SCENE047 気になるお姉さん
衣織お姉さんの登場で話がややこしくなっちゃった。
「ごめん、瞳。話が長くなりそうだから、電話、切るね。明日も学校でしょ?」
『えっ。うん、そうだけど、なんか気になっちゃうよ』
なんだか話が長くなりそうな気がするので、瞳には悪いけれど通話は切らせてもらう。
気になるのは分かるんだけど、僕は瞳の生活の方が心配だよ。
「瞳、聞こえているかな?」
『うん、衣織お姉ちゃん』
「悪いけれど、ここは瞬の言う通り、通話を終わらせてくれ。後日、私の方から説明させてもらうから」
『……分かった。いう通りにする』
「ごめんね、瞳」
『お兄ちゃん、また今度電話してよね。じゃあ、お休みなさい』
ぷつりと通話が切れる。
僕は瞳との通話が無事に終わってほっとしている。
だけど、衣織お姉さんからの視線に緊張が戻ってきてしまう。
「さあ、話をしてくれないか、瞬」
「う、うん」
衣織お姉さんの威圧からは逃れられそうにないや。
僕は観念して瞳と話していた内容を衣織お姉さんに教えることにした。
「そうか。横浜ダンジョンの話か」
「そうだよ、横浜ダンジョンの話。衣織お姉さんもそこで通ってたんだ」
「ああ。あそこはかなり実入りがいいんでな。ダンジョン内で死んでも入口で復活できるしな。おかげで死に戻りっていうゲームみたいなことをしてまで突撃するような奴までいるくらい。ちょっとした無法地帯だな」
「あはは、そうなんだ……」
そういえば、横浜ダンジョンにはそんな設備があるって言ってたような?
セイレーンさんはその死に戻りなどを利用してポイントを稼いでいるのか。なるほど、トップを走り続けられるのも納得だな。
「で、瞬」
「なに、衣織お姉さん」
「そこのダンジョンマスターと出会ったやつがいるっていうのは事実なのか?」
衣織お姉さんの圧が強い。僕みたいな弱小モンスターじゃ、怖くて立ってられないよ。
「衣織殿、プリンセスが震えております。ちょっと抑えて下さいませ」
「ああ、すまない。私ですら達成できていないことをやってのけたやつがいると聞いてな。つい気が立ってしまったようだ」
衣織お姉さんが気を緩めてくれたおかげで、僕の体の震えがようやく止まる。これがトップクラスの探索者なんだな。勝てっこないや。
威圧が消えたおかげで、僕もようやく落ち着いて話ができる。なので、衣織お姉さんの質問に答えることにする。
「セイレーンさんと出会った探索者がいるのは事実だよ。隠密と直感のスキル持ちなんだって」
「なるほど、隠密でモンスターに気付かれず、直感で罠を回避しているのか。しかも、ボス部屋に到達できるということはスキルレベルが高いな。そんなスキルを持っていれば、あちこちから引っ張りだこになるだろうな」
「だと思うよ。ただ、意識的に隠密のオンオフはできるみたいだけど、発動している状態が普通らしくて誰も気が付かないみたいなんだ。僕もすぐには分からなかったし」
「ふむ。となると、その冒険者のレベルは低いだろうな。戦いをしないことには強くはならないからな」
僕の話を聞いて、衣織お姉さんは探索者像を想像し始めたようだ。
さすが衣織お姉さん。この情報だけでそこまでたどり着いちゃったよ。バトラーがいうには、モンスターたちのレベルでいえば12前後なんだとか。それでも僕より上じゃんか。
「ところで、衣織お姉さん」
「なんだ、瞬」
「衣織お姉さんは、セイレーンさんの配信は見たの?」
「いや、まだだ。私はあまり配信には興味がなくてな」
「僕のは見てるのに?!」
「瞬のは別だろうが」
探索者の配信は見ていないのに、僕のだけは見てる? いや、なんだかわけが分からないんだけど。そういう人もいるの?
「プリンセス。お忘れですかな、いつぞやの大口のポイントのことを」
「あ……。あの時の5000ポイントって、まさか衣織お姉さん?!」
「ですな。話っぷりを見ていればよく分かりますぞ。プリンセスはそういうところは鈍いですな」
もう、バトラーってばはっきり言ってくれちゃうね。どうせ僕はお鈍さんですよ!
「瞬、そのセイレーンとかいうやつの配信を見せてもらってもいいか?」
「うん、いいよ。ちょっと待ってて、今そのページを表示させるから」
衣織お姉さんに頼まれたので、僕は携帯電話を操作して、セイレーンさんの配信ページ、つまり高志さんのアカウントページを開く。
まだ配信はひとつしかないから、当然ながら動画はひとつしかない。
配信をして終了すれば、勝手にこうやってアーカイブが作られるから便利でいいよね。おかげで僕も配信したらそのまま放置でどうにかなってるもん。スパチャもあるみたいだし、これで瞳たちの生活の足しになるなら、僕は嬉しいな。
それで、セイレーンさんの配信を衣織お姉さんに見せたんだけど、なんか黙りこんじゃったな。
「うん、瞬、ありがとう。携帯電話には私の連絡先が入っているから、また配信があったら連絡をして欲しい。どんなところか見て予行演習にするから」
「分かったよ、衣織お姉さん」
僕は快く了承をするけれど、帰っていく衣織お姉さんの様子がちょっと変だったな。
なにも変なことが起きなければいいんだけど。
気になるけれど僕はこのダンジョンから外に出られないダンジョンマスターだ。またやってきた時にでも話を聞いてみることにしよう。
夜も遅くなってきたということで、僕はついあくびをしてしまう。
心配なんだけど、さすがに眠気には勝てなかったみたいだよ。




