SCENE002 ダンジョンとは
それにしても、なかなか浮いた服装な気がする。
僕の体は女性になってしまった上に、下半身は蛇の状態だ。ここに来る時に着ていた服は、よりにもよってカッターシャツ。裾がだらんと垂れ下がって、なんとも僕は落ち着かなかった。
「う~ん。僕が女性になったというのなら、ちゃんとした女性の服に着替えた方がいいのかな……」
僕はこんな言葉を漏らしているけれど、実は抵抗があった。なにせ僕は男の子だからだ。
体が女性になったとはいっても、やはり意識はまだ男だもん。女性用の服を着ることにはどうしても抵抗があるというものだ。
「ああ、それでしたら、ダンジョンのポイントを貯めれば解決できるかと」
「なにそれ」
バトラーと名乗った蛇頭の執事風の人が、僕によく分からないことを伝えてくる。
僕は人間だったので、探索者として潜る側だ。なので、探索者側のシステムはよく分かっているんだけど、ダンジョンマスターのことは何も知らない。
知っていることは、ダンジョンの核となるコアを守っているということくらいかな。
ひとまず僕は、バトラーにダンジョンに関することをひと通り聞いてみることにする。
「よろしいですとも。このバトラーがプリンセスのためにお教えいたしましょう。補佐として派遣されたのですから、その辺りのことはばっちりでございますからな」
ノリノリな感じで、バトラーはダンジョンの仕組みについて教えてくれた。
ダンジョンというのは、異世界の空間から漏れ出たマナというもので形成されるらしい。
そのダンジョンがどういうものになるかということを決定づけるのが、ダンジョンマスターという存在らしい。
異世界との接点ともいうべき物質で、このダンジョンの維持に必要なものがダンジョンコアというものなんだとか。当然ながら、そのコアを壊されると、ダンジョンは崩壊する。
ダンジョンが崩壊すると、中にいたモンスターたちがどうなるかは、マスター次第なんだとか。
その時の選択肢としては、異世界に戻るか、ダンジョンと運命を共にするかの二種類なんだとか。なんとも極端な選択肢だと思う。
ダンジョンマスターというのは、ダンジョンの形を決定づけるだけじゃなくて、モンスターの運命をも握っている存在。
倒されればコアの隠された場所への扉が開くそうな。ちなみに、マスターであればコアのある部屋へは出入り自由なんだって。
ダンジョンマスターの裁量で、ダンジョンの規模、構造、配備モンスターの種類や数、トラップや宝箱といった様々なものが決められるらしい。
ただし、そのために必要になるのが、さっきバトラーが最初に話していたダンジョンポイントという制度らしい。
何かを設置するためには、そのダンジョンポイントを消費して呼び出す必要があるらしい。ダンジョンに必要なものはもちろん、服やテーブルといった雑貨類や食料もポイントを消費することで手に入れられる。
ふむふむ、つまりはダンジョン内で使えるお金のようなものといったところかな。
新たにダンジョンマスターになれば、その時点で1000ポイントが支給されるとのこと。
「ダンジョンポイントは、ダンジョンマスターにしか分からなくなっております。そして、ポイントを使うにはコアを露出させなければなりません」
「ふむふむ。で、そのコアはどうやれば呼び出せるの?」
バトラーの説明を聞いて、僕はまた質問を投げかけてみる。
「そのためには、マスターとして名前を登録しなければなりません。ユニーク個体ということになりますから、名前は必須なのです」
なるほどね。
「よし」
そこまで話を聞いたので、僕は名前を決めた。
「瞬の字は『まばたき』とも読めるらしいんだ。目を閉じる動作のひとつから、『ウィンク』っていうのはどうかな」
「おお、ウィンクですか。よろしいのではないでしょうか」
バトラーはよく分かっていないみたいだけど、喜んでくれている。
いい反応だったので、今日から僕はラミアプリンセスのウィンクと名乗ることに決めた。
「それではダンジョンマスターとして登録しますので、我のいう言葉を、繰り返して発言いただけますでしょうか」
「分かったよ。繰り返せばいいんだね」
「はい、その通りでございます」
僕が確認すると、バトラーはこくりと頷いた。
「それでは参りますぞ」
顔を上げたバトラーは、真剣な表情になる。
「ダンジョンの根源たるコアよ」
「ダンジョンの根源たるコアよ」
僕は一言一句間違えないように、しっかりと耳をすませながらバトラーの言葉を繰り返す。
「我はダンジョンマスター、ラミアプリンセスのウィンクなり」
「我はダンジョンマスター、ラミアプリンセスのウィンクなり」
「我の呼びかけに応え」
「我の呼び掛けに応え」
「今ここに、その姿を現せ!」
「今ここに、その姿を現せ!」
よし、間違えずにリピートできたぞ。
僕は心の中でガッツポーズをする。
詠唱を終えたというのに、何も起きない。
「あれ? 間違えた?」
「いえ、ちょっとお待ち下さい」
僕が腕を組んで首を捻っていると、バトラーは自信満々に答えている。
十秒くらい過ぎた瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……。
突然の地響きと共に、ダンジョンの床から何かがせり上がってくる。
四角柱の上部に丸い水晶が置かれた台座のようなもの。
「もしかしてこれが……」
「はい、ダンジョンコアでございます」
そう、これこそがダンジョンの生命線であるダンジョンコアだった。




