SCENE143 景品が届いたよ
僕が衣織お姉さんに頼みごとをしてから一週間が経った。
この日、衣織お姉さんがダンジョンへとやって来た。
「よう、瞬」
「衣織お姉さん」
「お久しぶりです、衣織様」
衣織お姉さんが挨拶をしてきたので、僕とラティナさんが挨拶をして迎える。
僕は衣織お姉さんが紙袋を持っていることに気が付いた。なんだろう、これは。
「ねえ、衣織お姉さん。それ、何?」
僕は思いっきり尋ねてしまう。
僕の視線と指先が向く方向に気が付いて、衣織お姉さんはにこりと笑っている。
がさがさっと紙袋を持ち上げて、じっと僕を見つめてくる。
「ああ、これな。バトラーにテーブルを出してもらって、そこで中身を教えることにするよ」
衣織お姉さんはにこやかに笑ったままで、結局すぐには中身について教えてくれなかった。
僕もラティナさんも、不思議に思って首を傾げてしまっている。けれど、衣織お姉さんが中身を明かすタイミングを提示してきたので、僕たちは何も言わないでバトラーに声をかけることにした。
バトラーが用意してくれたテーブルと囲みながら、バトラーが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
だけど、衣織お姉さんはすぐには話を始めてくれなかった。僕たちはじっと衣織お姉さんを見つめているけれど、やっぱりにこにこと笑っているばかりだった。
「ねえ、衣織お姉さん」
「なんだい、瞬」
しびれを切らした僕が話し掛けるも、衣織お姉さんはやっぱりにこやかにするばかりで、どこかごまかすような反応だった。
「テーブルを囲んだんだから、いい加減にそれの中身を教えてもらってもいいかな?」
僕はちょっと怒りながら衣織お姉さんを問い詰めている。
僕が怒っていることを感知したのか、衣織お姉さんの表情がちょっと曇った気がする。
そんな顔をするんだったら、さっさと話してほしいんだけどな、僕は。
僕がじっと見つめていると、いよいよ衣織お姉さんは話をしてくれる気になったみたいだ。
「いや、意地悪をするつもりはなかったんだがな。気分を害したのなら悪かったな」
衣織お姉さんは、謝りながら袋の中に手を突っ込んでいる。何が出てくるのかと思ったんだけど、袋から出てきたのは服だった。
「あ、これって……」
「そうだ。瞬に頼まれた景品用の服だよ。瞳に頑張ってもらったんだが、裁縫の腕前がとんでもないな」
「そっかぁ、瞳が作ってくれたんだ」
僕は目の前に出てきた服を見ながら感動していた。
「まあ、ウィンク様の妹君でいらっしゃる瞳様のお手製なのですか?」
ラティナさんも目の前の服を見て驚いているようである。
「ああ。瞬に頼まれてから一日かけて素材を集めて、それからダンジョン管理局に掛け合って部屋を用意してもらったんだ。だから、瞳に服を作ってもらった期間は四日間かな」
「四日間でこんなに作れるものなのかな。そういえば、僕の服も一日か二日で作ってなかったっけかな」
衣織お姉さんの話を聞いて、僕は驚くばかりだ。
でも、目の前にある服は実際にすごい仕上がり具合だった。男性用と女性用が二着ずつある。ただ、上半身の服ばかりだけど。
「ダンジョン管理局の人も驚いていたさ。この分なら、探索者にならずに素材加工のスペシャリストになれるんじゃないかってね。そりゃ大騒ぎだったぞ」
「へえ、それは見てみたかったなぁ……」
衣織お姉さんの話を聞いていて、僕はつい正直な感想を漏らしてしまう。
「仕立て屋となると、瞳が危険な目に遭いそうな可能性が低くなったってことだよね。これは喜ぶべきなのかなぁ」
「まあ、喜んでいいんじゃないかな。探索者としての適性は、潜ってみないと分からないしな。ただ、ダンジョンに潜れるようになる前に適性が判明するのは、なかなか稀有な例らしいぞ」
「それもそうだね。僕のダンジョンマスター適性なんかと一緒だね」
「確かに、それはそうですな」
僕たちの話に、バトラーが最後に混ざり込んできた。
「いやぁ、プリンセスがこのダンジョンに入ってきた時、我は実に喜んだものですぞ。待ちに待った、待望のダンジョンマスターでしたからな」
「十年だっけか」
「ええ、そうですとも。その間、我は一人でずっと待ち続けておりました。あまりの退屈さに冬眠すらしておりましたからな」
「気長だなぁ……」
バトラーの証言を改めて聞いて、僕はその忍耐強さに感心するしかなかったよ。
だけど、今はその話をしている時じゃなかったな。
「それじゃ、衣織お姉さん。この服はありがたく迷路の景品にさせてもらうね」
「ああ。誰が使うことになるかは知らないが、私が集めた素材と瞳の腕で作り上げた特殊な逸品だからな。ダンジョン管理局のお墨付きだぞ?」
「それは素晴らしいですね。すごい妹様をお持ちですね、ウィンク様」
さらりと出てきた衣織お姉さんの証言と、ただ褒めてくるラティナさんの言葉もあって、なんだか僕が褒められている気分になってくるよ。いやいや、褒められているのは瞳なんだから、僕がにやけちゃいけないと思うんだ。それなのに、僕の顔はついにへらと笑いを浮かべてしまっていた。
「まったく、プリンセスは妹君思いですな」
「本当ですね」
「兄妹だからな」
周りから言われて、僕はだんだんと恥ずかしくなってきた。
とりあえず、今日衣織お姉さんが持ってきてくれた服は、迷路の景品として採用されることになった。
あとは適当に話をすると、衣織お姉さんはこの日はおとなしく帰っていったよ。
バトラーと戦っていくかと思ったから、ちょっと残念だったな。




