第5話 【再戦!】パイオニーアvsヒュドラ【リベンジ】
もう何度も……それこそ、夢に出るまで見た、忌々しいボス部屋へ繋がる大扉の前にて。
名前の通りに、ダンジョン探索配信の世界最先端を進んでいると自負している——いや、〝いた〟というべきかもしれない——オレたちのチーム、『聖戦の先駆者』は今、再びこの扉の先のファッキンなボスに挑もうとしていた。
「いよいよだな……アレックス。お前の〝予感〟はどうだ? 俺たちは今回でヤツを突破できそうか?」
「それは……例の〝攻略法〟次第だな。あれが本当なら、きっと突破できる」
「ちょっとちょっと、今回はその〝攻略法〟とやらが本当なのかを確かめるための一戦でしょう? それともまさか、そのまま突破してしまうつもりなの?」
「もちろん……出来るなら、そのつもりさ」
「いいねぇ、そうこなくっちゃ。なんせこちとら、あのクソ蛇野郎のクソ多すぎるツラを拝むのも、いい加減クソ飽き飽きしてんだからよ! もうこれで終わりにしようぜ!」
「む、無茶はダメですよ! 安全重視でお願いしますね!」
「それは当然の心得でござるよ。とはいえ挑む以上は、常に勝つつもりでやるべきであると拙者も思うでござるが」
「そうだな。さて……今回は〝攻略法〟のことがあるから、普段とちょっと勝手が違う。くどいようだが、改めて確認しておこう」
そういってオレは、リーダーとしてチームメンバーと最後の確認をしつつも、自分でも事の経緯を振り返ってみる。
きっかけは、オレたちパイオニーアが深層ボスの動画を世界で初めて公開したことだった。
当然のように、その動画は世界中に大きな反響を呼んだ。
本来、探索者は——それも、未知の領域である最前線を攻略しているトップレベルの探索者は、自分の攻略情報を秘匿する。
パイオニーアは前から配信活動もやってるし、最前線組としては異例なくらいにオープンな方のチームだが、それでも——国や探索者協会の意向もあり——肝心の深層の情報は、これまではちゃんと秘匿していた。
しかし、深層で初めて挑むことになったエリアボスである多頭大蛇——いや、彼女が言うところの——〝ヒュドラ〟の強さと厄介さはまさに別格であり、オレたちは何度も挑んでは、その度に返り討ちにあって無様に敗走していた。
正直、このまま挑み続けても、いずれは勝てるというヴィジョンがまったく浮かばなかった。
だからこそ、今回は暗黙の慣習なんぞクソ食らえとばかりに、思い切ってヒュドラと戦う映像を公開したのだ。
その理由は、ひとえに外からの新しい風を呼び込むためだった。
もはや、ヒュドラを倒すために必要なのは——新たな力でも、自力で攻略するという意地でも、行き過ぎた秘密主義でもなく……そのための方法を見つけることなのだと分かっていたから。
パイオニーアにはすでに、ヒュドラを倒すための力は足りている。
足りないのは、ただ一つ……情報だ。
そうはいっても、まさかオレたちが動画を公開した直後に、まさに必要な情報が速攻で(なんなら、オレたちよりも早く)公開されることになるとは思ってもみなかったが。
チームの後援である広報担当が——ウチの公式フォームに送られてきていたという——その動画を観せてきた時には、これ以上ないほど驚くことになった。
一目で分かった。この映像は偽物ではなく本物だと。
パイオニーアのリーダーとして、ヒュドラと実際に何度も直接対決をしてきた、この〝慧眼〟のアレックスの目は誤魔化されない。
あれは間違いなくヒュドラであり、それと戦うあの少女は、尋常ではない強者である……と。
問題は、その動画で紹介されていた〝攻略法〟までもが本当なのかどうかだった。
これが本当ならば、戦略を立てることが出来る。そうすれば、オレたちなら勝てる。
ヒュドラの一番厄介なところは、九つの頭が同時に九つもの能力を使ってくること——ではない。
もちろん、それだけでも十分以上に厄介だったが……しかしそれだけなら、回数を積めばいずれは慣れるし、いつかは活路を見出せる。
