SCENE012 突然の訪問者
配信を終えてから数日後のこと、バトラーと魔法の練習に取り組んでいる。
僕はのレベルはまだ2。弱すぎるので、このまま探索者がやって来ることになれば、僕はおそらくあっさりとやられてしまうだろう。
この間の配信で、視聴者さんを少し魅了することができたようで、ダンジョンポイントは少しずつ増えてきている。でも、どんなダンジョンにするのかまったく思いついていなかった。
「今日はこのくらいでよいでしょう」
「はあはあ……。魔法って思った以上に疲れるんだ……。ゲームでいうところのMPが0に近付くってこういうことなんだね」
「げぇむとやらは分かりませんが、まあ感覚的にはそういうことですな。我らは魔力が尽きても死ぬことはありませんが、ステータスが大幅に下がってしまいます。そうなると格下にも簡単にやられるようになりますゆえ、常日頃から魔力には気を配っておくものなのです」
「なるほど……」
バトラーの話を聞いて、僕は魔力というものをなんとなく理解した。
ピキーン。
休もうかと思った瞬間、不思議な感覚が体を駆け抜ける。
僕はダンジョンの入口へと顔を向けてしまう。
「プリンセスも感じましたな。誰かがダンジョンに入ったようですな」
「みたいだね。危険な感じはしないけれど、どうしようかな」
「プリンセスのなさりたいようにすればよろしいかと。心配ならば我もついていきますしな」
バトラーが頼もしいことを言うので、僕はダンジョンに入ってきた人物たちを出迎えることに決めた。
僕はダンジョンの入口まで移動していく。
それにしても、この蛇の移動にはまだ慣れない。二本足で動いていた時の感覚があるせいで、蛇の体での移動がうまくいかない。
だからこそ、あの配信の時に、思いっきりこけちゃったわけなんだよね。
入口まで近付いてきた。
「話し声が聞こえてきますな」
「みたいだね。でも、入口に入ったところから動いてないね」
「そのようですな」
僕たちは少し遠い位置から様子を窺っている。
このダンジョンは途中で階段を設けたとはいっても、基本的に一本道だ。内装はシンプルで身を隠すところはその階段のところにしかない。
それにしても、さっきから入口できょろきょろとしていてなんとも落ち着かない。
「ちょっと声をかけてくる。もしもの時はバトラー、僕を守ってね」
「ちょっと、プリンセス。……仕方ありませんな」
僕は蛇の体を一生懸命に動かして近付いていく。普段何気に動いているけど、さすがに人と直に会うとなったら、緊張のせいでうまく進めない。
あれ、僕ってどうやって今まで歩いてたんだろう……?
急にうまく進まなくなったせいで、僕は混乱してしまう。
けど、入ってきた人たちが気になって、一生懸命に近付いていく。
「あのー、すみません」
勇気を出して声をかけてみる。
「わっ!」
「きゃっ!」
思いっきり驚かれた。なんかショックだよ。
入ってきた人たちはスーツ姿の男女だった。見るからにお役所の人って感じだよ。
「あのー、もしかしてダンジョン管理局の方ですか?」
「は、はい。その通りです。というか、私たちをご存じなのですか?」
「ええ、まあ。僕は元々みなさん側の人間ですから。今はこんな姿ですけど」
質問に答えたんだけど、二人とも完全に固まっちゃってる。あれ、僕の配信を見てきたわけじゃない……?
「あの、ダンジョンの調査に来られたんですよね。ここのことはどうやって知ったのですか?」
「あ、単純に通報があったからです。先日、ここに忍び込んだ子どもがいて、話を聞いた警察官からのですね」
「あ、ああ。あの時のかぁ……」
僕は思い出した。確かにあの時、友人だった男子学生が、警察官を連れてここにやって来ていた。
「それで、中央のお役所まで連絡がいって、今こうして調査に来られたと、そういうわけですね」
「まあ、そういうことです。ところであなたは、何者なのですか?」
「僕はこのダンジョンのマスターであるウィンクといいます」
僕が名乗った瞬間、二人が身構えた。聞かれたから答えただけなのに……。
「そんなに警戒しないで下さい。僕は挨拶に来ただけですから。まだできたばっかりのダンジョンで何もないですし、しっかり調べて頂いていいですよ」
「は、はあ……」
なんだろうかなぁ……。この反応に僕はすごく不愉快になった。
とはいえ、この人たちも仕事でここまで来たんだ。モンスター側には人権が適応されないし、不法侵入されても文句は言えない。とっとと調べてもらってお引き取りを願うことにしよう。
「先程も言いましたが、本当に何もありませんので隅々まで確認してもらっていい大丈夫です。僕たちは奥で待っていますので、ごゆっくりどうぞ」
僕はそうとだけ言い残すと、蛇の体を引きずってダンジョンの奥へと戻っていく。
ああ、勝手に人に入られた上に、好き放題にされるってこんなに気分の悪いことなんだね。僕がこう思うってことは、モンスターの中にも同じように思っている人がいるかも知れない。
僕とバトラーは、さっさとボス部屋まで戻る。
職員たちが無事にたどり着くまでの間、僕たちはダンジョンポイントを使って出したお茶でも飲みながらのんびりと待つことにしたのだった。




