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第74話 歓声の闘技王――静寂の路地裏の剣

◆元王都エルデンハート領・黒帝闘技場◆


半年前――


黒帝闘技場。


剣が、


突き刺さった。


ズブリ。


胸。


鎧の隙間。


最後の一人の戦士が、


目を見開く。


喉が震える。


だが、


声は出ない。


口から、


血が溢れた。


その戦士よりも、


頭一つ分大きな、


鍛え抜かれた身体。


白鋼の重鎧。


泥と血に汚れ、


無数の刃傷が刻まれている。


鎧の隙間から、


荒い息が漏れる。


蒸気のように、


白く。


右手には長剣。


そして――


左目。


眉から頬へ、


斜めに走る深い傷。


剣で斬られ、


潰れた眼。


独眼。


西部方面城――

ブラストリア城の囚人。


観客が、


叫ぶ。


「独眼王だァ!!」


「白鋼!!」


「牢獄王!!」


その呼び名。


――《白鋼の牢獄独眼王》。


独眼王の剣が、


深く、


心臓を貫いていた。


だが――


男は、


静かだった。


やがて。


最後の戦士の身体が、


剣から崩れ落ちる。


ドサッ。


砂が沈む。


次の瞬間。


男は剣を引き抜いた。


ザシュッ。


血が弧を描く。


そして――


天へ。


剣を、


突き上げた。


その瞬間。


黒帝闘技場が、


爆発した。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


三万人の観衆が、


総立ちになる。


怒号。


歓声。


金貨。


酒杯。


すべてが、


闘技場へ降り注ぐ。


「王者ァァァァ!!」


「また勝ちやがった!!」


「化け物だ!!」


「白鋼の王だ!!」


「二年連続だァァァ!!」


観客席が揺れる。


石の円形闘技場が、


割れんばかりの歓声に包まれていた。


ここは――


《黒帝闘技場》。


かつて王国の都が存在した地。


王都エルデンハート。


その中心にあった神殿と広場を破壊し、


黒帝軍が築いた


巨大な円形コロシアムである。


三層の観客席。


およそ三万人を収容する巨大施設。


上層には、


黒帝軍幹部や貴族、


そして黒帝八将のための観覧席が設けられている。


ここでは、


賭けが行われる。


金貨。


宝石。


奴隷。


時には、


城一つ分の財産すら動く。


だが――


この場所の本当の価値は、


娯楽ではない。


支配だ。


帝王ザイラスは、


この闘技場を使って、


世界に教えている。


「弱者は死ぬ」


「それが、この世界の理だ」


と。


中央の砂地で戦うのは、


囚人。


奴隷。


捕虜。


反逆者。


あらゆる敗者たちだ。


囚人たちは、普段――


各方面城の牢獄で管理されている。


北方城。


東方城。


南方城。


そして、


西部方面城――


ブラストリア城。


大会が近づくと、


各城から選ばれた囚人戦士が


エルデンハートへ護送される。


百名規模の囚人たち。


罪人。


山賊。


捕虜。


かつての王国兵。


彼らは


黒帝闘技場の地下牢へ押し込められ、


試合の日を待つ。


そして、


闘技場に引き出される。


個人戦。


一対多数。


人対魔獣。


大規模な殺し合い。


勝者は称賛され、


敗者は死ぬ。


だが――


勝者もまた、


長くは生きられない。


ここでは、


生き残ることそのものが、


奇跡なのだから。


そして――


年に六度行われる大会の中で、


ただ一度だけ、


特別な試合が行われる。


王者戦。


四つの方面城から、


最強の囚人戦士が一人ずつ選ばれる。


北。


東。


南。


西。


四名による、


バトルロワイヤル。


誰と組もうが自由。


同盟も、


裏切りも、


咎められない。


だが当然――


最も強い者が、


最初に狙われる。


四人のうち、


最後まで立っていた者だけが、


勝者となる。


勝者に与えられる称号は、


ただ一つ。


「黒帝闘王」


この試合の日だけは、


闘技場の空気も変わる。


時には――


ザイラス本人が


姿を現すことすらある。


その瞬間、


闘技場にいるすべての者が、


地に跪くという。


その王者戦に――


突如として現れ、


二年連続で制した男がいた。


観客席が、


叫ぶ。


「白鋼!!」


「王者ァァ!!」


「独眼王だ!!」


歓声の中心。


砂地の中央。


白い鎧。


片目。


血まみれの巨躯。


剣を掲げるその姿は、


まるで――


闘技場の王だった。


――◇――


◆居住区・廃墟◆


薄暗い路地。


石の壁。


月明かり。


風に揺れる張り紙。


ロザリーナは、


その紙から視線を外した。


そのとき。


青銀の瞳が、


わずかに揺れる。


――気配。



黒帝兵のマントが、


細い路地の闇へ曲がるのを、


三人の黒帝兵が見ていた。


三人は、


顔を見合わせる。


短い目配せ。


声は出さない。


そして。


三人そろって、


曲がり角へ向かう。


先頭の男が、


壁に背を寄せる。


ゆっくりと、


角の先を窺う。


――細い路地。


左右は石壁。


そして、その先は――


行き止まり。


奥は、


崩れた石壁で塞がれていた。


互いに顔を見る。


(……いない)


口の動きだけで、


一人が呟く。


三人の視線が、


路地の奥を探る。


隠れる場所は、


どこにもない。


兵の一人が、


指で合図を送る。


二本。


そして、


奥へ倒す。


二人が頷く。


剣に手を掛けたまま、


気づかれぬよう、


ゆっくりと進む。


足音を消す。


息も浅く。


背を壁へ。


そして。


残る一人が、


路地の入口に立つ。


見張り役。


異変があれば、


すぐに叫び、


増援を呼ぶ。


それが、


黒帝軍のやり方だった。



路地の奥。


二人の兵が、


立ち止まる。


壁。


石。


影。


何もない。


一人が眉を寄せる。


「……いねぇな」


もう一人が、


小さく肩をすくめる。


「どこ行きやが――」


その時。


後ろで。


ドサッ。


鈍い音。


二人の兵が、

同時に振り向く。


入口の見張り。


その身体が、

ゆっくりと崩れていた。


喉から、

血が溢れる。


兵の一人が、

眉をひそめる。


「……誰が――」


その言葉は、

最後まで続かなかった。


崩れゆく男の背後に、

影が立っていた。


黒帝兵のマント。


その下。


蒼の鎧。


青銀の瞳。


ロザリーナ。


兵の一人が、


息を吸う。


「な――」


声は、


途中で止まった。


ロザリーナが、


先に動いていた。


速い。


距離が消える。


細い路地。


逃げ場はない。


ザシュッ。


一振り。


二つの喉が裂けた。


血が、


石壁へ飛ぶ。


兵の身体が、


壁へぶつかる。


鈍い音。


ロザリーナは、


剣先の血を払う。


静かに、


鞘へ納めた。


瞬きする間に、


全てが終わっていた。


静寂。


路地に、


三つの死体。


だが。


壁に手をつき、


荒い吐息を一つだけ零す。


それでも。


歩みは止まらない。


ロザリーナは、


マントを深く被り直す。


そして。


再び、


闇の路地へ歩き出した。

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