第1話 ⑥——「これでバッチリ! ヒュドラ攻略法」
※冒頭の長ゼリフは流し読みで問題ねーです……汗
「————というわけで、分かった? ちょっと複雑だったよね。でもまあ、言った通りにやれば大丈夫だから。
じゃあ、最後に軽く、全体をおさらいしようか。
まず、最初に一番大事なのが、『ヒュドラの首の並びが、今回はどのパターンになるのか、〝黒光り〟と〝毒針〟という見た目で判別できる二頭の配置から見極めること』。
それが大前提で、次に、『出現後の硬直時間のうちに、一番厄介な〝結界〟の首を倒しておくこと』。これができたら、かなり楽になると思うよ。
そこまでいけたら、次はいよいよ本番ね。〝結界〟の次は、二番目に厄介な〝マネマネ〟を倒した方がいいんだけれど……それよりもまず、『次にどれが〝回復〟の首に変わるのかを理解して、回復を使われる前に——〝回復〟に変わる時の、わずかな隙を見逃さずに——〝回復〟を倒していくこと』。これに成功したら、一度も回復を使わせずに倒せるからね。
やっぱり重要なのは、どの頭がどの能力なのかの順番を間違えずに見破ることだね。見た目で分かるのは〝黒光り〟と〝毒針〟だけだから、あとはほんと、順番頼りだよ。ランダム性はあるけど、並び順は変わらないからね。数え間違えなければ確実に見破れるよ。
ってことで……どう? 分かった?」
〈ニートの無職ん:ぶっちゃけ、軽く一回聞いただけじゃ分からんというか……いや、説明は理解したが、やっぱりネックはヒュドラの首の並び順を見破る難しさ、とかいうやつだな。綺麗に横並びとかならともかく、アイツってゴチャゴチャと密集して生えてるから、普通に分からんだろこれ〉
〈ツッコミ番長:そう、首だけにネックだよな……スマンなんでもない〉
〈ニートの無職ん:www〉
「ふふっ、まあね〜、結局それが一番難しいんだよねー。なんせ戦いながらだから、かなり厳しいよ。実際ボクも、最初にコイツを倒した時には、そりゃあもう大いに苦戦させられたよ……。そもそもあの時はまだ、この攻略法は見つけてなかったし。いやぁ……あの時これを知っていたら、ボクもあんな——いや、ごめん、なんでもない」
〈ニートの無職ん:お、どうした? なんだよ気になるじゃん、言えよ〉
〈アンチ太郎:まるで昔は今ほど強くなかったみたいな言い方だな〉
「そ、そうだよ……? だからほんとに、ヒュドラは強敵だったんだよ。——あの頃のボクは、結局、ちゃんとした方法でコイツを倒すことが出来なかった……。だからふと、リベンジとして〝ちゃんとした〟戦い方の攻略法を見つけようと思い立って……それで、何回も戦って試してたら、ほんとに見つけちゃったもんだから、いつもとは違うけど、今回こうして攻略配信としてみんなに紹介しようと思ったんだよね」
〈ニートの無職ん:……で? おうあくしろよ、殺すぞ〉
〈アンチ太郎:じゃあどうやって最初は倒したんだ? インチキか?〉
〈アンチ二号:真面目に取り合う気にもならないけど、まあ言ってみなさいよ〉
「……言いたくないなぁ」
〈ニートの無職ん:いいから言え、殺すぞ〉
〈アンチ太郎:いまさら何をためらってんだよ、そんな自制心とか誰も求めてないぞ〉
〈流浪の探索者:ワイも知りたい、もったいぶらんと教えてやー、夜の字〉
「はぁ……分かったよ。えっとね——あの頃のボクは、ヒュドラに何回も挑んでいたけど、全然勝てなくて何度も逃げ帰ってて……ある日挑んだ時にも、どれが回復になるのか分からなくて、首を切っても切っても回復されるから、いい加減に頭にきてね……なんでそんなことしたのか、今となっては自分でも分からないんだけれど……ヒュドラに回復される前に、自分から回復してやったんだよね」
〈ニートの無職ん:え、何それ、自分で斬り落としておいて、自分で回復してやったってこと?〉
「そうそう。ボクが斬り落として、んで、ヒュドラが回復する前にボクが回復してやったんだ。……そしたら、どうなったと思う?」
