SCENE120 予想外の襲撃
しばらくして、シャボテンダンジョンには管理局の警備隊がやって来た。
ダンジョン管理局の警備隊は、引退した探索者たちで構成されている。引退したとはいっても、腕はあまり落ちていないからな。場所によってはこうやって平気でやってこれるんだ。
警備隊はギルド『パラダイス』のリーダーである木崎とその手下二人を拘束すると、私たちに挨拶をして退散していった。
だが、最後は一体何が起きたのか、私にもよく分からない。これは下僕くんに説明してもらうしかないな。
「おい、下僕く……」
「ああーっ!?」
私が振り返って事情を聞こうとすると、下僕くんの悲痛な叫び声が聞こえてきた。まったく、一体何があったというのだよ。
私の視線の先には、自分の手のひらを見ながら嘆く下僕くんの姿があった。
「ああ、ラティナさんからもらった護石が、粉々になっちゃってる……」
「あのゴーレムに渡してもらったやつか。そういえば、途中では発動させずにいた時があったな」
「はい……。あそこで暴行を跳ね返しては、作戦がうまくいかないと思いましたから。でも、ああああ……」
私の質問に答えながらも、下僕くんは粉々に砕けた石を前に嘆き崩れていた。まったく、どれだけ大事にしてたんだかな。
「なるほど。その護石のおかげで、鬼崎のやつは自分の攻撃力で跳ね返されたってわけか。まったく、さすが異界のモンスター、とんでもない能力の持ち主だな」
私は納得したように笑っている。
ただ、その横では下僕くんがずっと嘆き続けていた。さすがにうるさいが、今ばかりはそのままにしておこう。
私がその様に考えていると、色がやって来た。
「衣織さん、いい加減に配信をやめますかね」
「ああ、鬼崎どもが無事に連行されたからな。もう大丈夫だぞ、色」
「はい。それでは配信をやめ……」
色が配信終了に手を伸ばそうとした時だった。
「ちょっと待て。配信を止めるな」
「はい?」
私は何かを感じ取る。
急に真逆のことを言い出したものだから、色のやつは顔をしかめている。
「何かの気配を感じる。私が合図を送るまで、配信を切り替えないで待機していてくれ」
「は、はい。分かりましたよ」
私がずいぶんと鋭い殺気を放っているものだから、色はかなり身構えているようだった。
「下僕くん、君もできるだけすぐに逃げられるようにしておいてくれ。最初からタゲられないように隠密で姿を消しておくんだ」
「はい!」
私の声に、下僕くんは元気よく返事をしていた。
それにしても、何なんだ、この気配は……。さっき戦ったサンダーウルフとは比べ物にならない気配を感じる。
だが、私とてランカー探索者として簡単に退くわけにはいかないんだよな。下手に放っておけば、今後のダンジョン探索にも影響は出るからな。
「ガアアアアッ!」
私が槍から太刀へと装備をスイッチすると同時に、大きな咆哮が響き渡る。
のっそりと姿を見せたのは、さっき倒したサンダーウルフよりも体が大きなモンスターだった。
「ちっ、なんだあれは」
「ガルムです、あれは」
「ガルムだと?!」
下僕くんが叫んでいた。
なるほど、直感スキルで奴の正体を見破ったのか。
それにしても、この私が冷や汗を流すとは、こいつは相当にやばいモンスターだな。
「サンダーウルフよりも何ランクも上の魔物です。さすがに衣織さんでも厳しいんじゃ……」
「そうかそうか。ならば、バトラーを相手にしているとみてもいいわけだな。くくく、これは面白くなってきたな」
かなり下僕くんが心配しているようだが、私は逆に燃えてきたというものだ。
「よし。色、配信を切り替えてくれ。これはずいぶんと数字が取れるだろうからな」
「無理をしないで下さいよ、衣織さん。あなたに死なれては、百鬼夜行の損失は計り知れないんですからね」
「分かっている。危ないと思ったら、何があっても生き延びてやるよ。瞬や瞳を悲しませるわけにはいかないからな!」
私はそう言うと、ガルムへと突撃していた。こういうデカブツは先手必勝なんでな。
「だりゃあっ!」
私の太刀は、現れたばかりでこちらに気が付いていないガルムの右前脚を捉えていた。
「ギャウウンッ!」
大きな痛みが走ったことで、ガルムは痛みに苦しむ声を上げる。それと同時に、私の存在に気が付いて鋭い目を向けてきた。
ところが、その目と視線が合った時、私には先程の冷や汗を流した時のような感覚はなくなっていた。むしろ、このデカブツとまともにやり合えると楽しくなってしまった。
「そうだ、こっちを見ろ。私とお前、どちらが強いかサシで勝負といこうじゃないか!」
私は気持ちが昂り、ガルムと距離を取って挑発する。
先程の一撃もあって、ガルムは私を完全に敵認定しているようだ。唸り声をあげて、飛び掛かる機会を窺っているように見える。
私は太刀を構え、ガルムと正面きって向かい合う。
さあ、力比べといこうじゃないか。
「ガアアッ!」
私の太刀を握る手に力が入った時、ガルムが飛び掛かってきた。
こんなにわくわくするのはいつぞやぶりだろうな。
私は飛び掛かってくるガルムの動きに合わせ、太刀を構え直したのだった。




