SCENE079 剛力さんに報告だ
無事に亀裂の問題を解決した私たちは、剛力さんたちの待つ宿へと戻っていく。
「本当に倒さなくてよかったんですかね」
「戦う意志のない者を殺すのはどうしても気が引ける。それに、あのゴーレムの少女が巻き込まれては困るだろう」
「……衣織さんって、結構可愛いもの好きなんですね」
「当たり前だ。だが、今一番可愛いと思っているのは瞬だ。これは譲れんぞ」
私がはっきりというと、色はものすごく困った顔をしていた。なぜそんな顔をする。
そうそう。私たちがダンジョンから出る時、入口にいた管理局の人間に、中に誰も入れないように強く念を押しておいた。私たち百鬼夜行が調査をしているのだ。他の連中に勝手にされるわけにはいかないからな。
それに、ガーディアンゴーレムを私が倒してしまった。あの二人は実に無防備な状態だ。話し合いに応じる様子を見せている以上、無事でいてもらわねば困るというものだ。
私たちは心配を抱えながら、とにかく宿へと急いだ。
宿に入ると、座敷を貸し切って剛力さんたちは待ち構えていた。
「おう、戻ったか。衣織、色」
「はい、戻りました」
私たちは、剛力さんの前で正座で頭を下げている。
「ダンジョンの様子は見させてもらったぞ。よくもまあ、一人で突破しちまったものだな」
「モンスターが思った以上に弱かったので、つい突っ走ってしまいました」
つい本音を漏らしてしまう。これには剛力さんは苦笑いだ。
話をしたいところだが、色のお腹が思いきり鳴っていた。そのせいで、みんな大笑いだ。
そこで、食事をしながら、ダンジョンのことについて話をすることにした。
「そうか。ダンジョンマスターは戦う意志はないというわけか」
「はい。本人が言うにはそんな感じですね。色の配信で見ていたと思いますが、本当にまったく戦い意志を感じられませんでした。なんというか、隠居した年寄りといった感じですね」
「ふむ……」
剛力さんは考え込んでいるようだった。
「探索者たちを返り討ちにしていたあのゴーレムは、静かな生活を邪魔されないための守護者として置かれていたってことなんだな」
「ええ、そのようですよ。だから、とびっきり強いモンスターを召喚したそうです」
「それを、衣織さんは倒してしまったと……」
剛力さんと話をしているのに、ギルドメンバーが何か口を挟んできた。私はつい睨んでしまう。
さすがに私がトップクラスの実力者とあって、そのギルドメンバーたちは口をつぐんでしまったな。おとなしく食事を続けているようだ。
「衣織さん、最近あのダンジョンに潜るようになってから、めきめき強くなってませんかね」
「うん? あそこは大したモンスターのいないできたての初心者ダンジョンだぞ? まあ、瞬の配下であるバトラーというモンスターが強いんだがな。おかげで安心して瞬を任せられる」
「衣織さんに強いって言われるそのモンスター、どんだけ強いんだよ」
またひそひそ話が始まった。まったく、全部聞こえているぞ。
だが、それは今はどうでもいいことだ。ひとまずはあの廃鉱山ダンジョンをどうするかだな。
「それで、剛力さん。明日ですけれど、そこのダンジョンマスターと改めて話をすることにしましょう」
「ほう、話をするとはな?」
「ダンジョンマスターというのは知能の高いモンスターなので、話が通じるんですよ。私が知っている限りだと、瞬のダンジョンもですけれど、横浜ダンジョンもマスターはかなり話の通じる開いてみたいですからね」
「ああ、なんか探索者育成の場にするという通知が来ていたな。ダンジョンマスターと合意したとかいう話のようだが……」
剛力さんはにわかには信じがたいといった感じか。
まあ当然だろうな。モンスターといえば基本的に野生生物たちと変わらない認識だからな。
それも、明日になればずいぶんと変わるだろう。
ところがだ。私の意識は別のところに向き始めていた。
絶賛気になっているのは、ダンジョンマスターの娘とかいうあの幼いゴーレムだな。おかっぱ頭のおとなしい少女だ。実に可愛らしくて庇護欲をかき立てられる。
それだけじゃない。瞬と並べればずいぶんと絵になるんじゃないかと考えている。
しかしだ、これには大きな問題が問題がある。瞬で実際に見たのだが、モンスターはダンジョンから外に出られない。なので、二人を並べるということができないということなのだ。
可愛いと可愛いがいるというのに、一緒にできないとはなんともつらいものがある。私はそれが気になって仕方がない。
「……衣織さん、なんか変なことを考えていませんか? 今は剛力さんとのお話し中ですよ?」
「なんだ、色。可愛いものを愛でて悪いというのか?」
「……あのゴーレムの少女のこと、ずいぶんと気に入っているみたいですね」
「うむ、まるで瞳の小さい頃を見ているようでな。つい懐かしくなってしまうのだよ」
「衣織さんが何を基準に生きているのかよく分かりましたよ」
「まったくだな。よっぽど可愛がっていたんだろうな」
色には呆れられ、剛力さんをはじめ、ギルドメンバーには微笑ましく思われてしまったぞ。くそっ、なんなんだ、これは。
なんとも納得のいかない状況になってしまったが、問題の廃鉱山ダンジョンのマスターとは、一度話をするということで結論が出た。
目的は達成できたのだから、とりあえずヨシとしておこうか。
……やはり、納得がいかない。




