SCENE019 謎だらけの現実
落ち着いた僕は、早速電話をかけてみようと携帯電話を見てみる。
そこで、僕は思わず絶句してしまった。
「あ、圏外……」
なんとかぽつりと呟いたけど、そう、ダンジョンのボス部屋だと携帯電話が通じなかったんだ。
「ドローンで配信はできるのに、なんで?!」
驚きに混乱していると、バトラーがひょっこりと現れて僕に声をかけてきた。
「どうされたのですか、プリンセス」
「うわあっ! ……びっくりした、バトラーか」
「まったく、大声を出されるとはこちらが驚きますぞ」
僕の驚きの声に、バトラーが耳を押さえている。そのくらい声が大きかったらしい。
だって、急に後ろから声をかけるんだもん。びっくりして当然でしょうに。
「プリンセスの声は大きいですな。若いというのはいいですな」
「バトラー、あなたは一体何歳なんだよ……」
「モンスターに年齢という概念はありませんぞ、プリンセス。ただ、我はそれだけ長くを生きているのです」
「そ、そうなんだ」
「はい、モンスターというのはマナの中から突如として生まれる存在。生まれた時の姿のまま、倒されるまで永遠を生きるのです」
「そうなんだ。年を取らないっていうのは羨ましいな。人間って長くても百年くらいだし」
「いやはや、プリンセスもそういう概念の持ち主ですか。長く生きるというのは時につまらぬものです。プリンセスが来られるまで、我は本当に退屈でしたからな」
「そういうものなんだね。モンスターって謎が多いなぁ……」
バトラーから聞かされた話に、僕はほへーっとちょっと間抜けた顔をしてしまう。
ダンジョンが地球に出現してから十年以上経つけれど、分からないことが多すぎるもんな。多分、ダンジョン管理局のあの人たちもあんまり知らないんだろうな。
僕がモンスターとなったことで分かったことがたくさんあるけど、どこまで教えていいものなんだろうか。つい考え込んでしまう。
「それはそうと、プリンセス。先程、何を悩んでられたのですか?」
「あ、うん。これ、昼に妹の瞳から渡された携帯電話なんだけど、圏外で使えないみたいなんだ。どうしてなのかなって思って」
「ほうほう、これは面白い板ですな。時にこの真ん中の数字は何ですかな?」
バトラーは携帯電話に表示されている数字を見ている。そっか、モンスターに時間の概念ってないんだっけ。さっきの話からするとそうなんだろうな。
「これは今の時間を表示しているんだ。19:38って書いてあるから、今は外は夜ってことだね」
「そうなのですか。今の時間を知れるとは、これは面白いものですな」
「やっぱり、モンスターって時間に疎いんだ」
「そうですな。ダンジョンの中は、時間の流れというものが分からぬものです。どのような時間でも、環境が変わりませんからな」
確かにそうだ。ダンジョンの中は常にほんのり明るい。よく思えば気温もほぼ一定。やっぱり、ダンジョンって違った世界なんだなって思わされる。
「それで、先程の件ですが、配信して尋ねてみてはいかがでしょう。我よりは配信の向こう側の方々の方がご存じでしょうから」
「あっ、そうだね。配信用のドローンはここでもちゃんと動くもんね」
バトラーに言われて、僕は早速配信用ドローンを起動して配信を行うことにする。
そういえば、このドローン、一回も充電したことないけどよく動いてるよね。これも僕の知らない技術が使われているのかな。
まあいっか、視聴者さんたちに聞いてみよう。
「こんにちは、ダンジョンマスターのウィンクです」
『ウィンクちゃんだ』
『こんらみあー』
『どしたん、こんな時間に』
視聴者さんたちは、こんな時間でも反応してくれている。嬉しいな。
『あ、服が変わってる。その格好も可愛いな』
「えっ、本当ですか? バトラーに言われて、思い切って変えてみたんですよ」
『うんうん、似合ってる』
『バトラーさん、グッジョブ』
あれ、今僕なんて言ったんだろ。女の子の服を着た状態で褒められて、僕、喜んじゃってる?!
……段々と女の子になってきてるってことなの?! 複雑だなぁ……。
まあ、今はそれはいいや。質問をしないと。
「こんな時間に配信するのは、みなさんにちょっとお聞きしたいことがあるからなんです」
『おっ、なんだなんだ?』
『答えられる範囲なら答えるぞ』
視聴者さんたちは優しいな。
「実は、妹から携帯電話を届けてもらったんですけど、圏外で使えないんですね。ドローンで配信はできるのに、どうしてかなと思って」
『携帯見せて?』
「はい、これですね」
視聴者さんからの言葉で、僕は携帯電話を見せるとすぐに反応があった。
『あー、それだとダンジョン内じゃ使えんわ』
『そやね。マナ対応してない機種だ』
「えっ、そんなのあるんですか?」
『今配信に使っているドローンは使えてるやろ? それがマナ対応しているってことなんよ』
『マナ対応していると、ダンジョン内のマナを電力に変えて動かせるし、電波を伝えることができるんだよね』
『仕組みは分からんけど、すっごい技術だよな』
「そうなんですね! みなさん、物知りなんですね」
視聴者さんたちからすぐに答えが返ってきたので、僕はすごくびっくりしている。バトラーの言った通りだよ。
「でも、ダンジョンの入口まで行かないと、この携帯電話使えないってことなんですね。せっかく妹が持ってきてくれたのに」
『ウィンクちゃんって、妹居たんやね』
「はい、両親と僕と妹の四人家族ですよ」
『ウィンクちゃんの妹さんかぁ。なんだかよく似てそう』
「はい、僕とよく似てますよ。探索者適性があるので、再来年にはここに来れるとは思います」
『二年は長い』
「見かけたら仲良くしてくださいね。僕の大切な妹なので」
『了解』
『ウィンクちゃんの頼みじゃ、断れないね』
この日の配信は、僕の質問から始まって、世間話をして終わった。
視聴者さんたちのおかげで、この携帯電話が使えない理由が分かったし、今度谷地さんたちが来た時にどうにかできないか聞いてみようっと。
すっきりした僕は、その日はぐっすりと眠りにつけたのだった。