〈ニートの無職ん:ヒュドラ「……え、え、今……え??(困惑)」〉
「そうそう、まさにそんな感じ」
〈ニートの無職ん:は?〉
「いや、ほんとにそんな感じで……ボクが回復したら回復役のヒュドラが『なんで?』って感じにボクの方を見てきてさ……。というか、回復役だけじゃなくて、全部の頭がそんな感じの顔して見てくるんだよ、ボクのことを」
〈ニートの無職ん:ワロタw〉
〈ツッコミ番長:いやヒュドラの顔ってなんなん?w え、分かんの? そんなん?w〉
「なぜか分かっちゃったよね……。で、そんな顔されるのもなんかムカついたから、『そんな顔でわ——ボクを見るなよ!』って言って、回復役のヒュドラをぶった斬ったんだ。そしたらヒュドラも動き出して、またどれか別の頭が回復役になったんだろうけど、どれか分かんないし、とりあえずまたボクが先に回復してやったら、また『なんで?』って顔して見てくるの」
〈ニートの無職ん:正当な疑問をぶつけられただけでブチ切れるくらいに、はなからヒュドラにイラついてるの草〉
〈ツッコミ番長:まさかヒュドラに同情する日が来るとは……思わなかったなw〉
「あとはもう、その繰り返しさ……ボクが斬って、ボクが回復して……ヒュドラは、『なんで?』、ズバッ、『なんで?』、ズバッ——……で、終わり」
〈ニートの無職ん:なんか謎のハメ技開発してて草〉
〈アンチ太郎:もはやゲームじゃないという言い訳をする気もなくなったらしいな〉
「はぁ……はいはい、どうせ信じてくれるとは思ってないよ」
私は諦めのため息と共に、そう独りごちる。
今となってはもはや、そのあたりに関しては私もどうでも良くなっているので、配信を始めた最初の頃みたいに躍起になって反論したりもしない。
やれ——知らないゲームの実況動画だの、AI生成のCG映像だの、詐欺だの偽造だのと、当時はさんざん言われたものだ。
それでも配信を続けた結果……このチャンネルに最後まで残ったのは、その辺を気にせずに——というか、むしろ盛大にネタにして——私とダベることに楽しみを覚える変人ばかりになった。
ただ、私としても……魅せプレイ配信とかいうコンセプトについては、ただ自分の自己満足でやっているだけだから、誰に何を言われても、本当のところはどうでも良かったりする。それについては強がりではなく、本心からそう思ってる。
なぜなら、そんなことよりも……結果的には——現実では陰キャで、コミュ障で、軽い(ここ重要)中二病という三拍子そろった日陰者な自分が、〝夜叉姫〟というキャラと〝ボク〟という一人称になることで、そんな引っ込み思案な本当の自分を忘れて、もう一人の自分になって、みんなとワイワイ下らないおしゃべり出来るようになる、この配信の時間を心から楽しんでいるという事実こそが何よりも大事なのだから。
だから別に……
「さて、と……それじゃそろそろ、今日の配信も終わりにしようかな」
そう言って、配信の締めに入ろうとしたところで……
〈名無しの視聴者:これで終わりか。最後まで見たらなんか説明あるのかと思ったけど、結局なにもないのね〉
〈名無しの視聴者:映像自体は悪くないし、メインキャストのキャラも立ってるけど、これってダンジョン配信ってなってるよね? それっておかしくない?〉
〈名無しの視聴者:余計なお世話かもしれないけど、ダンジョン配信は映像加工とか情報詐称とか御法度なんで、見つかったらBANされるかもね。というかされるよね?〉
〈名無しの視聴者:ま、狭いコミュニティで仲良くやってるようなので、通報はしないでおきますが。でもあんまり、嘘は言わない方がいいですよ。それじゃ〉
というコメントを残して新規リスナーが——おそらくは、二度と再び観に来ることはないであろう感じに——去っていったとしても、特にショックは受けなかった。
——まあ、いつものことだし。
いや、それどころか……
