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第76話 囚人解放――西門奔流と最深の牢

◆城内・地下牢入口◆


牢獄塔の両開きの石扉が、

半ば開いていた。


地下へ続く階段。


その底から、

怒号が響いてくる。


足音。


鎖の音。


鉄格子が、

次々と開く音。


ガチャリ。

ガチャリ。


「出ろ!!」


黒帝兵の怒鳴り声。


「金と自由が欲しけりゃ、

 武器を持ってこい!!」


「戦場は西門だ!」


階段の闇から、

影が溢れてくる。


囚人。


ぼろ布。


粗末な武器。


山賊。


奴隷。


盗賊。


囚人たちは、

傷だらけの顔と身体をさらしていた。


半裸。


泥と血で汚れた肌。


腰には、

奴隷のようなボロボロのズボン。


裸足の者もいる。


鎖の痕が、

手首に黒く残っていた。


百を超える荒くれ者たちが、

地下から地上へ駆け上がってくる。


怒号。


笑い声。


「外だ!!」


「殺し放題だ!!」


「自由だァ!!」


狂ったような歓声。


その奔流が、

西門の戦場へ流れ出す。


その入口の影。


崩れた石壁の裏。


そこに――

ロザリーナはいた。


黒帝兵のマント。


蒼の鎧は、

闇に溶けている。


青銀の瞳だけが、

静かに動く。


囚人の群れが、

すぐ目の前を通り過ぎていく。


一人。


また一人。


血の匂い。


酒の匂い。


獣のような目。


ロザリーナは、

動かない。


腹の赤を手で押さえ、

呼吸すら、

消している。


やがて。


最後の囚人が

階段を駆け上がった。


その後ろから、

黒帝兵七人が階段を上って来る。


レッドバルムの命で、

呼びに来た兵が言う。


「第二牢区の連中は全部出したな」


「はっ!」


後ろを歩きながら、

鍵束を腰に下げた男が頷く。


この地下牢は、

三つの区画に分けられている。


第一牢区。

元王国軍の兵士や、

抵抗勢力の捕虜。


第二牢区。

山賊、奴隷、盗賊などの犯罪人。


そして――

最深部の第三牢区。


危険すぎる囚人だけが、

個別に拘束される場所だ。


「あの荒くれ共は

 金と自由で動くからな」


鼻で笑う。


「山賊だの奴隷だの、

 元から(ろく)でもねぇ連中だ」


もう一人が肩をすくめる。


「第一牢区の連中は?」


「拒否しました」


「ほう」


短く笑う。


「元王国兵どもか」


「あいつらは

 まだ戦士気取りですよ」


「鞭打っても

 闘技大会以外の戦いは拒みやがる」


「王国兵の誇りってやつか」


「フン、笑えるな」


兵が鼻を鳴らした。


「第三牢区は――」


その言葉を、

途中で切る。


監守兵が、

首を振った。


「あそこは触るな」


「……あの怪物か」


一瞬の沈黙。


もう一人が言う。


「あの男」


低い声。


「鎖がある限り出て来ない」


「それに――」


小さく吐き捨てる。


「レッドバルム様も

 あいつは出すなと言っている」


兵が振り返る。


階段の上。


戦場の音が、

近づいている。


剣の音。


叫び。


「監守を二人残して、

 あとはおまえらもついて来い」


その言葉に、

監守兵たちも、慌てて外へ駆け出した。


地下牢は、

急に静かになった。


石段を降りて行く、

残された監守二人の影。


壁の松明の灯に、細く長く揺れている。


ロザリーナが、

ゆっくりと姿を現す。


足音はない。


暗い穴を覗き込む。


地下から吹く風に、

フードの中の栗色の髪が揺れた。


薄暗い階段。


その先に。


第一牢区から、

最深の第三牢区。


ロザリーナが、

小さく息を吐いた。


「……ここだな」


その視線は、

闇の底の最深部へ向いていた。


――◇――


◆西側・城門前広場◆


「半獣を殺せ!!」


レッドバルムの声が、

城門前に響いた。


黒帝兵が一斉に動く。


ドドドドッ!!


