SCENE119 パラダイスの鬼崎
状況を見て、助けた方がいいと判断した私は、サンダーウルフの前へと飛び出していた。
「槍破衝!」
「ギャウンッ!」
私が放った槍の一突きは、見事にサンダーウルフを貫いていた。
的確に急所を貫いたはずだから、これで倒せたはずだ。
「ぐっ……。てめえは、百鬼夜行の……」
目の前で私に対してにらみを利かせている男は、ギルド『パラダイス』のギルドマスターの鬼崎だ。雷に打たれて全身黒焦げになりながらも、まだこれだけ動けるのか。やり方には問題はあったが、さすがはそれなりに実績を積んできただけのことはあるな。
だが、同情というよりは哀れみの方が先に出てしまうな。
「さて、鬼崎。お前、さっき何をしようとしていた?」
「あ?」
手下の二人がまだいるので、私は槍を構えたまま鬼崎に質問をぶつけている。
満身創痍だろうが関係ない。それだけ、こいつがさっきやろうとしたことは問題なんだからな。
「おい、てめえら、何をしている! 早くこいつを……」
「こいつを、なんだって?」
「あ、う……」
鬼崎が部下に命令をしようとしたようだが、状況が目に入って言葉が出なくなったようだな。
後ろを見てみれば、鬼崎の部下の二人はしっかりと拘束されていたんだからな。二人の上には色のやつが腰を下ろしてこっちを見ている。
「衣織さん、これでいいんですよね?」
「ああ、大事な証人だからな。舌もかめないようにしっかりと口も塞いでおいてくれ」
「分かりましたよ」
私の命令を聞いて、色のやつはロープを追加していた。口にもしっかりさるぐつわをして、何も喋れないようにしていた。
さて、部下の連中を完全に沈黙させたことだし、鬼崎にいろいろ確認をしてみないとな。
「さて、鬼崎。この状況を説明してくれ」
「説明も何も、俺たちは普通にシャボテンダンジョンを攻略しに来たんだよ」
「ほう……? お前たち三人だけか??」
「見りゃ分かんだろがよ!」
私の質問に対して、鬼崎はいらついた様子で答えている。
「そうか。なら、これでどうだ?」
私は壁の方を見て合図を送る。
そこからは、セイレーンの下僕くんが姿を見せて近付いてきた。
「てめぇっ!」
下僕くんの姿を見た瞬間、鬼崎が叫んでいる。語るに落ちるとはこのことだな。三人で来たというのなら、下僕くんのことは知らないはずだからな。
「なんだ、知り合いか?」
知らないふりをして、私は鬼崎に質問をぶつけている。
「し、知らねえよ……」
私が質問をすると、鬼崎のやつは顔を背けながらバツが悪そうな顔をしている。
ふん。意外なことに遭遇すると、人っていうのは本音が出やすいんだよ。すでに墓穴を掘りまくっていることは、こいつも知らないんだろうな。
私は色の方へと視線を向けて、あるものを引っ張り出させることにした。
鬼崎の部下の上で座る色は、私の合図にこくりと頷いている。
その次の瞬間、色が使っている配信ドローンが姿を見せる。それを見た瞬間に、鬼崎のやつの顔色が分かりやすいくらいに変わった。
まったくすごいものだな。サンダーウルフの雷を食らって黒焦げになっているのに、顔色の変化がはっきり分かるとはな。
「くそっ、衣織、てめえ……」
「そういうことだ。なあ、下僕くん。こいつらに何をされたか話してくれ」
私はセイレーンの下僕くんに話を振る。
下僕くんは困ったような表情をしているが、私がじっと目を見てやると、決意をしたようにこくりと頷いていた。
「この部屋に入って、サンダーウルフを見つけた瞬間、こいつらに背中を蹴られました」
「ほう……。それはまた、酷いことをするものだな。一体どういうことかな、鬼崎」
私はぎろりと鋭い目を鬼崎に向ける。
さすがに証人と配信ドローンという二つの強力な証拠を前にしては、満身創痍の状態の鬼崎にはもう逆らうだけの余裕はないか。
「色の配信はダンジョン管理局が見ているから、そのうちここに職員がやってくるだろう。年貢の納め時だな、鬼崎」
私はトドメとなる言葉を放つ。だが、これが逆に鬼崎の力を呼び覚ましてしまったようだ。
「くそがぁっ!」
黒焦げになっていたはずの体が、みるみる回復していく。
こいつ、怒りで身体能力が上昇したのか?
「どうせ終わりっていうんなら、ここでてめえらをまとめてぶっ殺してやる! 最後くらい華々しく暴れてやるぜぇ!」
どこからともなく斧を取り出し、鬼崎のやつは私に襲い掛かってきた。
さっきまで満身創痍だったとは思えないくらい速い。
私が構えていた槍よりも早く、鬼崎の攻撃が振り下ろされる。
「危ない!」
だが、私の前に一つの影が飛び込んできた。
「おい、下僕くん!」
そう、セイレーンの下僕くんだった。
振り下ろされた鬼崎の斧が、下僕くんに命中する。
ところが、その時だった。
パキンッ!
何かが弾ける音がすると同時に、ものすごい衝撃波が放たれた。
「ぐわあっ!」
次の瞬間、鬼崎は大きく吹き飛ばされてダンジョンの壁にめり込んでいた。
一体何が起きたというんだ。
攻撃を回避できたのはよかったのだが、いろいろと分からないことが起きすぎて、私たちはしばらく動けなくなってしまっていた。
とにかく、ダンジョン管理局の職員たちがやって来るまでの間に安全を確保するために、私は色に頼んで鬼崎もぐるぐる巻きにしてもらったのだった。