「……なんか今回の人、すごい礼儀正しかったね。こっちの心配までしてくれたし……え、すごくいい人だったんじゃない?」
〈ニートの無職ん:いい人は上から目線の説教なんてしない定期〉
「いやいや、あれを説教だというなら、普段のお前らのコメントはなんなんだよ? 罵詈雑言?」
〈アンチ太郎:まともな人間がこんな配信を最後まで観るわけないだろ〉
「アン太くぅん……あまりにも強力なブーメラン過ぎて、首が飛んでないか心配になるよ」
〈アンチ二号:いい人だからこそ、なんじゃないの?〉
「……そういう言い方が一番人を傷つけるって、ボクに分からせて楽しいかい……?」
〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:夜ちゃん元気出して! いつものことでしょ! ほら、ラブちゃんが慰めてあげるから! いつでもおいで!〉
「ありがとう、ラブちゃん……うん、慰めてもらうね……」
〈探索兵長:落ち込むことはありませんよ、姫。我々はいつでも姫の味方です〉
「うん、兵長もありがとう……」
〈MS管理人R:誰が何と言おうと、自動検閲の加工判定ツールを騙し続けられる謎の技術がある時点で、姫の判定勝ちだぜ〉
「審判さーん、コイツ退場させてー。選手に暴言吐いたよ」
〈♡←(〃ω〃):よるピはわたピだけのよるピでいればいいんだよ♡だからよるピは人気者になんかなっちゃダメ♡一生クソザコ底辺配信者でいろ♡〉
「わたピってさぁ……語尾に♡つけてたら何言ってもいいって思ってるよね? あのー、審判さーん、これ、コイツも退場させるべきじゃないですかー? たぶん反則行為してまーす」
〈暇人預言者X:ふっ、大丈夫さ、心配するな、夜叉姫……君はすぐにでも、そんな悩みとは無縁の存在になるのだからな〉
〈ねっこ寝子:寝子はやっしゃんをずっと応援してるからね〉
〈キチガイバーサーカー:僕゛を゛ブ゛ロ゛ッ゛ク゛し゛な゛い゛配゛信゛者゛は゛お゛前゛く゛ら゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛!゛!゛〉
〈ツッコミ番長:キチ◯イがちゃんとその辺意識してたの草〉
〈†漆黒の堕天使†:今宵はいつもより興が乗っていたな……このオレも楽しませてもらったぞ、†深淵†の〉
〈もっこり助兵衛:そうそう、細かい衣装チェンジとか、派手な新必殺技とかもすごく良かった! おねーさんとしては断然、次もこんな配信してほしーかもだなー〉
〈流浪の探索者:ワイも今日の配信良かったと思うで。まあワイは、これからも今まで通りの配信でも構わんけどね。アレはいい目の訓練になるんや〉
〈浮世の社畜ん:オレも今日みたいな配信またしてほしいな。普段のもいいけど、今日はもっと楽しかったというか、盛り上がった気がするし〉
〈試練の代行者:( ´ ▽ ` )ノ〉
〈試練の監視人(部下A):今宵もお疲れ様でした、夜叉姫どの〉
「おうおうおう……みんな色々とありがとうね。えっと、そだね……これからの方針とかについては、また改めて、次の配信の時にでも雑談しようと思うから、その時はよろしくってことで。今回は攻略動画だから、とりあえずここで終わるよ。
それじゃあ……〝観測者〟のみんな、今日も観てくれてありがとね。ではでは……ごきげんよう。それでは諸君、また次の配信で会おう……バイバイ」
そう言って私は——普段より盛り上がったことに、内心で密かに満足しながら——その日の配信を終えたのだった。
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〈暇人預言者X:ふふふ……ああ、楽しみだな、実に楽しみだ。——ついに、時が来た……ああ、世界よ、震撼せよ。我らが夜叉姫様がついに、表舞台にその姿を見せつける時がきた……っ!〉
〈暇人預言者X:——さあ、凱旋の始まりだ……——ッ!〉
——最後に来ていたそんなコメントには、特に気がつくこともなく。




