SCENE004 当面のダンジョン運営について
ひとまずの危機は去ったものの、バトラーの表情は冴えないようだった。
「ふーむ、参りましたね。このダンジョンを作り変えたところで見てもらう予定でしたが、思ったよりも早く来てしまいましたね。これでは今までの空のダンジョンと同じ扱いです。人が来ることは望めませんな……」
バトラーは状況を冷静に判断しているようだった。
しかし、僕が目覚めたばかりだったわけだし、ろくな説明すら受けていない。状況的に仕方なかったとしか言いようがない。
ひとまずはこれで安心といったところだ。
空のダンジョンであるなら、しばらく人が来ることはないのだから、その間にゆっくりダンジョンを作り変えられる。
「また勝手な侵入者がやって来ることを望むしかありませんな。では、その間に能力の見方をお教えしましょう」
危機が去ったということで、小部屋の中でバトラーからの説明が再開される。今度はステータスの見方らしい。なんだかゲームっぽい感じがしてくるな。
「ダンジョンコアの時と同じように、ご自身の胸に手を当てながら、『ステータス、オープン』と念じて下さい」
言われた通りに僕は胸に手を当て、強く念じる。
それにしても、プリンセスといった割には胸はぺったんこだ。って何を気にしてるんだろうか。集中を乱してはいけないよね。
僕は頭を左右に振ると、改めてステータスを見るために強く念じた。
ブオンという音がして、ダンジョンコアの時と同じようにゲームのステータスウィンドウのようなものが表示された。
「えっと、ラミアプリンセス、レベル1……。レベル1?!」
レベル表記があることもそうだけど、レベル1という表示に僕はものすごく驚いた。
レベル1ってことは最弱じゃないか。ボスなのに最弱ってどういうことなのだろうか。僕はバトラーを見る。
「おほん。プリンセスはモンスターとして目覚めたばかりなのです。レベルが1なのは当然でございましょう。我のように異世界で育ってきた者ならともかく、プリンセスはこちらの世界の人間だったのですからね」
「えええ……」
僕はショックを受けている。
「探索者としての経験でもあれば、また違ったようですがね。プリンセスは探索者としての実績がなかったようでございます」
「そりゃねえ。探索者としてダンジョンに潜れるようになるのは、十六歳からだもん。今の僕は十五歳。経験がある方がおかしいよ」
「なるほどですね……。では、なおさら我がプリンセスをお守りしませんとね」
バトラーが強く誓っているようだった。
「バトラーのステータスを見せてもらってもいいかな?」
「そうでございますね。プリンセスのステータスを覗いておきながら、自分のものを見せないのは従者としてどうかと存じますからね。お見せいたしましょう」
バトラーはそう言うと、自分のステータスを表示させていた。
「レベル71……。すごく高いや」
僕と比べて70も高い。なんというか月とスッポン、天と地ほどの差がある。
「我は長年、主となる者を探しておりました。その間、主を守らねばと努力をして参りましたからね。この程度の強さ、当たり前でございましょう」
バトラーは自慢げではあるものの、とても淡々と語っている。そのせいで、いやみったらしく聞こえない。さすがはバトラー、従者というだけのことはあると思った。
「さて、このダンジョンに人を呼び込む作戦はいかが致しましょうかね」
「そうだなぁ……。どういう手が手っ取り早いだろうかな」
僕たちは考え込む。
ダンジョンに人がやって来ることは、現状は望めないだろう。
そんな中、僕はあるものを思い出していた。
「そうだ。これは使えないかな」
自分の荷物からひょっこり取り出したのは、探索者になったら使おうと思っていた配信用のドローンだった。
「プリンセス、それは?」
「高校生になったら使おうと思っていた、探索者が使う配信用ドローンだよ。モンスターは使えないんだっけか」
「我は初めて見ましたぞ。探索者というのは、そんなものを使っているのですか」
バトラーはとても驚いているようだ。博識なバトラーでも知らないとは、びっくりしちゃったよ。
「探索者たちは自分たちがダンジョンに潜る様子を配信してるんだ。もちろん、モンスターを殺したり、自分が逆に死んだりっていうことはあるけどね。活動記録みたいなものかな」
「なるほど……。それは使えそうですな」
僕の説明を聞いていたバトラーの目が、きらりと光った気がした。
そうかと思うと、バトラーは僕の肩をつかんで勢いよく迫ってくる。
「こうなればプリンセス、着飾らねばなりませんぞ」
「え、ええ?!」
あまりの勢いに、僕は戸惑う姿しか見せられない。
「あなた様は、ラミア族のプリンセスなのです。いうなれば、我ら蛇亜人たちのプリンセス。人前に出るのでしたら、それなりの服装を求められるのです」
「う、うん。確かにそうだね……」
僕は勢いに頷かされる。
ダンジョンポイントはまだ900ポイント残っているから、服装くらいなら買ってもそんなに減らないかな。
僕はバトラーに急かさせれ、ダンジョンコアを呼び出す。ダンジョンコアの操作は僕にしかできないのだけど、バトラーが自分の指示に従って操作してくれと譲らなかった。
「えっと、これを着るの?」
「当然でございます。プリンセスとして、気品あふれる服装でなければなりません。さあ、購入を押して下さい」
結局、勢いに押されてしまい、僕はバトラーが指定した服を購入することになってしまった。
200ポイントと結構高かった。
うーん、これからの僕っていったいどうなっちゃうんだろうかな。
ダンジョンマスター生活は、初日から大変な状態で始まったのだった。




