SCENE142 服を作っておくれ
瞳を連れてダンジョン管理局に戻ってくる。
本当ならばここも中学三年生になるまでは立ち入りが強く規制されるところなんだが、今回は私と瞬のたっての希望ということで実現に至った。
まあ、瞳はここには来たことがあるんだがな、瞬のせいで。
「またここに来るなんて思ってもみなかったですよ……」
瞳は露骨に嫌な顔をしている。
話には聞いているのだが、瞬がダンジョンマスターとなったことで、家族である瞳も調べられたらしい。両親は免除されたようだがな。
結果は陰性ということで、瞳が無人ダンジョンに踏み込んでモンスター化することはないということだ。さすがにそうなるとおじさんとおばさんが気の毒すぎるよな。
「お待ちしておりました、衣織さん」
「谷地さん、部屋はご用意いただけましたか?」
「はい。それで、素材はどうしましょう」
「部屋に保存庫を用意して、そこに保存してほしい。このためにわざわざかき集めてきたんだ。無駄にしたくない」
「分かりました」
返事をした谷地さんは、他の職員に話して素材の保存庫を用意した部屋に運び込むように指示していた。まあ、冷蔵庫のようなもんだがな。
指示をし終えた谷地さんは、再び私たちの方へと振り返ってくる。
「それでは、部屋までご案内します」
「ああ、お願いする」
戸惑う瞳の手を引いて、私は谷地さんの後をついて行く。
車はトランクのカギだけ開けておいて、職員に素材を運ばせることになった。普通に売れば相当な金額になるのだが、さすがに私相手に盗むようなことはないだろう。一応日下さんが見張っててくれるようだがな。
谷地さんの案内でやって来た部屋は、まあなんというか普通の部屋だったな。
「窓はあるし、まあそこそこの広さがあるな」
「ええ、ただの会議室ですよ。それにしても、本当にここでするんですか?」
私が確認をしていると、谷地さんはなんだか心配そうに声をかけて来る。
不安なのは分かるのだが、私は谷地さんをしっかりと見てはっきりと言っておく。
「その通りだよ。瞳は自分の部屋で瞬のためにモンスター素材を使って服を作ってたくらいだからな」
「それはまた、すごいことをしますね……」
「そ、そんなことは……ないと思います」
私の説明を聞いて谷地さんは瞳を見る。その視線にびっくりしたのか、おどおどとしながら瞳は答えている。この様子はやっぱり兄妹だよなって思うな。
「探索者と一緒で、十六歳未満ではモンスター素材による影響を受けてしまうものなのですよ」
「えっ、そうだったんですか?!」
谷地さんがとんでもないことを言うものだから、瞳は目を丸くして驚いている。まあ、そういう反応になるよな。
でも、瞳は意外とそうでもない感じなんだよな。
もしかしたら、瞬がダンジョンマスターになったように、瞳にも別の特性があるのかもしれないな。両親はどう見たって普通の人間なんだけどな。
「とりあえずだ。今、服に使える素材をいろいろと運び込んでもらっている。この間のケイヴベアーの毛皮もあるし、アラクネの糸だってある。好きなように使ってくれればいいぞ」
「そ、そんな高級品……。いいんですか、衣織お姉ちゃん!」
「ああ、私の行動基準は、瞬と瞳のためにあるようなものだ。必要とあるならば、もっと面倒な素材だって取って来てやる。さすがにガルムの毛皮は無理だがな」
「ガルム……。この間のパラダイスの件のやつですか……」
「衣織お姉ちゃん、一体何をしでかしてくれたのかしら……」
私が自慢げに話していると、瞳も谷地さんも反応に困っているな。はははっ、また何かやってしまったというのかな?
とはいえ、のんびりしている間もないな。瞬がいつ迷路を完成させてしまうとも限らないからな。
「瞳」
「なに、衣織お姉ちゃん」
「すぐに作業に取り掛かってくれ。デザインは瞳に任せるからな。染色とか必要なことがあれば、私にすぐに連絡をくれ。百鬼夜行から人を連れてくる」
「ええっ、そこまではさすがに悪いですよ」
私が色糸と提案をしながら作業を始めるように言うと、瞳はとても困った顔をしている。
「そうですよ。染色なら私たちダンジョン管理局の方に職人がいますから、その人に任せて下さればいいんです。探索者にダンジョン以外の負担をかけるのは、私たちとしては不本意です」
谷地さんも大慌てで私を止めてこようとする。
ちっ、仕方ないな。ここはダンジョン管理局の顔も立てようじゃないか。
自分だけで瞬たちの世話を焼きたかったが、谷地さんの必死の訴えに私はそれを受け入れることにした。
「それじゃ、瞳の送り迎えはよろしく頼みますよ」
「ええ、それはお任せ下さい。瞳さんは女性ですので、日下に任せます。私ではあらぬ疑いをかけられかねませんからね」
「……確かにそうだな」
助手席に女子中学生を乗せていたら、確かに男性の谷地さんだと変な風な目で見る人はいるだろうな。悪いが思わず笑ってしまったよ。
「衣織お姉ちゃん、さすがに悪いですよ、そんなに笑っては……」
「いや、すまない。ちょっと私も過剰反応だったか」
「本当に過剰ですよ」
瞳に咎められて笑っていると、谷地さんには困った顔で言われてしまった。いや、本当に悪かったと思う。
とりあえず、これで瞬には報告できるというものだ。
あとは瞳がどんな服を作ってくれるかが楽しみだ。用事を終えた私は、後のことはダンジョン管理局に任せて、自宅へと戻ることにした。