だから、本当に問題なのは……どの頭がどの能力なのか、そして、どの頭を倒せば、どの頭が〝回復〟に変わるのか——その予測がつかないことだった。
予測がつかない限り、対策も戦略も立てようがない。
自分よりも圧倒的に強大な怪物に打ち勝つためには、絶対にそれが必要なんだ。
ずっと、何かしらの法則があるような気がしていた。
しかしずっと、それを解き明かすことが出来なかった。
もはや自力で見つけ出すのは不可能だと思い、外に助けを求めたら……途端に〝答え〟が向こうからやってきた。
あまりにも出来すぎている。
何かの詐欺にでも引っかかっているのかと、自分を疑いたくもなった。
しかしオレの直感は、ただただそれが真実だと告げていた。
ならば後は、自分で確かめてやるだけだ。
真っ先にそれを成すのは、他でもない——この『先駆者』だ。
すぐにあの動画は——そして、それを公開した配信者は——オレたちなんぞ比じゃないレベルの注目を集めることになる。
ならばせめて、その始まりの号砲を上げるのは、オレたちがやってやろうじゃねぇか。
すでに先駆者の名折れになってしまっているのだとしても、それがせめてもの意地ってやつなのさ。
「————よし、確認は終わりだ。やるとしよう。開幕の合図は……いつも通りにレイチェル、お前に任せるぞ」
「……ええ、派手に一発、盛大なのをブチかましてあげるわ」
「よぉし、行くぞぉ! 今日という今日こそやってやろうぜ!」
「ニン! 推して参る!」
「やりましょう!」
「おうっ!」
そうと決まるや、前衛アタッカーのオレと盾役のケビンが大扉の両端につき、突入前に精神を集中させていく。
『“定点転移”』
後衛サポーターのマイケルが、自分の天恵である『探索者』の能力を使い——ひとたび中に入れば、通常手段では退却できないボスエリアから敗走する場合に備えて——撤退の際に使う転移能力を、あらかじめ準備しておく。
『“魔法陣”』
後衛の魔法役であるレイチェルが、最大威力で遠距離魔法をぶっ放すために、自前の固有能力を使い、空中に魔法陣を幾重にも展開していく。
「アレックスさん」
「ああ」
「はい、ケビン」
「イェア」
『“同調接続”』
後衛で回復役のニコラが、ある意味このチームの要となる能力を使い、メンバー全員に一人一人触れて能力を行使することで、チームの〝繋がり〟を飛躍的に高めていく……。
「最後に、サトー」
「かたじけのうござる」
これにより、中衛でなんでもこなす器用万能なサトーの『NINJA』のギフトによる【忍術】や【忍体術】を、オレも大いに活用させてもらえるようになった。
「準備は……出来たな?」
「ええ、バッチリよ」
「ああ、待たせたな」
「よし、では——っと、そうだな……今回はマイケル、お前が指揮を取るんだから、突入の号令もお前にするか」
「ん、そうか、分かった。それじゃあ、いくぞ……3カウントだ。……3、2、1——突入ッ!!」
バンッ——!
マイケルの号令に合わせて、オレとケビンが大扉を一気に押し開き、間髪入れずに闘技場の広間に突入していく。
するとすぐに——鋭く見据える視界の先、広間を挟んだ向かい側に、ヒュドラの巨体がデカデカと現れる。
同時に——例の〝攻略法〟を元に、事前に組んでおいたプログラムによって——ヒュドラの九つの頭が照会されると共に、順番に振られていく1から9までの通し番号に合わせて、それぞれの持つ能力を表す簡易的な記号が、〝照面鏡〟によってヒュドラに重なるように空中に拡張表示されていく。
「レイチェル、七番だッ!」
「分かってるっ!」
『“雷光の穿孔杭”』
そして、レイチェルの雷属性の攻撃魔術が——彼女の前方に多重展開している〝魔法陣〟を通り抜けるたびに、威力や速度を大幅に強化されながら——空中を一条の閃光となって駆け抜けると、狙い過たずに目標の〝結界〟に命中し、その頭部を吹き飛ばした。
そうして戦闘は始まった。




