SCENE030 本格的な魔法
ダンジョンの拡張については、日を改めて谷地さんたちと相談することに決めた。
今日は誰もダンジョンにやって来ない日なので、僕は久しぶりにバトラーと魔法の特訓をしている。
「ねえ、バトラー」
「なんでしょうか、プリンセス」
「僕って、どんな魔法が使えるのかな?」
気になったので、バトラーに使える魔法のことを聞いてみている。
「魔法の種類のことはご存じですかな?」
「あ、それは大丈夫。学校の授業でやるから」
「左様でございますか。では、それを前提として話をさせていただきますね」
僕の答えを聞いた上で、バトラーは魔法について教えてくれた。
ダンジョンに満ちているマナの影響を受けて、僕たち探索者っていうのは、いろんなスキルを身に付けることができるんだ。
その中のひとつが魔法。
ゲームでよくある設定と同じで、基本的には火、水、風、土、雷、氷、光、闇、それと無属性っていう九つの属性が存在している。
最初にバトラーから魔法を教えてもらっていたから、僕は改めて確認をしているというわけなんだ。
「ラミア族の基本的な属性は、氷と闇ですな。特に魅了という精神に作用するスキルを持っていますので、闇属性との親和性が高いのでございます」
「へえ、そうなんだ。闇ってどんな魔法があるの?」
興味津々に僕はバトラーに質問している。
「闇は攻撃魔法と状態異常を引き起こす魔法がメインですな。もちろん、その気になればそれ以外の魔法も使えるようになります。要はイメージですな」
「そっか、イメージでどうとでもできるんだ」
「はい、左様でございます」
なんだか分かったような分からないような不思議な感じがするなぁ。
「まあ、まずはやってみることとしましょう。基礎的な魔法は大体教えましたからな」
バトラーはそう言うと、僕にダンジョンコアの設備購入でデコイを購入するように言ってきた。
デコイっていうのは、つまりは的のようなものらしい。それを使って、実際に魔法を見せるということのようだ。
僕がデコイを購入すると、ボス部屋の中にポツンと真っ白な人形が出現した。よく見ると、足元が地面に突き刺さっている。
「なんか変な人形だね」
「ええ、これがデコイというものでございます。状態保存の魔法がかかっておりましてな、どんなに壊そうとも、周囲のマナを吸収して完全修復してしまうという優れモノなのです。新しいものを試す時には、ぜひともお使いください、プリンセス」
「……だったら、最初からこれを使っていればよかったのでは?」
僕は素朴な疑問が浮かんできた。
ところが、バトラーからは笑い声と共に反論が返ってきた。
「よく見て下さいませ、プリンセス。このデコイのポイントを」
「え?」
僕が改めてデコイのポイントを確認する。見た瞬間、目が飛び出ちゃうかと思ったよ。
「ご、5000ポイント?!」
「左様でございます。完全修復機能が備わっておりますゆえに、この大きさでもかなりの高額となっておるのです。今までのプリンセスでは、とても扱えないものでございますね」
「わ、分かったよ。今まで出せなかった理由はよく分かったから、それ以上言わないで……」
バトラーにはっきりといわれてしまって、僕は思わず耳を塞いでしまっていた。
このデコイはとても便利そうだけど、500万ポイントまでまた遠のいちゃったよ。もう、どうしたらいいんだろう、僕。
「まあ、プリンセスの頑張るところを見せつけてやればいいのです。視聴者という者たちを魅了できれば、それだけダンジョンポイントが加算されるのですからな」
「うん、頑張るよ」
バトラーの言う通りなので、僕はもうただ従うことにしたよ。
気を取り直して、僕は魔法の練習をすることにする。
「バトラー」
「なんでしょうか、プリンセス」
「魔法ってイメージでいいんだよね?」
「左様ですぞ。どのような魔法が使いたいのかイメージをして下さい。そうすれば、発動のキーワードが浮かんで参りますので、それを口にすればよいのです」
「うん、ありがとう」
改めてバトラーに確認をして、僕はデコイに向けて魔法を使おうとする。
使える属性は氷と闇らしいので、ひとまず漆黒の槍のようなものをイメージしてみようっと。
体に巡るマナを感じ取り、右手を前に出して構えると、力を込めて漆黒の槍を思い描く。
しばらくすると、手のひらが熱くなってきて、何かが頭に浮かぶ。その言葉を僕は叫んでみる。
「シャドウランス!」
それと同時に、僕の手のひらから真っ黒な魔力が飛び出して、デコイに突き刺さった。
「やった。僕、攻撃魔法が使えたんだ!」
デコイに突き刺さった真っ黒な魔力の塊に、僕はものすごく興奮している。
「おお。初めての攻撃魔法にしては、ずいぶんとしっかりとした魔法ですな。ようやく基礎から脱出できたようで、我も嬉しいですぞ」
「わわっ、バトラー。泣かないでよ」
「いえ、これが喜ばずにいられましょうか。プリンセスの成長は、我の喜びなのですからな」
「もう、大げさだよう……」
どこからともなくハンカチを取り出して涙をぬぐうバトラーに、僕はなんだか恥ずかしくなってきてしまう。
でも、できればダンジョンマスターっていうモンスターじゃなくて、探索者として能力に覚醒してみたかったな。
どことなく心がチクチクとするものの、とりあえずは魔法を使えたことを素直に喜ぶとしようかな。




