SCENE060 初体験は困惑の味
見習い探索者の四人は、入口にある部屋で一泊している。
そうして迎えた二日目のことだった。
「どうですかね。訓練の様子を配信してみるというのは」
バトラーがとんでもないことを言い出した。
「いや、バトラー、それは本気で言っているの?」
「はい、本気ですとも」
僕の質問に、バトラーは大真面目に答えていた。
僕だけでは判断できないので、谷地さんや見習いの四人にも確認してみる。そしたら、みんなから配信してもいいという返事があった。さすがに僕はびっくりしたよ。
「どのような訓練が行われているのかが分かれば、このダンジョンの利用者は増えますでしょう。ぜひとも配信して下さい」
「ええー……」
谷地さんや日下さんから懇願されてしまって、僕はものすごく戸惑ったよ。
でも、見習い探索者の四人が僕の配信に出られると知ると、目を輝かせながら僕のことを見ている。
これって、まさか朝から夕方までずっと配信するってことになるのかな。
「ささっ、プリンセス。さっさと準備しましょうぞ」
「分かったよ、バトラー。そんなに急かさないでってば!」
結局、探索者の育成風景を配信することになってしまい、僕は奥から配信用のドローンを引っ張り出す。
「あっ、そうだ」
配信用のドローンを持ったところで、僕はちょっと気になったので話を聞いてみることにする。
「この中で、配信用のドローンをすでに持っている人はいますか?」
僕がこの質問をすると、なんてことだろうか、四人とも手を挙げていた。ちょっと待って、みんな持ってるんだ。僕だけじゃないんだなって、この光景には驚かされちゃったよ。
「ほう、このどろーんとやらは、みんな持っているものなのですかな?」
「いや、そういうわけではないですよ」
「持っていない方がそこにいらっしゃいますからね」
谷地さんと日下さんはそう言いながら、衣織お姉さんの方を見ていた。衣織お姉さんは顔を逸らしながら、へたくそな口笛を吹いている。衣織お姉さんの配信を見たことなかったけど、そもそも持ってなかったんだ。納得しかないよ。
「持ってなくて悪いですか! そもそも私のスキルは強力ですから、ドローンを巻き込んで全部壊しかねないですからね!」
衣織お姉さんは、大きな声で言い訳を叫んでいた。なるほど、すべてにおいて豪快な衣織お姉さんらしい理由だよ。鬼百合の衣織って呼ばれてるのも納得だよ。
そんなわけで、話が落ち着いたところで、僕は配信を始めることにする。
「みなさん、こんにちは。ダンジョンマスターのウィンクです」
『こんらみあ~』
いつものように配信を始めると、やっぱり配信開始から挨拶が返ってきた。本当にみんなすぐに見てくれるね。
「本日の配信は、ダンジョン管理局による探索者育成プログラムの様子を配信します。参加なさっている方々からは許可をいただいてますので、顔出しで配信していきますね」
『おお、ついにそのダンジョンでの探索者育成が始まったんだ』
「あれ、ご存じなんですか?」
『一応、管理局の情は確認してるからね』
「それは嬉しい限りですね。でも、まだサイトでの扱いは小さいはずなんですが」
僕の配信に、ジェスチャーで断りを入れてきた谷地さんが割り込んでくる。僕の視線が横に向いたことで、視聴者さんたちも分かってたみたいで、反応は衣織お姉さんの時とは違ってほとんどなかった。
『いやぁ、一応探索者を目指す知り合いがいるんで、時々目を通してるんですよ。ただ、そこが遠くて行きにくいなとは思ってますけど』
「仕方ありませんね。このようなダンジョンはまだここしかありませんから」
視聴者さんと谷地さんで会話をしている。なんか、僕の出る幕なさそうだね。
なんて思っていたら、谷地さんが話を終えたらしくって、僕にバトンタッチしてきたよ。なので、僕が話を続けることになる。
「ひとまず、お昼前までの午前中のは訓練の様子を配信しますね。まだ正式な探索者ではないので、モンスターとの戦いはできませんので。お相手はあのデコイです」
『ああ、あの破壊不可能オブジェクトの』
「はい、そうです。とりあえず、このダンジョンでどのようなことを行うのかをお見せしますので、興味のある方はダンジョン管理局を通じてお申し込みをお願いしますね」
『りょ』
そんなわけで、午前中は昨日と同じ内容をもう一度行う。
前衛スキルは衣織お姉さんが、魔法スキルは僕が実演をしてみせて、それを見習い探索者の四人に真似てもらうというものだった。装備品は、ダンジョン管理局の人たちに用意してもらっている。
『相変わらず鬼百合の攻撃怖え……』
『あのデコイを粉々に粉砕するってどんな攻撃だよ』
『ウィンクちゃんの魔法も威力上がってない?』
『だな。ダンジョンの床ごと破壊してるよ』
『威力は少しシャレにならなくなってきたけど、間違いなくあの魔法は俺らのハートを貫いとる』
『おい、変なことを言うと鬼百合に睨まれるぞ』
「もう遅い。今のコメントのやつ、覚えたからな?」
『ひっ!』
衣織お姉さんも、視聴者さんたちも平常運転だなぁ。僕は苦笑いをするしかないよ。
このやり取りを見ていた、見習い探索者たちが困惑しているよ。
「配信ってこんな感じなの?」
「見てる側だと分からなかったけど、結構気になるものなんだな」
「私、無理ぃ……」
どうやら、配信体験にもなっているみたいで、見習いの四人はそれぞれ違った反応を見せていた。
いろいろと悩ましい点はあるけれど、こういった体験は重要だと思う。
そんなこんなでにぎやかになりながらも、見習い探索者たちのダンジョン体験は無事に終わることはできたよ。
はあ、疲れたぁ……。




