SCENE127 気持ちを切り替えて
衣織お姉さんたちが帰っていき、僕はその日は何もする気が起きなくて眠ることにした。
さすがに、人を踏み台にしていた連中の話は、僕にとってはショックが大きすぎたよ。
バトラーとラティナさんには心配されたけど、僕は大丈夫だと言ってとにかく横になった。
ひと晩眠って、僕はすっかり元気を取り戻していた。
「ふわぁ~、よく寝たなぁ……」
背伸びをした僕は起き上がると、魔法を使って顔を洗う。
僕の種族であるラミア族は、闇と水が得意属性ってことだから、自分の顔を洗うのに魔法を使っている。
両手で器を作って、そこに水を出現させてそのまま洗うんだけど、これがすっごく楽で完全に習慣化している。
隠された小部屋から出てくると、ボス部屋ではバトラーが食事の準備をして待っていた。
「おはようございます、プリンセス。今日の朝食は準備できておりますよ」
「ありがとう、バトラー。えっと、ラティナさんはいるのかな?」
「ラティナ様でしたら、まだでございますよ。元々ゴーレム族はあまり動きませんのでね。ロックウェル家は伯爵でございますので、よく動くだけなのでございます」
「あっ、そうなんだ」
どうやらラティナさんはまだ寝ているらしい。ゴーレムって、確かにあんまり動いているイメージないもんね。
だけど、普段は起きていたから、ちょっと寝ているっていうのは意外だったかなって思う。
それでも、無理やり起こすのも悪いから、起きてくるのを待つかな。
しょうがないので、僕はバトラーと二人で朝食を食べることにした。
朝食も終わって、僕は魔法の練習をする。
運よくガルムを倒したからといっても、僕のレベルはまだまだ低い。ダンジョン管理局の管理下にあるとはいえ、先日のパラダイスの連中のように、敵意を持った人間が来ないとも限らない。だから、僕は魔法をもっと使いこなせるようにしておきたいんだよ。
「おはようございます。申し訳ございません、寝坊してしまいました」
練習をしていると、ラティナさんがようやく起きてきた。本人の言い訳からするに、起きてこれなかったのはただの寝坊らしい。
「おはようございます。寝坊だなんて珍しいですね」
「ええ、思ったよりもガルムのことが怖かったみたいです。平気なふりをしていたのですが、衣織様たちとのお話で恐怖が蘇ってしまったみたいでして……。ご心配をおかけいたしました」
ラティナさんは、寝坊したことを謝罪してきた。でも、僕たちは別に責めるつもりはないんだよね。心配にはなったけどさ。
原因を聞いたら、しょうがないって思うよ。
「それで、ウィンク様は一体何をされているのですか?」
「ガルムを倒したことでレベルアップしたから、その確認と魔法の訓練だよ。僕はまだ弱いから、自分で自分の身を守れるようになりたいんだ」
「そうなのですね。ウィンク様は、努力のできる方なのですね」
「まあ、うん。ダンジョンマスターでもあるから、強くないとっていうのがあると思うんだ」
ラティナさんが、両手を合わせて褒めてくるけれど、僕は単純に喜ばなかった。
それというのも、先日のパラダイスの連中の一件があるからだ。バトラーほどの実力はもちろん、ラティナさんの護石のような防御手段も持っていない。二人の力がなければ、僕はあっという間に殺されていただろうから、やっぱり強くならないとって思うんだ。
僕は、ラティナさんとの話を終わらせると、水魔法と闇魔法の攻撃魔法の練習を再開させる。
さすがにレベルが20個も上がれば、威力は上がっている。あれだけレベルの低い状態でもダンジョンの床を破壊できていたシャドウランスは、地面に開ける穴の大きさが確実に大きくなっていた。
「やはり、プリンセスには才能があると思われますよ。普通、レベルが一けたであれば、地面をあれだけえぐるという魔法は使えませんからな。それを考えれば、落とし穴ですら楽に作れそうなほどの威力にもなりますよ」
「落とし穴って表現は、ちょっと嫌だなぁ……」
バトラーが褒めてくれはするんだけど、その表現に僕は思わず顔を引きつらせていた。
なんで落とし穴なの。
そのことを思った瞬間、僕は唐突に思い出した。
「あっ、落とし穴で思い出したけど、ダンジョンの中に迷路を作るんだった」
「おお、そのような計画がございましたな。最近いじっておりませんので、忘れていたかと思いましたよ」
「分かっているなら教えてよ!」
淡々と話すバトラーに対して、僕はつい怒ってしまう。まさかそんな意地悪するなんて思ってもみなかったよ、もう!
「最近のプリンセスはよく考えごとをしますので、邪魔してはならないと思いまして、黙っておりました。まことに失礼を致しましたな」
バトラーはあんまり悪びれた様子には見えない態度で謝っていた。これはわざと黙ってた態度だよ。
僕たちからこの話題が出ると、ラティナさんは明るい表情をしながら手をポンと叩いていた。
「まあ、転移罠を仕掛けるっていうあの迷路のことですか。ウィンク様、ぜひとも私も参加したいです。よろしいでしょうか」
「ラティナさんもこのダンジョンの一員なので、僕に断らずに参加してもらっていいんですよ?」
「分かりました。ありがとうございます」
ダンジョンの運営に関われると聞いて、ラティナさんはとても喜んでいた。
ただ、このタイミングで僕のお腹がものすごい音を立ててくれた。魔法を使い過ぎてお腹が空いてしまったらしい。
結構大きな音だったので、僕たちはついおかしくて、思いっきり笑ってしまったのだった。




