた歓談の最後に出てきた話題である、魔功術の〝奥義〟や……その前に出てきた〝魔人〟とかいうアレらについては、誰も改めて触れることがなかったから。
——やっぱりあれは、オフレコな話題だったのだろう……奥義もだけれど、魔人については、特にそう……
それに関しては、曲がりなりにも話を聞いていた私としても、納得するところだ。
まあ、カメラの前で〝奥義〟の話をしないのは、極めて貴重な情報を明かしてくれたやっさんに配慮しているからであって、〝魔人〟のように「公に広く知られてはいけない情報だから」ではないんだろうけれど……
——それにしても……『覚醒三功』のさらに先、魔功術における究極の最終到達段階である、『奥義三神』(お嬢様命名)かぁ。改めて思い返しても、まるで雲を掴むような果てしない話だったなぁ……。
——それぞれの奥義の名称が、三つとも〝ジン〟を含むから、〝三種の神技〟……ゆえに『奥義三神』とは……やっさんもすごく気に入っていたし、さすがはお嬢様、ピッタリな名付けだ。
私も、〝魔人〟に関しては無闇に口外しないようにって言われたし——もちろん、いたずらに言いふらすつもりなんて、まったく無いけれど——秘密を知ってしまったこと自体に、大きな衝撃を受けていた。
——〝魔人〟に、〝堕天〟……まさか、探索者を続けていき、圧倒的な深さに到達するほどになると、そんなリスクも存在するだなんて……
——魔道に堕ちし者、ゆえに魔人……今の私には、まだまだ遠い世界の話のようにしか感じられないけれど……やっさんや御剣姉妹は、すでにそんな領域に到達しているんだ……
改めて理解する……私が今、教えを受けているこの人たちは、みんながみんな、遥かな高みに存在している超越者たちなのであると……。
そんな風に私が内心で密かに戦慄している間にも、馬車はグングンと目的地へと近づいていっており——
もうそろそろ、件のボスが出現する領域に差し掛かってくるぞという頃合いで、やにわに雑談を切り上げて始まったのは、ボス戦へ向けた作戦会議だった。
「えー、というわけで、これから戦うボスの概要についてを、軽く説明しておくよ」
そう言ったやっさんが——お嬢様からお借りしたホワイトボードの前に立って——ペンを走らせながら説明してくれた内容は、まとめるとこんなところだった。
・氷湖のボス
【〝冬貴婦人〟】
まるで、〝冬そのもの〟が服を着て歩いているような女性の姿をしたボス級モンスター。
主な能力は、【氷雪魔法】と【氷魔召喚】。
氷魔法を使う後衛・魔法攻撃役であり、また、配下のモンスターを指揮する大将でもある。
最初から一定数いる配下モンスターについては、倒したらすみやかに魔石を回収すること。——魔石を放置していると、敵に回収され、貴婦人に【氷魔召喚】の能力を使われて即座に復活してしまう。
ちなみに、貴婦人は一から魔石を生み出すこともできるので、わざわざ倒された配下の魔石を回収せずとも、生成した魔石を使っての召喚も可能であり……放置すれば、時間経過で配下はどんどん増えていってしまう。
なので、迅速に配下を減らしつつ、魔石を生成する余裕を与えないように、常に貴婦人に攻撃し続けてプレッシャーをかけていくことが重要。
・配下たち
↓
【凍騎士】
全身甲冑の騎士で、まるで近衛のように貴婦人のすぐそばで警護している。
身につけた装備類すべてに冷気を纏っている。武装は個体により異なり、中には遠距離武器を持つ者もいる。
——冷気武器によるダメージを一定量喰らうと、〝凍傷〟の状態異常が発生するので注意すること。
配下の中では最も強力なモンスターであり、最初から複数体いるが、そのうちの一体だけでも黒套と同格レベルの実力がある。
【雪妖精】
手のひらサイズで、羽の生えた真っ白な妖精。可愛いらしい姿とは裏腹に、小さな体でちょこまかと宙を飛び回りつつ氷魔法を撃ち込んでくるので、地味にかなり厄介。
【氷人型】
全身が硬い氷でできたゴーレム。大きさは全長4〜5メートルほどの巨体。常に貴婦人の前で立ち塞がり、彼女への攻撃を防御する盾役の役割を担う。
【雪原狼】
