SCENE032 水辺には水のモンスター
あたしは横浜ダンジョンのダンジョンマスターのセイレーンですわよ。
あたしは水を操るモンスターでしてね、今日もゆったりとお風呂につかりながら間抜けな探索者たちの様子を眺めていますの。
あたしのいるダンジョンはかなり複雑でして、全部で十階層になっている上に、ダンジョンのあちこちが定期的に組み変わるダンジョンを仕掛けていますのよ。
これでもあたしは異界の貴族でしたからね。お金をじゃんじゃんつぎ込んで、ダンジョンを最初から大きくしておきましたわ。
死なれても困るからってことで、奮発して復活装置をつけてあげましたわ。復活するにしてもダンジョン内で死ねば、それだけポイントを回収できますもの。二割くらい復活手数料で持っていかれますけどね。
あははっ、今日もおまぬけな探索者がダンジョンで死んでくれましたわ。
どれどれ、1600ポイントか、ケチですわね。
勝手に組み変わるダンジョン、強い徘徊モンスター。これだけいればあたしは安全。ここには誰もたどり着けないわ。
はあ、異世界に呼び出されて文句を言っていたけれど、こんな楽な生活なら悪くはないわね。
「セイレーン様、ダンジョンポイントランキングでございます」
「あら、シードラゴン。何か変わったことでもあったのかしら?」
「は、はあ。まあとにかくご覧くださいませ」
あたしの気分を害したこいつは、サポートをするっていう執事のシードラゴン。見てくれは悪いけれど、火、水、氷の三属性を操るなかなかな能力の持ち主でしてよ。もちろん、あたしには敵いませんけれど。
「おーっほっほっほっほっ。やはり買収しただけあって、回収ポイントとは圧倒的ですわね」
シードラゴンが差し出した光る板を見ながら、あたしはつい高笑いをしてしまいますわ。だって、二位のダンジョンに一桁以上の差をつけているんですもの。こんな爽快なことはありませんわ。
やはり、死んでも復活できるというのは大きいですわね。そのおかげで無茶をする探索者たちが死にまくってくれますから、それだけでポイントはがっぽがぽですわよ。
ですけれど、シードラゴンの表情が曇っているのが気になりますわね。
「シードラゴン、あなたは何が気になっているのかしら」
「は、はい。注目ダンジョンというものをご覧くださいませ」
「は? まあいいですわ。あたしのダンジョン以上に注目を集めているダンジョンなんて……。なんですの、これ」
あたしの目に飛び込んできたのは、新参者のくせにトップ10にめり込んできているダンジョンの名前だったわ。
「ウィンクスダンジョン? なにこれ、デフォルトネームかしら」
「そのようですな。ダンジョンマスターの名前だけが登録された状態のようでございます」
「ふむふむ。にしても、なんですの、このポイントは……」
あたしは目を疑いましたわ。ダンジョンの発生から三十日も経っていませんのに、獲得ポイントが既に10000を超えてしまっていますのよ。
しかも驚くことに、死者数0という不可解な現象が起きていますわ。
探索者を殺すことが一番ポイントが大きいですのに、何をしたらこんなにポイントが貯まるのかしら。おかしな話ですわ。
「シードラゴン、このダンジョンのダンジョンマスターの種族は?」
「はい。異界のダンジョン管理システムによりますと……ラミアプリンセスだそうです」
「ラミア……。なるほど、魅了の力でポイントを稼いでいるというわけですわね。しかし、新規ダンジョンでそんなに敵がやってくることは考えられませんわね。どうやって稼いでいるのか分かりますの?」
「それが、魅了としか出てこないのでございます。ラミアの種族特性を使っているのは間違いありませんが、どうすればそんなに稼げるのか、さっぱりなのでございます」
「……目障りね」
あたしは一気に不快になりましたわ。
種族特性を使っているにしても、どうやって魅了をばら撒いているのか、それが分かりませんもの。不気味以外のなにものでもありませんわ。
あたしの種族であるセイレーンも魅了系のモンスターですけれど、そもそもここまで探索者が到着できませんから、使う機会がありませんわ。
「調べてみようにも、互いのダンジョンは基本的に接触できませんからね。モンスターはダンジョンから外には出られませんし、特にダンジョンマスターともなりますと、自分のダンジョン以外に移動することができませんからね」
「不便ですわね。ダンジョン同士で移動できるのでしたら、どうやって稼いだのか脅してでも聞き出してやりますのに……」
あたしはとにかく気分が悪くて仕方がありませんわ。
「シードラゴン」
「はい、何でしょうか、セイレーン様」
「管理システムに干渉して、このウィンクスダンジョンの秘密を探って下さいな」
「え、ええっ?!」
何をそんなに驚いていますのよ。あたしの忠実な部下でしょう。このくらいできて当然ですわよね?
あたしがじっと睨みつけていますけれど、シードラゴンは躊躇していますわね。
「あたしの命令が聞けませんの?」
「めめめ、滅相もございません。承知致しました。なんとしても探って参りましょう」
「頼みましたわよ」
あたしが命令すれば、シードラゴンは渋々と姿を消していきましたわ。
それにしても、ラミアプリンセスのウィンクですか。
このあたしの気分を害した罪、必ず償わさせてあげますわ。覚悟なさい。




