SCENE039 イレギュラーな訪問者
ぞわっ……。
なんだかいつもと違う感じがする。
なんだろう、ダンジョン管理局の人とも衣織お姉さんとも違う感じがした。
「この感じ、探索者ですな。ですが、特に悪意のようなものは感じられません」
「そうなんだ。バトラーがいうのなら信じようかな」
僕はよく分からないので、ひとまずその言葉に信じて気楽に構えることにした。
ところが、しばらくしてバトラーの様子に変化が現れる。
「おかしいですな。キラーアントたちが反応しておりませんな」
「えっ?」
バトラーの言葉に、僕は思わずびっくりしてしまう。
一階層から二階層に降りる階段の直前に小部屋があって、そこにはキラーアントが十体待ち構えている。
キラーアントの名前の通り、好戦的なのが特徴なんだけど、そんなモンスターが反応していないというのだ。どういうことなのか、僕も不思議に思ってしまう。
しばらくすると、バトラーが睨むようにじっと部屋の入口を見つめている。
バトラーが見ている方向だけど、僕は何も見えない。だけど、何か魔力の塊のようなものを感じている。つまり、そこには誰かがいるということのようだ。
「何奴ですかな。プリンセスの部屋にこそこそと侵入するとはいい度胸でございます。このバトラーが成敗してやりましょう」
「わわわっ! お。俺は別に戦いに来たんじゃないよ。ちょっと話をしに来ただけなんだ」
バトラーのすごみが強かったせいか、何もないところから急に声が聞こえてきた。人がいるみたいだけど、なんか僕と性格が似てる感じかな?
でも、僕にはまったく姿が見えない。どうしたらいいんだろう。
「プリンセス、見えませんかな?」
「う、うん。魔力の塊があることはうっすら感じるんだけど、どんな人がいるのかまったく見えないよ」
「参りましたな。これは相当レベルの高い隠密スキルの持ち主ですぞ。ですが、この我、バトラーはごまかせませんぞ!」
僕が答えると、バトラーは困ったように喋っている。えっ、これってやっぱり僕のレベルが低すぎるせいなのかな。
「さっさとスキルを解除して、姿を見せなさい。さもなくば、プリンセスを害するものとして成敗いたしますぞ!」
「わわわっ、待って、待って! 今解除するから!」
バトラーが強く脅すと、目の前にいる誰かが大慌てになっているみたいだ。
見た目こそあまり強く見えないけど、バトラーは衣織お姉さんよりも強いからね。並大抵の探索者なら、ひとたまりもないと思うよ。
目の前に、すっと誰かの姿が見えるようになる。
なんともさえない服装をしているけど、まるで人間だった時の自分を見ているようだった。
「高校生かな、この感じだと」
「はい。今年十七歳になりました」
「僕より二つ年上かぁ。今日はどうしてここに?」
「えっと、あの、その……」
やっぱり、どことなく性格が僕と似てるなぁ。質問をしたらしどろもどろになってるや。
「プリンセス、あまり男性をじろじろと見るものではないですぞ。ご自身の姿を今一度ご確認ください」
「へ?」
僕はバトラーから注意されてしまう。
あっ、そうか。今の僕って女だったんだ。
確かに、女の子からじっと見られると、僕もなんだか恥ずかしく感じてたっけ。なるほどなるほど、気をつけなくっちゃ。
僕は目の前の人物をじっと見つめることをやめた。
その時だった。
どこからともなく着信音が聞こえてくる。
僕の携帯電話はまだ衣織お姉さんに預けたままだ。となると、目の前の人の携帯電話かな?
その通りだったみたいで、目の前の人は携帯電話を取り出して誰かと話をし始めた。
『下僕、目的のダンジョンに到着しましたの?』
いきなり威圧的な声が聞こえてきた。
というか、スピーカーモードでもないのに音が僕のところまで聞こえてくるってどういうことなの?
「はい、今到着したところです」
『そう、ならば、しっかりとあたしの言葉を伝えておやりなさい』
「は、はい」
なんだろう。目の前の人は、電話の向こうの人のいいなりみたいだ。
僕はどういうことなのか分からないのでバトラーに意見を求めようとすると、バトラーの表情が険しくなっていた。
「わわっ。どうしたの、バトラー」
「この声、聞いたことがありますな」
「えっ?」
僕はびっくりしてしまう。
「そこな少年。通話相手は、セイレーンですな?」
「えっ!?」
僕と目の前の人が同時に驚いている。
『あら、この声はバトラーですわね。懐かしいですわ。二度くらいしかお会いしてませんけれど、よく覚えておりますわよ』
どうやら、バトラーの指摘は正解のようだった。
「どうして、ダンジョンマスターであるあなたが、そのような通信手段を持ち得ているのですか」
『あら、あなたにそんなことが関係ありまして?』
バトラーの言葉に、セイレーンと呼ばれた女性が言い返している。
『あたしはただ、そこのダンジョンのマスターとお話がしたいだけですね。つべこべ言わず、下僕の持っている板を受け取りなさい』
「……いやですね」
『なんと仰りました?』
命令口調で言われていて、僕が簡単に従えるわけがなかった。
なんでか知らないけれど、無性に腹が立ってしょうがないんだもの。
「携帯電話なら、スピーカーモードがありますからね。いちいち手に持たずとも通話できます。みんなでお話をしましょう」
とにかく状況がよく分からないんだけど、相手のペースに乗るわけにはいかない。
僕は抵抗して、テーブルを囲んで全員で話をすることにしたのだった。