これまでにもお馴染みの真っ白な狼。ちょこまかと動いて牽制してくる厄介なヤツ。倒されたモンスターの魔石を咥えて素早く貴婦人の元に届けるので、真っ先に仕留めるべし。
【雪達磨】
体当たりなどの単純な攻撃しかしてこないが、わりと体力が多く、何より体が雪なので物理完全無効という地味に厄介なヤツ。さらには、ダメージが一定を超えると自爆して冷気衝撃波を撒き散らすというクソ仕様まであるので、倒し方にも注意すること。
【雪大男】
三メートル近い巨体で、体力が多くタフで、力も強いという純粋に強いヤツ。武器は持たず、攻撃手段は素手による打撃や掴みかかりくらいであり、動きも単純でそこまで速くないので、距離をとって戦うか背後に回り込むなどするとよい。
【雪精霊】
見た目は真っ白な少女。雪妖精と違い空は飛べないが、氷魔法の威力はこちらが上。可憐な見た目に惑わされないこと。
【???】
終盤戦になると乱入してくる新たな敵。何が出てくるかは、本番でのお楽しみ。
・作戦概要
『ソラチームがボスに当たり、残りの三チームは配下を受け持つ』
本来、この冬貴婦人というボス級モンスターは、今のソラチームには手に余る強敵である。
とはいえそれは、取り巻きである配下モンスターもすべて含めて、ソラチームだけで対処するなら……の話である。
なので今回は、ボスとソラチームが一対一で戦えるように、取り巻きの方は他の三チームが加勢する。
ただし——実力を制限しているとはいえ——強力な助っ人である三チームが出しゃばっては、ソラが経験を積めないので……三チームが戦うのは、あくまでも配下モンスターだけであり、ボスの貴婦人はソラチームだけで倒してもらう。
『氷属性は炎属性が弱点』
敵はすべて氷属性であり、炎属性が弱点なので、炎属性を前面に出して戦うとよい。
逆に、氷属性に弱いメンバーは、特に注意すること。
『氷湖という特殊なフィールドに注意』
今回の戦場である氷湖の地面は、地面ではなく凍った氷面であり滑りやすいため、足場の悪さに注意。下手すると攻撃の余波で氷が割れて水の中に落ちるので、特に気をつけること。
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〈探索兵長:姫の口からスラスラと分かりやすい説明が出てきたので、少し驚きました……が、思い返せば、これまでもダンジョンの話をする時は理路整然としていましたよね。いやはや、さすがは姫です〉
〈☆脳空◎:ヨルちゃの描いたモンスターのイラスト、デフォルメで可愛くてすこ♡ ていうか、天使ちゃんがいっしょーけんめいに説明してんの、まじで可愛すぎて脳が溶ける。。。笑〉
〈もっこり助兵衛:ブンブンブンブシャー(首が取れるほど激しく同意の頷き&鼻血)〉
〈ニートの無職ん:いやいや、【???】って……クイズじゃないんだから、どこでバラエティ要素出してきてんだよw 相変わらず、斜め上に張り切ってんなぁ……笑〉
〈やが灰のファンである:なんか、こうして改めて詳しく紹介されると、これまで倒してきた敵もなかなか厄介な連中だったんだなぁ……と、しみじみ。今までの戦闘は、実はかなり上手く対処してたんだなと、今更ながらに感服してます……笑〉
〈やがてファンになる:ボスにはソラちゃんたちだけで挑んで、取り巻きを他のみんなが削ってサポートしてくれる感じってワケっすか。んー、でもそれ、そんなに上手くいくんかな……? そう簡単に分断できるんかね? 普通に混戦になりそうな気も……〉
〈地上の視聴隊:自力で挑まねばならないソラ様にもバフが効いてしまう恐れがあるので、今回はせっかくのボス戦ですが、お嬢様の演奏は無しかと少し残念に思っていたのですが……バフ効果は付けないけど演奏自体はしてくれるとのことで、ワタクシ大歓喜ですわ! ああ、スポコメがあったら、演奏料として今から万額入れているところでしたのに……〉
〈地上の視聴隊:なんやかんや言って、お嬢様が他のチームと共闘するシーンというのも中々無いですし、今回は貴重なムービーになる予感がいたしますわ……!〉
事前の作戦会議も終わり、視聴者たちの期待感も高まってきたところで……
私たちはいよいよ、件のボスを目前に控えた地点にまで、たどり着いていたのだった。




