SCENE038 少年の淡い思い
ああ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
俺は横浜ダンジョンから無事に生還したはいいものの、どうしたらいいのか迷っていた。
横浜ダンジョンのボス部屋にたどり着いてしまった上に、そこのダンジョンマスターから取引を持ちかけられてしまった。
あまりにも怖くてオーケーしてしまったものの、ダンジョンマスターの様子を配信するとしてもどうしたらいいのだろうか。
「はあ、こんな面倒なこと、誰にも相談できないや。とりあえず、ダンジョン配信のためにアカウントは取っとかなきゃいけないよね。となると、俺とあのセイレーンとかいう子と連絡を取るための携帯も必要かな。一応ダンジョンの産物をもらったけど、どう説明したらいいんだろう……」
俺はずっと悩んでいた。
とりあえず、セイレーンっていう子にもらった素材を売りに、ダンジョン管理局へとやってくる。
こんな俺のために、自分のうろこを一枚配で渡すなんて、よっぽど俺に何かを期待しているってことだよね。
「はい、次の方」
あっ、俺の出番が回って来ちゃった。
俺はとにかく素材を換金するため、カウンターに向かう。
「えっと……?」
なんだろう、受付の人がきょろきょろしてる。
……あっ、そういえばセイレーンっていう子が言ってたっけか。俺にはレベルの高い隠密スキルがあるって。そのせいで受付の人から俺が認識できないんだ。
俺は深呼吸をして、スキルの解除を試みる。
なんでそうなるかって?
俺の子のスキルは今までほぼ無意識だったんだ。あの子に気付かれたおかげで、俺は自分のスキルをようやく認識できたんだよ。
「あっ、そこにいらしたんですね。どこにいらしたんですか」
「……ずっといました。俺ってどうも影が薄いらしくって、なかなか気づいてもらえないんです」
「そ、そうですか」
受付の人が戸惑ってる。なんか変なこと言ったかな?
「とりあえず、何のご用でしょうか」
「あっ、素材の換金です。これ、査定して頂けるでしょうか」
「えっと……、これは?」
俺が差し出した素材に、受付の人がぎょっとしている。
「魔物のうろこです。横浜ダンジョンで拾いました」
「そ、そうですか。では、査定にかけますね」
受付の人が奥へと入っていく。
ところが、しばらくして俺は、管理局の奥へと呼ばれることになってしまった。
「君、これはどこで手に入れたのかな?」
なんか疑われているっぽい。
「ダンジョンで拾ったんです」
「嘘はいけないな。これは今まで誰も見たことのないうろこだ。どこで手に入れたか、もう一度聞かせてもらおう」
ものすごい圧力がかかる。俺は思わず吐きそうなくらいのプレッシャーを受けている。
どうしよう。これは正直に言った方がよさそうな気がする。
なので、セイレーンには悪いと思ったけど、正直に話をすることにした。
「なんと。無意識のスキルを使っている間に、横浜ダンジョンのボス部屋にたどり着いたと……」
「はい。ダンジョンマスターであるセイレーンという方からもらいました」
管理局の人たちが顔を見合わせている。やっぱり疑われているんだ。
「どうしましょう。これは大ごとですよ」
「そうだな。大々的に公表してしまった方がいいかもしれないな」
「だ、ダメです!」
俺はつい大きな声で叫んでしまっていた。
「どうしてかな?」
「うろこをもらう代わりに、俺に時々来るように条件を突き付けてきたんです。俺なんか一瞬で殺せるはずなのに、それをしないで……」
俺はがたがたと体を震わせている。
「なるほどな。偶然たどり着いた君を、なんらかの意図があって利用しようというわけか」
「はい、おそらくは。それに、俺には必ず一人で来るようにとまで条件を付けてきました。ですので、管理局の方々の同行もダメだと思います」
「ふむ……」
考え込んだ管理局の人は、しばらくして膝を叩いていた。
「よし、分かった。これは査定が出るまで少し時間をもらおう。査定が終わり次第、お金はすぐに振り込ませてもらう。君はそのセイレーンとかいうモンスターの言う通り、これからも横浜ダンジョンに潜り続けてくれ」
「は、はい。よろしく、お願いします……」
「はっはっはっ、それはこちらのセリフだな。なんにしても、前人未到の横浜ダンジョンのボス部屋に初めてたどり着いた人間なんだからな。必要なものがあれば用意はさせてもらおう」
「あ、それだったら……」
管理局の人がいうので、俺はあるものを用意してもらった。もちろん、何も仕込んでいない普通のものを。
それから数日後、俺は再び横浜ダンジョンに潜っていた。
「あら、下僕じゃないの。よく来ましたわね」
「はい。しかし、俺の隠密をよく見破れますね」
「それはもちろん、あたしがエリートだからですわ。最大レベルであっても、見破ってみせますわよ」
セイレーンさんは相変わらず自信家のようだ。
「それはそうと、今日は何の用ですの?」
「はい、先日いただいたうろこのお礼に、携帯電話というものをプレゼントさせてもらいに来ました」
「まあ、それは下僕が持っている変な板と同じものですわね」
「ダンジョン内で使えるものですから、マナがあれば使いたい放題ですよ。俺と連絡を取ることもできますし、気にしていらっしゃるウィンクとかいうダンジョンマスターの配信を見ることもできますよ」
「あら、気が利くじゃないの。シードラゴン、受け取って参りなさい」
セイレーンさんは、執事のシードラゴンさんを使って、俺から携帯電話を受け取っていた。
その後は、使い方を教えることとなったんだけど、思った以上に時間がかかってしまったみたいだ。
「ふわぁ……」
「あら、眠たいのですね。それでしたら、休んでいくといいですわ。下僕であろうと優しくするのが、あたしのモットーですからね」
「あ、ありがとうございます」
セイレーンさんは思ったより優しかった。
モンスターって怖いイメージばかりがあったけれど、俺はセイレーンさんの優しさに触れて、認識を改めることになったみたいだ。




