SCENE023 鬼百合の衣織
その日の私は、ダンジョンにこもっていた。
「はあっ!」
「ギャアアッ!」
大太刀を振るい、モンスターを一刀両断していく。
ここは日本にある複雑なダンジョンのひとつ、横浜ダンジョンだ。
厄介極まりないのが、区画ごとに滞在する人数が0になると、その区画のダンジョンが組み変わるというシステムだ。
おかげで多くの探索者がその犠牲となっている。それでも潜入する人が絶えないのは、死んでも入口に復活できることと、手に入る素材が高額で取引できることにある。
まったく、気味の悪いダンジョンだ。
「ははっ、衣織さんってば今日も素晴らしい活躍ですね」
「このくらい、私にとっては朝飯前。だが、今日も最奥にたどり着くのは不可能なようだな。まったく、入るたびにダンジョンの内部構造が変わっている。実入りのことを考えないと、こんなダンジョン、来るメリットもない」
「ですな」
私はダンジョン探索者のギルドのメンバーと話をする。ダンジョンを攻略し尽くすという目的のためだけに結成されたギルドだ。
今日の私に同行しているのは、影家色とかいうギルド一胡散くさい男だ。
ああ、私の名前を言っていなかったな。
私は石橋衣織という。二十歳になったばかりだ。
本来なら大学に行って勉強しているような年だが、探索者適性が高かったために、ダンジョンに潜る日々を続けている。
白い衣装を身にまとい、モンスターをバサバサと斬り倒す様子から、誰が呼んだか『鬼百合』という二つ名で呼ばれている。
「さて、今日はこのくらいにしておきましょうか。さすがに雑魚ばかりとはいっても、これだけあればそれなりの収入になるからね」
「まったく、この短時間でこんなによく狩れますね。配信すれば絶対にバズるでしょうに」
私が倒したモンスターを色に渡すと、文句は言わない代わりに小言を言ってくる。
配信というのは、ダンジョンに潜って活動している様子を視聴者に見せつけるダンジョンストリーマーというもののこと。
私は正直いって、その配信のことをよく思っていない。こんな死と隣り合わせのような場所での様子、不特定多数に見せつけられるかというものだ。
それに、私が配信していなくても、だいたい同行者の誰かが勝手に配信をしている。配信ドローンが増えると、それだけ邪魔になるからね。今回だって、色のドローンがさっきからずっと飛んでいる。だから、私は要らないと思ったんだ。
「まったく、衣織さんは素材換金だけで潤うからいいんですよ。俺のような探索者は、こういうのでもないと収入が少ないですからね」
「分からないね。モンスターを倒せるだけの腕を磨けばいいだろう?」
「それができれば苦労はしませんって。よし、荷物をまとめ終わりましたよ。今日は戻るんですよね?」
「ああ、地上に戻ろうか」
今回の討伐による収穫をまとめ終えると、私たちはダンジョンから脱出していった。
ダンジョン管理局によって、戦利品を監禁した私たちは、ギルドへとやってくる。探索者はダンジョン管理局への報告が義務付けられているが、ギルドの所属者はギルドにも報告を行う。
「おうおう、衣織に色か、よく戻ったな」
「ただいま戻りましたよ、マスター」
「ただいま戻りました、剛力さん」
私たちの目の前にいるのは、ギルドのマスターである剛力要さんだ。ちなみに、私のちょっとした親戚にあたる人で、その伝手で私はこのギルドに所属している。
「管理局から連絡が来てたよ。衣織が頑張るから、素材販売で潤っているってな。まったく、ギルドのマスターとして鼻が高い。がっはっはっ」
剛力さんは笑っているが、ずっと私を見ている。これは何か話がありそうだ。
「剛力さん、私に何か用ですか?」
「おう、分かっちまったか。最近、面白い配信が見つかってな」
「面白い配信?」
私はぴくりと反応する。なぜ反応したかは分からないが、私の勘が何かを告げているようだった。
「最近見つかったダンジョンらしくてな。そこはなんでも、空のダンジョンだった場所だそうだ。俺の言っている面白い配信ってのは、そのダンジョンからの配信なんだ」
「あれ? 無人ダンジョンってそういうこと許されてましたっけか」
「まあ、探索者なら百も承知よな。とりあえず、配信を見てくれ」
色も首を傾げる中、私たちは言われるがままに剛力さんが見つけた配信を見せつけられる。
『こんにちは、みなさん。ダンジョンマスターのウィンクです』
その一声で、私たちは大きく驚かされてしまう。
「マスター、これって……」
「その通りだ。世界初のダンジョンマスターによる配信だよ。それで、ダンジョン管理局から……、おい、衣織?」
私は配信を一目見た瞬間、体中に電流が駆け巡った気がした。
「か、可愛い。この子、ダンジョンマスターなの?」
「あ、ああ。ラミアプリンセスって種族らしい。一緒にいる蛇顔の執事が『プリンセス』って呼んでるそうだからな」
「なるほど……。ダンジョン管理局からの仕事、このダンジョンのことなら引き受けましょう。なんだろう、この子は守らなきゃいけない気がする」
「お、おい、衣織……」
私の興奮した様子に、剛力さんたちが困惑している。
だけど、私のはこのウィンクという子に、一目でハートを射抜かれてしまったみたいだ。
モンスターといえば倒すべき相手なのだが、このきゅるんとした可愛い瞳に、私は一瞬でとりこにされてしまった。
「ま、まあ。話が早くて助かる。今から返事をすれば、すぐにでも管理局の連中が来るだろう」
「ええ、できれば早めに」
私がかぶせるように返事をすると、剛力さんはやれやれといった様子で携帯電話に手をかけていた。
ふふっ、ウィンクちゃんか。すぐに会いに行くから、待っててね。
すでに私は舞い上がってしまっていた。




