SCENE126 それぞれの現実
バトラーが淹れてくれた紅茶を飲みながら、僕たちは衣織お姉さんと高志さんから、ギルド『パラダイス』の実態についていろいろと聞かされた。
そのあまりの内容に、僕はもちろんだけど、バトラーやラティナさんたちも絶句してしまうほどだった。
「そんな、衣織様のご友人まで犠牲になっていたのですか?」
「ああ。私がまだ探索者としての経験が浅かった頃の話だ。私は親から呼び出されて戻ったんだが、その時の友人はそのままダンジョンに残ってな。そこで、あいつらと出くわして……くっ」
衣織お姉さんは話をしながら言葉を詰まらせてしまっていた。つまり、そのくらい酷いものだったということだろう。
心の中を察するに余りあるので、僕はそのことにはあまり深く聞き入ることはしなかった。
「この世界とは違う異界のモンスターである我々ですら、さすがにそれは心の痛む話でございます。衣織殿の今の強さは、その時の経験があったからこそ身につけられたということでございますかな」
「……ああ、そういうことだな。あの時は友人の命を奪ったモンスターが憎いというだけだったが、まさかこんな形の悲劇だったとはな……」
衣織お姉さんは、そうとだけつぶやいて、黙り込んでしまった。
その表情を見る限り、衣織お姉さんにとってその体験はそれだけ大きな影響を残したということはよく分かる。
「すまないな。しんみりとさせてしまったようだ」
「いえいえ、構いませぬ。そのような事情があるなど、我々は分からなかったのですからな」
「そうだよ、衣織お姉さん。頑張ってきたからこそ、今回の結果が得られたんだよ」
「ふふっ、ありがとう」
僕たちが必死にフォローすると、衣織お姉さんは優しい表情で微笑んでいた。
「巻き込まれた俺はどうなるんだよ。ケガはさせられるし、隠密がなかったら殺されてたんだよ?」
話をしていると、高志さんが声を上げて文句を言い始めた。
確かに、パラダイスの問題を浮き彫りにするための餌として使われたんだから、高志さんとしては納得できるわけがないよね。
「だから、その保険をかけてラティナに護石を作ってもらったんじゃないか。結局別な形で失うことになったがな。だが、そのおかげで助かったぞ」
「あれは怖かったよ。なんなんですか、鬼崎とかいう男のあの強さは」
「私には分からんな。だが、人を食い物して強くなってきたやつだから。いざという時の力を残していたのかもしれない。まったく、どこまでも恐ろしい男だったな」
衣織お姉さんはギリッと強く歯を食いしばっているようだった。
多分、それだけ反撃を許してしまったことが悔しかったんだろうな。
「聞きましたよ。今回の悪事を暴く現場の事。あそこが衣織さんのご友人が亡くなられたダンジョンだったということを」
「えっ?」
高志さんが喋った内容に、僕は思わず反応をしてしまう。
「つまり、ご友人の仇を討つという、強い意志の表れだったということでしょうか」
「ああ、その通りだ。パラダイスの鬼崎どもがシャボテンダンジョンを攻略したという話が出てきたその直後だったんだ。私の友人が亡くなったという話が伝わったのは。見るも無残な状態で、遺品からでしか身元を特定できないくらいにな……」
「そんな……ひどすぎます……」
衣織お姉さんの話に、ラティナさんが泣きそうな表情を浮かべている。
「だが、シャボテンダンジョンが消えていなかったこともあってか、鬼崎どもの功績は次第とバッシングと変わっていって、私の友人のことは表に出てこなかったんだ。私の記憶とダンジョン管理局の記録以外にはな……」
衣織お姉さんの声が段々と小さくなっていってしまう。その声のせいで、衣織お姉さんがいかに悔しかったかということが読み取れてしまう。
あまりにも重い空気に、僕たちもなんて言っていいのか分からなくなってしまう。
「それにしても、シャボテンダンジョンですか。どのようなダンジョンなのですかね。配信を見てはおりましたが、もうちっと詳しく教えていただきたいものです」
様子を見かねたバトラーが、ちょっとだけ話題を変える。
衣織お姉さんもちょっと気持ちを持ち直したのか、バトラーの方へと顔を向けている。
「ああ、ダンジョン名の由来は、近くにある観光施設だな。あと、一階層はサボテンがうようよしている」
「サボテンですか。なんともこっけいなダンジョンですな」
「まあ、そういうな。そのサボテンから手に入る果肉は、女性たちの間では人気なんだからな」
「そうなのですね」
女性の間で人気と聞いて、ラティナさんが反応していた。ゴーレムとはいえども、ラティナさんは女性だものね。なんとも可愛らしい反応だ。
よく見ると、高志さんも同じようにラティナさんを見つめている。ただ、僕とはちょっと違うような感じがするのは気のせいかな。
不思議に思った僕だったけれど、衣織お姉さんの話に集中するためにすぐに気持ちを切り替えていた。
なんといっても、ダンジョンマスターとなってしまった僕にとって、他のダンジョンの話をいうのは人づてにしないと入手できない情報だからね。なので、それはとても気を入れて聞いていた。
なんかこうやって聞いていると、僕も他のダンジョンに行きたくなってしまうなぁ。
ダンジョンマスターとなってしまった現実が、僕にとってはとても悔しくてたまらなかったよ。




