SCENE016 妹に会える
僕がバトラーに魔法の稽古をつけてもらっている時だった。
「あっ、誰かまた来ましたね」
「そのようですな」
ダンジョンに誰かが入ってきたことを感じて、僕たちは一度稽古を中断する。
入口までやって来ると、そこにはダンジョン管理局の谷地さんと日下さんが立っていた。
「あれ、どうしたんですか?」
僕は走って近付いていく。とはいっても、下半身は蛇の体なので、走っているとはとても言える状態じゃなかった。
「こんにちは、ウィンクさん。ご報告があってやって参りました」
「そうですか。では、こちらの部屋でお伺いしますね」
僕は入口のすぐ脇に作った部屋に、二人を案内する。
この部屋は、ダンジョン管理局の人たちのために用意した部屋だ。ダンジョンの中のマナ濃度の変化などいろんなことを調べてもらおうと思ったのだけど、今のところはまだ空っぽなんだよね。
「この部屋、いつになったら使っていただけるんですかね」
「すまない、上司の許可がなかなか下りなくてね」
「私たちとしては、すぐにでも使いたいのですが、モンスターの言うことだから、信用できないの一点張りなんですよ」
「ああ、それは分かりますね。僕もダンジョンマスターになる前は、モンスターなんて怖いだけの存在でしたから」
僕たちは話をしながら、部屋の中にポツンとあったテーブルセットに腰掛ける。下半身が蛇だからといっても、ちゃんと座れるからね。
ちなみにこのテーブルセット、いつまで経っても部屋の中に何も増えないから、僕がこっそりダンジョンポイントを使って増やしておいたんだ。ついでに寝泊まりするための部屋も追加しておいた。
貴重なダンジョンポイントではあるけれど、このくらいの投資はしてもいいよね?
「分かりました。調査の準備ができるまでの間、僕もこのダンジョンをもっといじっておきます。このままじゃ人が来ても面白くない状態ですからね」
「ええ、お願いします」
ひとまず、ダンジョンの調査の話はここで終わってしまった。
けど、二人の話はどうもこれだけじゃないらしい。
「三枝瞬くんのご家族と会ってまいりました」
「本当? お父さん、お母さん、それに瞳は元気にしてましたか?」
谷地さんが切り出した内容に、僕はぱあっと表情を明るくする。だって、久しぶりの家族の話なんだもん。楽しみになるに決まってるじゃないか。
「父親には会えませんでした。ご不在だったようですのでね」
「そうですか。まあ、働いてますからね。しょうがないですよ」
僕のお父さんは探索者適性のない普通のサラリーマンだ。日中は会社に出向いて仕事をしているから、訪問の時間によっては会えないのは仕方がないもん。
でも、お母さんと瞳には会えたみたい。なので、僕はどういう感じだったのか詳しく話を聞くことにした。
「ダンジョンマスターになったことに酷くショックを受けていたようですね。もう会えないのかと」
「そうですか。そうなりますよね……」
ショックを受けていたという話は、僕にも強いショックを与えていた。
改めて、僕は住む世界が違う存在になっちゃったんだなと思い知らされる。
「お母さんも探索者適性がないですけど、瞳にはあります。でも、今は中学一年生。会うとしても、最短で二年後かぁ……」
妹の瞳に探索者適性があることを思い出したけど、今の学年を思い出して、僕は改めて落ち込んでしまう。
瞳は僕にはとても懐いていたから、行方不明で心配をかけた上に、二年間会えないとなると心配になってきてしまう。
「う~ん、どうにか今すぐにでも会うことはできないですかね……」
僕は腕を組んで悩み始める。
だけど、すぐに日下さんが提案をしてくれた。
「探索者適性のないご両親は厳しいかと思いますが、妹さんでしたら入口まで来て頂いて、ダンジョンの外と中でお話をして頂くということはできると思います。ただ、十三歳ということを考えると、よくない影響は考えられますけれどね」
「リスクがありますよね、どう考えても」
日下さんは提案しながらも、僕の妹のことを案じてくれている。
マナの研究についてはまだまだ調査途中ではあるものの、いろいろと分かっていることはある。
それによって定められているのが、ダンジョン探索は十六歳からというダンジョン管理法の規定だ。
小さい頃にダンジョンに入ってしまうと、マナの影響を強く受けてしまう。それによって精神異常が起きたりだとか、モンスターのような奇形になるとか、そういう研究結果が出ているくらいだよ。なので、妊娠をした女性も入れないことになっている。
瞳はまだ十三歳と悪影響を受けかねない年齢。だから、管理局の人たちが心配しているというわけなんだ。
だけど、さすがに家族が引き離された状態は良くないということで、二人の権限で今度瞳をダンジョンの入口まで連れてきてくれることになった。
でも、大丈夫かな。お兄ちゃんである僕がこんな姿になってしまっていると知って、驚かないかな?
僕は心配しているのだけど、谷地さんたちは、僕の姿をすでにお母さんと瞳には見せてしまっていたそうだ。それで、僕だということを認めたらしく、心配はないということ。家族ってすごいな。
「では、今度の学校がお休みの日に、瞳さんを連れてこちらを訪ねさせて頂きますね」
「はい、妹のこと、よろしくお願いします」
話がまとまったので、僕は谷地さんと日下さんを見送る。
久しぶりに妹と直に会えることになった。
僕は嬉しくて、その日はついつい嬉しくてなかなか寝付けなかった。




