SCENE058 見習いたちに実演を
僕はバトラーにキラーアントを牽制してもらって、みんなを連れてボス部屋まで戻ってきた。
ここは初心者ダンジョンだしできて間もないので、変な脇道は一切なく、すぐにボス部屋にたどり着いてしまう。
「着きましたよ。ここが僕の住むダンジョンの一番奥であるボス部屋です」
面白いくらいに何もない殺風景な場所だよ。でも、これでも僕の住処なんだよね。
とはいえ、実際の生活空間は、隠し扉に隠された小部屋なんだけどね。
「思っていたボス部屋と違う……」
たどり着いた見習いの探索者の少年が何か言っている。
言われるのは分かっていたけれど、実際に言われると結構傷つくなぁ。
「これでもボス部屋ですよ。このダンジョンはできてから一か月程度しか経ってませんからね。整えていくにも手間暇がかかるんです」
「そ、そうなんだ。ダンジョンマスターっていうのも大変なんだな……」
僕が腰に手を当てながらお説教をすると、なんとなくだけど理解してくれたっぽい。
それにしても、配信を行ってダンジョンポイントを手に入れている僕ですらこんなに苦戦するんだ。異界からやってきたダンジョンマスターたちなら、もっと苦労しているんだろうな。僕はふとそんなことを思っちゃったよ。
っと、余計なことを考えている時じゃないや。みんなの特訓を始めないとね。
「よし、それじゃあっちを見てもらえますか?」
「あっち?」
見習い探索者たちが、一斉に僕の指し示した方向に顔を向ける。
視線が向いた先には、真っ白なデコイが二体置かれている。うん、なけなしの5000ポイントを使ってもう一体増やしたよ。何人来るか分からなかったし、一体じゃ足りないだろうなって予測してたからね。増やしておいて正解だったよ。
「なにかしら、あの白いの」
「あっ、もしかしてこの間の配信で出てきてたやつかな?」
あっ、僕の配信の視聴者さんがいたんだ。それにしては今まで僕のことを見ても何の反応もしてなかったよね?
「僕の配信で見せたデコイですよ。どんなに壊そうとも、ダンジョンのマナを使って元通りになってしまうデコイですね。見習いの探索者さんたちのために、奮発してデコイを二体に増やしました。反撃も反射もありませんから、思う存分スキルを使っていただいて大丈夫ですよ」
「おおおっ!」
好きなだけ壊せることが嬉しかったのかな。見習い探索者たちはものすごくテンションが高くなったみたいだよ。
「まあ、その前に」
衣織お姉さんが出てくる。
「スキルというものがどういうものか、見せてあげよう。持っている能力を把握していないと、スキルを暴走させて自分たちが危険になる。私も探索者になりたての頃は何度も危険な目に遭ったものだからな」
ああ、衣織お姉さんでもそうだったんだ。
今は鬼百合の衣織って言われて恐れられているみたいだけど、そんな衣織お姉さんでも最初は苦労したんだな。
「私が使うスキルは太刀スキルと槍術スキルだ。参考にはならないかもしれないが、スキルを使うとはどういうことなのかしっかり見ておいてくれ」
衣織お姉さんはそう言うと、今日は槍を取り出していた。いや、どこに持ってたの、そのでかい槍!
だけど、驚く僕の姿見えていないのか、衣織お姉さんは槍を構えて、デコイの一体に槍を向けている。
「よく見ておくようにな。槍術・槍雨!」
衣織お姉さんはそう叫ぶと、持っている槍を素早くデコイに何発も叩き込んでいた。あわわわ、まったく攻撃が見えないんだけど?!
なんということだろうか。衣織お姉さんの槍を受けたデコイは、見るも無残に砕け散ってしまっていた。
「すごい! 鬼百合の衣織さんのスキルを間近で見られるなんて!」
「速くてまったく見えなかったわ」
「くうう、これがトップクラスの探索者の実力かぁ。俺も絶対そこまで登ってやる!」
見習い探索者たちは、ものすごく興奮しているようだった。
まあ、そっか。衣織お姉さんは彼らがいったようにトップクラスの探索者だもんね。一緒にいられるなんてことはまずありえないもんね。
「おい、見ろよ」
「えっ?」
興奮していた探索者たちだけど、一人が異変に気が付いたようだ。
その異変は何かって?
分かり切ったことだよ。衣織お姉さんが壊したデコイが復活し始めたんだ。あれだけ粉々になったっていうのに、まるで逆再生をしているかのように復活していくんだから驚きだよね。
「おほん。衣織お姉さんとデコイのすごさが分かったところで、僕もスキルを披露しましょう」
「えっ、モンスターのスキル?」
「当然じゃないですか。モンスターの何も知らないでダンジョンに潜るつもりですか?」
「うっ、確かに……」
僕がちょっと不機嫌そうに指摘すると、見習い探索者たちは黙り込んでしまっていた。
ふうっとひとつため息をついた僕は、改めてデコイへと視線を向ける。
「衣織お姉さんが見せたのは物理スキルでしたので、僕は魔法スキルをお見せします。モンスターと人間との違いはありますけれど、基本は同じです。だよね、バトラー」
「はい、その通りでございます。体内に宿るマナを感じ取り、それを頭のイメージでもって形を作り、体の外へ放出する。それが魔法スキルなのでございます」
うわぁ、バトラーが説明しきっちゃったよ。これじゃ僕の出番は、スキルの実演だけじゃないか。
説明しちゃったのは仕方がない。
僕は気を取り直して、見習い探索者たちに魔法スキルを見せつけることにした。




