SCENE041 実は緊張してました
静まり返った部屋の中。バトラーの咳払いが響き渡る。
「うおっほん。詳しい話は我が致しましょう」
「えっ、バトラー。話しちゃうの?」
片目を閉じて喋りたそうにしているバトラーに、僕はつい確認をしてしまう。
「ええ。セイレーンは知らない方ではありませんし、それに、こんな風に探りを入れられるくらいなら、すべて話してしまった方がいいのです」
「まあ、確かにそうかも知れないね」
バトラーの話している内容に、僕はものすごく納得してしまう。
でも、こうやって知ってしまったのなら、別に頻繁に来られてもあんまり気にしないんだけどね。不殺設定をしてしまえば、互いに殺せなくなるし。
だけど、バトラーは別の懸念を持っているようだ。
『まったく、なにをもったいぶっていますの。さっさと話して下さいまし』
電話の向こうでは、セイレーンがじらされて落ち着きを失っているっぽい。なんだかものすごく催促してきてる。
「では、お話しましょう」
もう一度咳払いをしたバトラーが、僕のダンジョンの誕生秘話を話し始めた。
すべてを聞いたセイレーンと高志さんは、かなりびっくりした様子だった。
「そんな、目の前のモンスターが元人間だったなんて……」
『あたしは聞いたことがありますね。異世界への侵略の方法として、現地人をダンジョンに取り込んでしまうというものがありますわ。そこのラミアプリンセスは、そのために選ばれた存在だったということですわね』
「そ、そんなことがあるんだ」
『ええ。あたしもただの伝承だと思っていましたわ。まさか、現実に聞くことになりましょうとはね』
なんともまあ、モンスターたちも詳しくは知らないことのようだ。
でも、なんでバトラーは知っているんだろう。
僕がちらりと視線を向けると、バトラーはちょっとごまかしているようだった。とても気になるなぁ。
「それで、プリンセスが配信を行える理由というのは、この道具を持ち合わせていたことが大きいのです」
「あっ、それは探索者用の配信ドローンですね」
バトラーが手にしている道具を見て、高志さんが声を出している。さすが探索者、やっぱり知っているんだ。
「なるほど、そういうわけだったんですね」
「配信では話をしていたと思うんだけどな」
「そうですな。早い段階で、我が説明をしておりますぞ」
「あっ、そうだっけ?」
僕たちがはっきり覚えているのに、視聴者である高志さんが忘れてるって……。一体セイレーンにはいつの配信を見せたんだろう。
『疑問が解けましたわ。バトラー、感謝申し上げますわよ』
「お役に立てたようでなにより。ですが、現在の我は、なによりプリンセスが最優先でございます。いくらセイレーンとはいえ、プリンセスへ害意があるのなら、我は相手になりますぞ?」
『やめておきますわ。とはいえ、あたしたちのいるダンジョンは離れておりますから、危害を加えるなんてことはできませんわよ』
「そうですな。はっはっはっはっ」
『おーっほっほっほっほっ』
バトラーとセイレーンが笑い合っている。知り合いだからこそなのかな。僕たちはなんかついていけないよ。
モンスター同士の会話に、僕と高志さんはすっかり置いてきぼりにされてしまっていた。
『下僕』
「は、はい」
高志さんは名前を呼ばれていないのに返事をしている。もう認めちゃってるんだ。本人が喜んでいるように見えるので、僕があれこれ言うことじゃないか。
『あたしも配信を行えるように、準備をしておいて下さいな』
「はい、分かりました」
そう言うと、高志さんの携帯電話の通話はぷつりと切れてしまった。どうやら、セイレーンとしては話が済んだみたいだ。
だけど、このままだとまた高志さんはここに送り込まれることになっちゃうな。
「あの、高志さん」
「はい、何ですか?」
僕が声をかけると、なぜか体をびくっとさせている。やっぱり、僕がモンスターだからかな。
「またここに送り込まれても困るので、僕の携帯電話の番号を教えておきますよ。まだ携帯電話は届いていませんけれど」
「あっ、機種変更の最中なんだ」
「はい。僕の携帯電話、ダンジョンの中で使えないタイプだったので、知り合いの方に頼んで機種変更してもらってるところなんです。もうそろそろ届くと思いますし、番号は変えないように頼んでおきましたからね」
「分かったよ。教えてもらってもいい?」
「はい」
そんなわけで、僕は高志さんに僕の携帯電話の番号を教えて、セイレーンに伝えてもらうことにした。もちろん、セイレーンの番号も教えてもらう。
「届いたら、この番号にかけてみますね」
「助かるよ。ここまで来るのに結構運賃がかかっちゃうから……」
「横浜の方からだと、そんなに遠いんだ、ここ」
「三時間くらいかな、順調に来れたとしても」
意外と遠かった。
これで話が終わったので、僕たちは高志さんを見送る。高志さんがスキルを発動すると、やっぱり僕からはぼんやりとしか認識できなかった。これがレベル差ってやつなのかな。
どうにか急な来訪者をやり過ごした僕は、気が抜けてその場に座り込んでしまった。
「プリンセス、立てますかな?」
「いや、無理っぽい。しばらくこのまま休んでいるよ」
「承知致しました」
強い人たちに囲まれたせいで、結局この日の僕はこのまま動けなくなっていた。
このままではさすがに情けないにもほどがあると思う。僕も耐えられるように強くならなくちゃね。
強く僕は心に誓ったのだった。




