SCENE056 可愛がっている兄妹には勝てない
瞬がダンジョンマスターをしているダンジョンから移動する。
瞳に、服を渡したことを伝えなきゃいけないからな。
それにしても、私はそんなにダメなことをしていたのだろうか。瞬や視聴者たちの反応に、どうも納得がいかなかった。
(ちょっと瞳にも聞いてみるとするかな)
私はそんなことを思いながら、瞬の家へと向かっていった。
ダンジョンとは徒歩でも四十分くらいしか離れていない。そんな閑静な住宅地の中に、瞬の家はある。
瞳というのは瞬の妹で、瞬のふたつ年下になる。瞬同様に瞳にも探索者適性があって、将来的には私のような探索者になるんだと意気込んでいる。まったく可愛い実の妹のような子だ。
「お邪魔しますよ」
呼び鈴を鳴らして、私は家に招き入れてもらう。
おじさんは仕事、おばさんは買い物。家には瞳しかいなかった。
「お帰りなさい、衣織お姉ちゃん。どうだった、服は渡してくれたかな?」
「ああ、喜んでいたよ」
「そっかあ。作ったかいがあるな」
私が服を渡した時の様子を話すと、瞳はとても喜んでいるようだった。
こう見えても、瞳は瞬に甘えている。ブラコンってやつかな。
「スマホに写真撮ってきたんだが、見るか?」
「うんうん、見る見る。配信も見てたけど、もっと見ておきたいもん!」
なんだ。瞳のやつ、さっきの配信も見てたのか。ということは、チャンネルをお気に入りしてるってことか。まあ、実の兄のチャンネルだから、そうなってしまうのだろうな。
なんといっても、瞬はダンジョンマスターになってしまったから、身内とはいっても気軽に会えなくなってしまったからな。
瞳は早くてもあと一年半は待たないとダンジョンに潜れない。だから、兄である瞬の様子を確認できるチャンネルは重要なんだろうな。
「なあ、瞳」
「なに、衣織お姉ちゃん」
私はちょっとした懸念が浮かんで、瞳につい声をかけてしまう。
「学校でいじめられたりしてないか? 世間的には瞬は行方不明扱いだろ。そのことで何か困ってないか?」
「あー、うん。大丈夫だよ。私はそんなに弱くないもん」
「そうか……。だが、あんまり無理するなよ? 困った時には私たちを素直に頼ってくれ。いじめっ子どもは立ち直れないくらいに懲らしめてやるから」
「うん、ありがとう、衣織お姉ちゃん」
なんだろうか。お礼を言っている割には、表情がありがたくなさそうなんだが……。
思春期特有の反抗期のようなものかな。
……大丈夫というのなら、その言葉を信じるとしよう。
「それはそうと、よくケイヴベアーの毛皮を縫製できたな」
表情からよろしくないなと感じた私は、話を切り替えることにした。
その話題は、最初にしていた服の話題だ。
ケイヴベアーは中級の上の方に存在するモンスターだ。私なら問題はないが、初心者を脱出して上を目指す探索者が大抵折れるきっかけになるモンスターだ。
攻撃は一撃で肉がえぐれるし、逃げようにも人よりもはるかに速い足で追いかけてくる。上位の探索者との境目に存在する門番のようなモンスターなんだよな。
そんなモンスターゆえに、素材もそう簡単に扱えるようなものではない。普通の裁縫をしようとしても、その皮の硬さに針が折れる始末だ。
となると、瞳にはダンジョン素材を扱うためのスキルが備わっているということだろう。まあ、単純に裁縫スキルだろうがな。
「私は、探索者デビューをする時に、自分で作った衣装を着て潜ろうと思っているんだ。だから、慣れてるんだよね」
「いや、慣れてるって言われても、モンスターの素材は簡単に扱えるものじゃないぞ?」
「うん、分かってるよ。でも、私は問題なく加工できてるから、何も心配要らないよ?」
「そ、そうか」
きょとんとした表情で、何か問題あるのというような感じだ。これは分かっていないんだろうな。
やれやれ、管理局で一回調べてもらった方がいいだろうな。ダンジョンに潜れない十三歳の段階で、上位のダンジョン素材を問題なく扱えている時点でとんでもない話なんだからな。
まったく、兄が兄なら、妹も妹だな。
話も一区切りがついたので、私は瞳に撮ってきた瞬の姿を見せる。
「うわぁ、やっぱりお兄ちゃん、似合うなぁ。二徹したかいがあるってものだわ」
「二徹って……。いくら中学生だからって、寝ないのはよくないぞ」
「分かってるけど、お兄ちゃんが来てくれるんだって思うと、私は衝動を止められなかったんだよ!」
二晩も徹夜をしたと聞いて咎めているが、瞳はむしろ拳を握って誇っている。
それだけ瞬への想いが強かったのだろうが、だからといって無茶は感心しない。
写真を見せた後は、私からの説教タイムとなった。
「ぶーぶー。衣織お姉ちゃんだって反省して下さいよね。お兄ちゃんの配信に呼ばれもしないのに割り込んだんですから」
「いや、あれは視聴者どもが悪口を言うからであって、私が悪いわけでは……」
「マナー違反です!」
「ぐっ……」
言い訳をしようとしたら、瞳にキッパリと言われてしまった。
「まったく、私とお兄ちゃんの通話にも割り込みますし、衣織お姉ちゃんってデリカシーなさすぎですよ」
「ぜ、善処する……」
七つも年下の少女に言い負かされるとは、私にとってはショックだった。だが、ここまで言われるということは、本当に私が悪かったのだろう。ならば反省するのみだ。
そんなこんなで瞳との会話を終わらせた私は、近所にある自分の実家へと帰っていく。
ふう、最近の私は怒られてばかりだな。問題点をはっきりさせて、なんとしても改善せねばな。
私は大きなため息をついたのだった。




