SCENE040 衝撃の応酬
いつものお茶会用のテーブルを引っ張り出して、僕はバトラーと誰か知らない探索者と一緒にテーブルを囲んで座る。
探索者の持っている携帯電話からは、なんともうるさい女性の声が聞こえてくる。
『キィーッ! 新参者のくせに生意気ですわね。あたしを誰だと思っていますの』
「そんなことを言われても知らないよ。僕はそもそもモンスターじゃなかったんだから」
『なんですって?』
なんとも耳が痛くなるくらいの声だ。
こういうのをなんていうんだろう。ヒステリックっていうのかな。僕はとにかく両耳を思わずふさいでしまっていた。
「まあまあ、セイレーン。ちょっと落ち着いた方がいいですぞ。そもそも話を持ち掛けてきたのはそちらです。そのようにケンカ腰では、落ち着いた話はできないというものですぞ」
こんな状況だというのに、バトラーは落ち着いてセイレーンと名乗る女性と話をしている。さすが執事。
『ま、まあ、あなたの話であれば、聞こうじゃありませんの』
あ、すっかり落ち着いちゃった。こういう時って、本当にバトラーって頼もしいなあ。
「そちらのお話を聞く前に、セイレーン、なぜこのように連絡を取ることができるのですか。互いのダンジョンは不干渉という基本的なルールをお忘れなわけではないでしょう?」
『う……』
バトラーの声のトーンがいつも以上に低い。これは怒っているっていうことなのかな?
『だ、だって、気になるじゃありませんの。できたばかりのダンジョンが、あたしの稼ぐポイントの二十分の一を稼いでトップテン入りをしているなんて。常にトップに立っておりますあたしからすれば、脅威でしかありませんわよ』
セイレーンと名乗る女性の言い分を聞いたバトラーは、額に指を当てて大きなため息をついている。
「常にトップを走っておられる方が、そんな小心なことでどうなさいますか」
『で、ですが!』
「言い訳は聞きませぬ。そんな理由でこちらに探りを入れられても困るというものですぞ。知り合いとして情けなく思います」
バトラーに言われて、相手は完全に黙っちゃった。論戦も強いんだな、バトラーって。
「すみません。俺がたまたまボス部屋に踏み入ってしまったために、こんなことになってしまって……」
さっきから黙っていた探索者が話を始めたよ。さっきまで割って入れなかったから、僕よりも気弱で間違いなさそうだね。
「おやおや、そうでしたか。それはそうと、我の名はバトラーと申します。貴殿の名をうかがってもよろしいですかな?」
「あ、はい。水瀬高志といいます。高校二年生です」
あ、普通に名乗ってくれた。結構普通の名前かな。
「僕はウィンクといいます。このダンジョンのダンジョンマスターでラミアプリンセスっていう種族です」
「ウィンクさんですね。配信、見させて頂いてます」
「わわっ、視聴者さんでしたか。へへっ、嬉しいなぁ」
僕の配信を見てくれていると聞いて、つい照れてしまう。
『そう、その配信ですわ。どうやって配信をしていますの。教えて下さらないかしら』
僕たちの話を聞いていた通話相手が、ものすごく食いついてきた。
そのセイレーンという人の反応を聞いて、バトラーはピンときたみたいだ。
「なるほど。我がプリンセスの秘密を探りに来たというわけですか。いくらあなたとはいえ、それを教えるわけにはいきませんな」
バトラーはさっきから声が低い。やっぱりかなり怒っているみたいだ。
なんだろう、僕まで怖くなってくるんだけど。
「俺が悪いんです。ここのことを聞かれて、配信を見せてしまったので……」
「少年のせいというわけですか。まあ、セイレーン相手では断われないでしょうな。レベルは69ですからね」
『ちょっと、バトラー。あたしのレベルをばらさないで下さいませんこと?』
「黙らっしゃい!」
バトラーが大声を出すと、ぴしゃりとセイレーンの声が聞こえなくなってしまった。
どうやらバトラーの方がレベルが高いために、威圧に負けてしまったみたい。
「話は大体分かりました。少年が持ってきたこの薄い板、これをセイレーンに手渡したのですね?」
「は、はい。うろこをいただいた交換条件ということで、俺が携帯電話を渡したんです」
バトラーに追及されて、高志さんは素直に話してしまっていた。
でも、なんだろう。今顔が赤くなったような気がしたんだけど、気のせいかな?
「やれやれ、こちらの人間が関わっているのなら、これはルール違反とはいえ不問でしょうな。我がプリンセス同様に、特殊な状況にありますからな」
「特殊な状況?」
高志さんが僕の言葉を理解できないといった表情を見せている。まあ、普通は分からないよね。
「僕は元々、高志さんと同じで人間だったんですよ」
「そうですぞ。ダンジョンマスターの適性を持った人間が現れるまで、我はどれだけ待ち続けたことか。我が見出したダンジョンマスターこそが、プリンセスだったというわけなのです」
僕とバトラーの二人から飛び出た言葉に、高志さんは目を丸くして後退っていた。
驚くのも無理はないよね。だって、どう見たってモンスターである僕が、自分と同じ人間だっただなんてね。
僕のいるボス部屋の中は、まるで時が止まったように静かになってしまっていた。




