SCENE081 よそのダンジョンからの来訪者
第二回のダンジョン体験を前に、僕のところに衣織お姉さんが大きな荷物を持ってやって来た。
荷物の中から出てきたのは、岩のゴーレムだった。しかも、宝石をつけると動き出していた。
「ラティナ・ロックウェルです」
動き出したゴーレムは、とても可憐な動きで僕たちに挨拶をしていた。ごつごつとした岩のゴーレムとは思えないくらい、それはとても繊細な動きだった。
「あ、僕はウィンクです。よろしくお願いします」
あまりにもきれいな動きに、僕はつい見とれてしまっていた。
このラティナと名乗ったゴーレムは、バトラーとも知り合いだったみたいだ。ということは、セイレーンさんとも面識はあるのかな。
そんなことを思っている間も、次々と話が進んでいっていた。
「このラティナってモンスターは、北関東にある廃鉱山ダンジョンの中にいたんだ。そこのダンジョンマスターの娘さんらしい」
「ほう、ロックウェル伯爵がそんなに近くに。お会いしたいですが、ダンジョンマスターであれば、ダンジョンから離れられません。これは残念ですな」
衣織お姉さんの説明を聞いて、バトラーはなんだかとても懐かしそうに語っている。相当面識があるみたいだ。
「お父様がダンジョンマスターに選ばれてから十年ほど経ったことでしょうか。私はいつものように屋敷の中でお父様の代わりに、お母様や他の兄弟たちと執務にあたっていました」
「ふむふむ」
「そして、お父様の書斎に入った時のこと、突然、召喚魔法の陣が開いて、私も飛ばされてしまったのです」
ラティナさんが話すには、事故で召喚に巻き込まれてこっちへとやって来たようだった。
「お父様のいる部屋に飛ばされてきたのはいいのですが、話をするにも声がかけづらくて……。それで、ダンジョンのボス部屋の中でこっそりと隠れていたんです」
久しぶりに会った父親の雰囲気に、どうしていいのか戸惑ったってところなのかな。なんとなく、それは分かる気がするな。
僕だって、ダンジョンマスターになって雰囲気が変わってしまったから、家族と会うのはちょっと怖かったし。
「なるほどな。それで、目立たないように、ダンジョンの壁を食事にして穴を開け、そこに隠れていたのか。そのせいで、危うくダンジョンブレイクを起こしかけてたがな」
「あう……。それは本当に申し訳ございませんでした。ただ、あそこの岩がおいしくて、つい……食べ過ぎちゃいまして」
ラティナさんは、そう言いながら恥ずかしそうに笑っていた。
ゴーレムとはいっても、女の子は女の子なんだなぁ。なんだろう、ものすごく可愛く感じるよ、この子。
さっきまではちょっと恥ずかしかったけれど、親近感が湧いちゃうと一気になんとも思わなくなっちゃった。不思議だね。
「それにしても、よくこんな方法を思いつきましたな。ラティナ様も」
「いや、私もこんなにうまくいくとは思ってなかった。だから、廃鉱山ダンジョンで一度実験をしてから、こうやってやってくることができたんだ」
「どのようなことが行われていたのかは、私には分かりません。この宝石が外れている間、私は眠っていたのですからね」
「確かに、気になりますな」
うん、僕も気になるよ。早く聞かせてもらいたい。
「分離をすると眠りにつくというのは、そのダンジョンマスターから聞いた話なんだ。それなら、それを利用すればダンジョンを移動できないかと提案してみたのは私だ」
「ほう、衣織殿がですか」
この話を聞いて、僕はピンときた。今の状況を見れば、勘が鋭ければすぐ分かる。
そう、衣織お姉さんは、このラティナさんと僕を並べたかっただけなんだ。なんてくだらない理由で、無茶苦茶なことをするんだろう。
でも、言ったら怒られそうだから、黙っておこう。うん、やぶへびだよね。
「結果はこの通りだ。ダンジョンの外では、宝石を取りつけることはできなかった。モンスターはダンジョン外では存在できないっていうルールは、簡単には破れないみたいだな」
「よく割れなかったものですな」
「それは私も思う。そうなっていたら、私のけい……おほん、あのダンジョンマスターを悲しませるところだったからな」
うん、今、衣織お姉さんは『私の計画』って言いかけたよ。やっぱり私利私欲じゃないか。
「でも、よろしかったのですかな? せっかくの親子の再会だったというのに、このように連れ出してきて」
「許可は取ってきているさ。一週間後には、あちらに戻ると約束している。しかし、ダンジョンマスターでなければ、こうやって他のダンジョンにも移動できるとはな」
「ゴーレム族だからこそできることですな。我々の場合は、核を取り出せば死にますから」
「そうなのか」
「ええ、そうなのです。人間の心臓と同じなのですよ」
しれっと怖いことを言ってるよ、バトラー。
でも、確かに僕の心臓の位置には、ちょっと違和感があるんだよね。鼓動はするんだけど、何か別のものが埋まっているような……。
「プリンセスは特殊ですからな。人間であり、モンスターでもあるのですから。ですので、人間の心臓とモンスターの心臓、両方を併せ持っているのです」
「そうなんだ。てか、よく分かったね、バトラー」
「プリンセスのことならお見通しですよ」
「ぐぬっ……」
バトラーが笑っていると、衣織お姉さんがなんか知らないけどダメージを受けている。まさか張り合っているの?
僕は衣織お姉さんの態度に頭を抱えそうになってしまう。
「あの、それでは、しばらくここでお世話になります。ウィンク様、バトラー様、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「いえいえ。ラティナ様をお世話できるとは思ってもみませんでしたからな。このバトラー、いいようにこき使って下さいませ」
「こちらこそよろしくお願います、ラティナさん」
「はい」
僕はラティナさんとしっかりと握手をする。
うん、衣織お姉さん。携帯電話を取り出して写真を撮りまくらないでくれないかな。
「衣織お姉さん、その写真、絶対拡散しないでよ!」
「何を言うか! すべて保存用だ。だが、ラティナの父親には見せるからな。娘は元気にしているという証拠なのだからな」
「それならオッケーだよ」
「分かった!」
衣織お姉さんがいつも通りの中、僕は新しいモンスターをダンジョンに迎え入れたのだった。
あさってのダンジョン体験に参加することになるけど、大丈夫なのかな。
ちょっとだけ不安がよぎった僕だった。