槍と剣の波が、

門洞へ雪崩れ込む。


ニコルたち三人は、

押し込まれた。


石壁に挟まれた、

狭い通路。


内扉へ続く門洞。


その向こうは、外へ出る橋。


黒帝兵が、

正面から押し寄せる。


「閂をされたら終わりだ!」


ニコルが叫ぶ。


「ここを死守しろ!!」


僅かに開いた内扉を背に。


刃がぶつかる。


火花。


ガンッ!!


ザンッ!!


血が飛ぶ。


遊撃隊のアランが、

一歩前へ出た。


その瞬間。


ヒュッ。


槍。


ズブッ。


穂先が、

アランの脚を貫いた。


「がっ……!」


膝が折れる。


その兵へ、

ニコルの剣が水平に走る。


シュバッ!!


首が裂ける。


鮮血が、

門洞の石壁に散った。


「アラン!!」


ニコルが叫ぶ。


敵の刃を払いながら、

えり首の鎧を掴む。


引きずる。


倒れたアランを、

背後へ引き込む。


内扉との間。


血が、

石床へ落ちる。


「隊長、すみません」


ぽたり。


ぽたり。


もう戦えるのは、

二人。


だが――


黒帝兵は、

四十以上。


押し寄せる。


その時だった。


レッドバルムが、

城門の横を指さした。


「いまだ!」


怒号。


「橋を上げろ!!」


兵四人が走る。


門洞の左右。


巨大な鎖の巻き上げ機。


兵たちは

下がり続けていた鎖を止めると、

逆に回し始めた。


ギギギギギ……!


鎖が巻き上がる。


跳ね橋が、

ゆっくりと持ち上がる。


外濠の上。


橋が――


地面から離れ始めた。


「……まずいねぇ」


ニコルが呟く。


「橋が上がったら、

 ソルディオたちは入れない」


黒帝兵が、

さらに押す。


槍。


剣。


鉄の壁。


「隊長、これ以上は……!」


震える部下の声。


ニコルが、

ふっと笑った。


「俺さ」


一拍。


「諦めが、悪いんだよねぇ」


一歩、前へ出る。


無数の槍が、

一斉に突き出された。


ニコルの身体が、

横へ滑る。


ヒュッ。


穂先が、

頬をかすめる。


剣で受けない。


身体を逸らす。


紙一重。


だが――


剣は止まらない。


ザシュッ!!


刃が走る。


黒帝兵の胴が裂け、

血がまた飛んだ。


そのとき。


ヒュン。


矢が飛んだ。


レッドバルムへ。


カンッ!!


わずかに逸れる。


肩甲冑に当たり、

弾かれた。


「惜しい!」


ポコランの声。


レッドバルムの目が、

ゆっくり上がる。


城壁の上。


そこに――


弓を構えた、

アズたち。


「上か」


レッドバルムが呟く。


その時。


背後から、声が響いた。


「アズ!!」


アズが振り向く。


城壁の外。


そこには

ソルディオたち四十。


だが――


橋は、

すでに持ち上がっていた。


地面から離れ、

膝ほどの高さ。


さらに、

鎖は巻き上がり続けている。


ソルディオが叫ぶ。


「これ以上、

 橋を上げさせるな!!」


次の瞬間。


ソルディオが

剣を握り、地を蹴った。


重層甲冑。


それでも――


ドンッ!!


跳ね橋へ

飛び乗る。


続いて兵たちも

次々と跳び上がる。


ドンッ!!


――ドンッ!!


橋の上へ、

次々と着地する。


アズが振り返る。


城内側。


巻き上げ機。


黒帝兵が

鎖を回している。


「あれを潰して!!」


アズの声に、


ポコランが

慌てて弓を引く。


にょろーん!


