SCENE122 画面の向こう側
衣織お姉さんたちの作戦が決行される日、僕は落ち着かない様子でボス部屋の中を右に左に動いていた。
ラミアの体に慣れたというのもあるけど、意外と簡単にUターンができるものだなって思ったよ。
僕はまったく落ち着くことができず、ラティナさんやバトラーになだめられつつ不安な時間を過ごしていた。
そんな最中、お昼を回ると僕の携帯電話が急に震え始めた。
「わわっ、ウィンク様、板が震えていますよ」
「えっ、ちょっと待ってて」
ラティナさんが驚いているようなので、僕は慌てて携帯電話に手を伸ばす。
画面を見ると、配信を開始したという通知が来ていた。
「あっ、チャンネルをフォローしていると、そのチャンネルが配信を始めた時に連絡が来るんですよ。ちょっと待ってて下さい、今すぐ画面を出しますから」
僕は携帯電話を操作して、配信の画面を出す。
ところが、配信が見れるかと思ったら、なんてことだろうかパスワードを聞かれてしまった。
「えっ、パスワード?」
予想していなかったことだったので、僕は思わず戸惑ってしまう。
その僕の様子を見たバトラーが、横から割り込んでくる。
「ああ、これはあれではないですかな」
「あれ?」
「ええ、衣織殿が申されていた、パラダイスとかいうギルドの悪行を垂れ流すとかいう配信ですよ。衣織殿のギルドとダンジョン管理局だけが見れるようにしているというやつですな」
「ああ、なんかそんなことを言っていたね。となると、パスワードは……」
僕は必死に衣織お姉さんと話をしていた時のことを思い出している。
その話というのは、衣織お姉さんがラティナさんの護石を頼って来た時に出ていた話だ。確か、僕にも見れるようにしてくれるという話だった。だから、その時に僕もパスワードを聞いていたはずなんだ。
「うーーん」
ところが、人間の記憶ってすんごく曖昧で、僕はまったくその時のパスワードを思い出せなかった。
「あっ、私覚えています」
その時、ひょこっと出てきたのがラティナさんだった。
それはすごいって画面を押させようとした僕だったけど、よく思ったらラティナさんはゴーレムだし、指が太い。こんな小さな画面が押せるとは思えなかった。
「ラティナさん、パスワードを教えてくれるかな。僕が押すから」
「はい、分かりました」
僕はラティナさんにパスワードを教えてもらい、無事に配信画面を映し出すことに成功した。
『あだっ!』
ところが、そこで映ったのは高志さんが暴力を振るわれているシーンだった。
「きゃあっ!」
ラティナさんが悲鳴を上げてしまう。
こうなるのも無理もない。画面の中では高志さんが蹴る殴るの暴行を受けているんだから。
本当にこれは酷いや。こんな連中が今までのさばっていたなんて……。さすが先日やって来たガラの悪い連中の親玉だな。
僕も普通に探索者になっていたら、こいつらの下につく可能性があったと思うと、体が震えてしまう。とにかく、そのくらい酷い連中だった。
その後も、僕たちは必死に耐えながら配信をじっと見つめていた。
サンダーウルフの登場からの一連の流れも、僕たちはとてもじゃないけれどまともに見ていられるものじゃなかった。
最後にはパラダイスのマスターは気を失ってダンジョン管理局の人たちに連行されていたけど、その間の様子は何度目を背けたか分からないよ。
「いやはや、なんと自己中心的な連中なのでしょうな」
「本当だよ。自分たちが手柄を上げるために、同行者を捨て石にしていたなんて……。こんなの絶対許せない」
さすがに僕も怒りが抑えきれなかったよ。
ただ、ラティナさんが渡していた護石のおかげで、最終的には悪いやつを懲らしめられたのでよかったと思う。
それにしても、高志さんってば護石が砕けてショックを受けすぎじゃないかな。ものすごく泣いてるよ。
「プリンセス。まだ終わっておりませんぞ」
「え?」
唯一画面を見続けていたバトラーが声を上げる。
再び画面に目を向けると、そこにはサンダーウルフなんて比にならないくらいの大きな狼が出てきた。なんだろう、このモンスターは。
「これはガルムですね」
「ガルム?」
名前くらいは聞いたことがあるんだけど、パッと思い出せない僕は首を捻ってしまう。
「サンダードッグ系の最上位のモンスターですな。全身に雷をまとい、辺りをがれきと消し炭の海にしてしまうモンスターですぞ」
「なんか手強そうだね、それ」
「当然ですよ。私たちゴーレム族の天敵ですからね」
「ええっ?!」
なんと、ラティナさんにとっては天敵らしい。そんな手強いモンスターが、なんであんなところにいるんだろう。
いろいろと疑問がわくんだけど、僕はとにかく配信を見守るしかない。遠くにいる僕たちにできることなんてないんだから。
僕たちが見守る中、衣織お姉さんが段々とガルムに押されて追い詰められていく。
そんな中、僕は無駄だと思いつつも、画面に向けて手をかざしていた。
「プリンセス、何をするつもりですか?」
「決まってるじゃないか。衣織お姉さんを助けるんだ」
「無茶ですぞ。そこで放てば携帯電話とやらを壊すだけです。おやめください、プリンセス!」
「嫌だ! 届いてくれ、シャドウランス!」
僕は、バトラーが止めようとするのも聞かず、無我夢中で画面向こうのガルムに向けて魔法を放っていたのだった。




