SCENE052 プリンセスは悩ましい
正直言って、最近の僕は影が薄いと思うんだ。
戦闘となると衣織お姉さんやバトラーには敵わない。話術もバトラーには負ける。配信にしても、同じダンジョンマスターであるセイレーンさんに話題をさらわれがちだ。
さすがに横浜ダンジョンという難攻不落の巨大ダンジョンを持つセイレーンさんは強力なライバルだよね。
僕と同じように下半身は動物っていう共通点があるしなぁ。
あ、でも、セイレーンさんは二本足に体を変えられるんだよね。僕にはそういう能力はないのかな。
「ないですな」
打ち合わせから帰ってきたバトラーに尋ねてみれば、即答だったよ。
ちょっと待って。僕の下半身はずっとこの蛇の状態のままなの?!
「その通りですね。今までで人間の体に擬態のできたラミア族は見たことはありませんからな。まあ、プリンセスはちょっと特殊ですから、できないことはないかもしれませんな」
バトラーはなぜか笑いながら話している。もしかしてバカにしてるの?
「もう、バトラーってば!」
「夢見るのは勝手でございます。ですが、現実も見ていただきませんとな」
バトラーはそう言うと、なにやら紙の束を渡してきた。これってなんだろう。
「我にはさっぱりですが、ダンジョン管理局のお二方からプリンセスにと渡されたものでございます。プリンセス、よろしくお願いしますぞ」
「あ、うん。分かったよ。なんだろう、僕に読んで欲しいものって」
バトラーから渡された紙の束を、僕は改めて眺めてみる。
どうやら、このダンジョンの活用方針がようやく決まったみたいだ。
今の僕のダンジョンの設備は、入口から入ってすぐの右側にある管理局の人たちの部屋と、左側にある星空の部屋、それと二階層に降りる直前のキラーアントのいる部屋くらいかな。
あとは僕のいるボス部屋にあるデコイか。初心者用と分かるくらいに設備がなさすぎるよね。
ダンジョンポイントを貯めて設備を増やしたいけど、さっきの配信のぐだぐだ具合からすると、ポイントは期待できなさそうだよね。
「はあ……。ダンジョンポイント稼がないとなぁ」
僕は思いっきりため息をついていた。
キラーアントは初心者用のモンスターなので、強さはたかが知れている。けど、素材としては加工がしやすい上に丈夫だから、探索者としてはメリットがあるだろうね。
でも、僕としてはダンジョンポイントが入らない上に、一体につき5ポイント、再召喚で消費することになる。これではなんともなぁといった感じだと思うよ。
いろいろと思うところはあるけれど、とりあえずダンジョン管理局から渡された紙の束に目を通していく。
谷地さんと日下さんのおかげで、今ある施設だけでどうにかなるプログラムを組んでくれたみたいだ。
「あれっ、僕も講師として参加するの?」
なんということだろうか。僕まで参加することになっているみたいだ。
理由としては、僕が魔法を使えるからということみたいだ。
「そっか、探索者になりたてなら、魔法の使い方知らない人ばかりだもんね。スキルひとつ使いこなせなかったら、足手まといは確定だもんね。なるほど、なら僕も頑張らなくちゃいけないな」
僕と同じ度しか年上ばかりになるみたいだけど、ダンジョンに入ったことのある先輩として、指導しなきゃいけないみたいだ。僕に務まるか不安だけど、やるしかないよね。
そうと決まれば、僕は配信で使ったばかりのデコイに対して、もう一度向かい合う。
「シャドウエッジ!」
シャドウランスで地面をえぐってしまっていたので、僕は魔法のランクを落としている。いくら修復されるとはいっても、やっぱりあまり壊したくはないもん。僕の住処なんだし、ここは。
闇以外にも水属性の魔法も試してみる。バトラーがいうには、ラミア族は水と闇の魔法が得意らしいから、僕に使えないわけはないだろうからね。
「アクアシュート!」
水魔法を使ってみるけど、威力の弱い水鉄砲みたいな酷いものだった。僕には水属性の適性はないのかな。
「ほっほっほっ、精が出ますな、プリンセス」
「うわっ、バトラー? 急にどうしたんだよ」
「妹君から電話でございます。出てあげて下さいませ」
「あ、うん」
ぶるぶると震えている携帯電話を、僕はバトラーから受け取る。
「もしもし、瞳?」
『お兄ちゃん、配信見たよ。服可愛いね』
第一声がそれだった。服に目が行くとか、瞳らしいなと思いつつ僕は苦笑いをしている。
『お兄ちゃんの服を見てたら、なんだか私服を作りたくなってきちゃった。ああ、今度衣織お姉ちゃんにサイズ測ってきてもらおうかな』
「瞳、僕を着せ替え人形にしようとしないでよ。まったく、瞳にそんな才能あったっけ?」
『ふふふっ、あったのよ、実はね』
瞳はなんとも怪しい感じで笑っている。まったく、僕の妹は楽しそうにしているみたいだね。
僕は瞳と、今日の配信のことや、家族の今のことなどいろいろと話をしていた。
『それじゃ、お兄ちゃん。そろそろ切るね』
「うん、瞳が作ってくれるっていう服、ちょっと楽しみにしてるからね」
『えへへ、お兄ちゃんに似合う服、作ってあげるからね』
そう言うと、瞳からの電話は切れたのだった。
正直なところ、女物の服ばかりで困ってるんだけどな。でも、瞳が相手だとそういうことも言えないよね。
「僕も、いい加減に女の姿に慣れなきゃね」
僕は大きなため息をついたのだった。