迷子の矢は、

大きく山なりに飛び――


全然違う場所へ落ちた。


「……なんで?」


クレセントが

顔をしかめる。


ポコランは

目をしょぼつかせた。


遊撃兵たちが

弓を構える。


ヒュン。


ヒュン。


矢が飛ぶ。


一人。


喉を貫く。


アズが

小さな身体を胸壁から乗り出す。


弦が鳴る。


ヒュン。


矢が走る。


もう一人。


胸を射抜く。


巻き上げ機の兵が倒れた。


鎖が、

止まった。


橋の上。


ソルディオが

一直線に駆ける。


門洞へ。


「遊撃隊長!!」


ソルディオの声。


ニコルが振り向く。


血の中で、

笑った。


「やっと来たねぇ~」


次の瞬間。


ソルディオたちが

内扉を押し開き、門洞へ突入する。


ドンッ!!


黒帝兵を

力任せに押し返す。


剣。


盾。


鉄と鉄がぶつかる。


ソルディオ隊が

楔のように広がる。


ニコルたち三人を囲むように、

防衛線が築かれた。


その隙に。


負傷したアランを、

後方へ引きずる。


「――援軍か?」


黒帝兵が

一歩下がる。


だが。


その時だった。


城内――


遠くから、

地鳴りのような足音。


ドドドドドドドドドド。


広場の奥。


黒い影の群れ。


囚人。


半裸。


傷だらけの身体。


百を超える荒くれ者たちが、

西門へ向かって押し寄せてくる。


レッドバルムが、

薄く笑った。


「やっと来たか」


囚人たちが獣臭の中で、

狂ったように叫ぶ。


「オリャァァァァ!!」


その中で、

ひときわ巨体の男が前へ出た。


囚人たちのボス格。


血走った目で、

レッドバルムを睨む。


「嘘じゃねぇよな!」


レッドバルムが、

ゆっくり顔を向ける。


「ああ」


一拍。


「あいつらを倒した奴には、

 好きなだけ金をくれてやる」


囚人が歯を剥く。


「将軍も承知してんだろうな」


レッドバルムは、

わざと声を張った。


他の囚人たちにも

聞こえるように。


「心配するな」


「グラ将軍も承知済みだ」


――嘘だった。


グラ=シャルンは、

すでに死んでいる。


だが、

地下牢の囚人たちは――


まだそれを知らない。


巨漢の囚人が

牙のような歯を見せて笑う。


「聞いたなァ!!」


腕を振り上げる。


「殺せぇぇぇ!!」


囚人たちが

一斉に吠えた。


「おおー!!」


「金だァ!!」


「自由だァ!!」


暴徒の群れが、

西門へ雪崩れ込む。


レッドバルムが、

冷静に怒鳴る。


「黒帝兵は一旦退け!」


「まずは、こいつらにやらせろ!」


黒帝兵が

後ろへ下がる。


鎧の壁が割れる。


その隙間から――


入れ替わるように、

囚人たちが前へ出た。


鎧はない。


盾もない。


半裸。


傷だらけの身体。


鎖の痕。


手には、

錆びついた斧や剣。


だが。


こいつらは。


ただの罪人ではない。


腕が太い。


剥き出しの肩には、

縄のような筋肉が浮いている。


正規兵にはない

殺気だった赤黒い目が光り。


闘技大会で

生き残ってきた――


紛れもなく、

殺しの猛者たちだった。


囚人たちが

歯を剥く。


「ぶっ殺せぇぇぇ!!」


暴徒の群れが

武器を振り上げた。


ソルディオたちの背後。


内扉の前。


ニコルが

小さく息を吐いた。


「……うわぁ」


金色の瞳が細くなる。


「今日は、最悪だねぇ~」


肩をすくめた。



北門では、

ガルデンたちが城内へ突破しようとしている。


西門では、

ニコルたちへ

城の邪悪が、すべてぶち込まれた。


黒帝兵四十人。


そして――

囚人百人超。


だが。


その戦場の奥。


地下の闇。


ロザリーナは、

さらに深く降りていく。


最深の牢へ。


――何のために。


城はまだ、

白旗を上げる気配がない。

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